第三章
襲撃
ミストゲートの移動受付を済ませて転送の部屋に通された後。ラピスの指示で移動する順番はカルロ、フロート、レヴィス、ラピスとなっていた。
「大丈夫だとは思うけど念のためなー」
ラピスは他の面々を見回してにこっと笑う。
……移動が終わるまで、四人は一時的に分断される状態になる。仮に何者かがそれを狙ってレヴィスを襲ってきたとしても、こちら側ではラピスがいれば対処出来るし、移動先のロアドナではカルロとフロートがいれば何とかなる――というのがラピスの考えだった。
「それじゃ、先に行くよ」
「おー。後でなー」
転送台に乗ったカルロへひらひらとラピスが手を振る。
カルロは嬉しそうな表情を浮かべながら、光と共にその姿を消した。
「それでは次の方、どうぞ」
「はい」
カルロの転送が終了した後、呼ばれたフロートはレヴィス達から離れて転送台へと向かう。
「では、起動しますので動かないで下さいね」
「はい」
以前同様、石碑に埋め込まれた時空石に魔力が注がれて、台座に魔力が溜まっていく。
――……その時。
バチッと音がして、台座の周囲にスパークが発生した。
「……⁉」
同時に溜まっていた魔力が揺らぎ、中にいたフロートは驚いて周囲を見回す。
離れた場所にいたレヴィスやラピスも突然の出来事に表情を変えた。
「……な、何だ⁉ 魔力干渉……⁉」
白衣の担当者は動揺しつつも状況を把握しようと石碑を調べている。その間にも溜まった魔力は台座から溢れ――光となって部屋全体を覆う。
「フロート!」
「馬鹿! 待て!」
台座に駆け寄ろうとしたレヴィスを、ラピスは声を飛ばすと同時に足を引っ掛けてその場で転ばせた。
レヴィスは勢いよく床に突っ伏したがすぐに顔を上げて転送台の方を見る。
光の向こう、うっすらと見えていたフロートの姿は光が弾けるのに合わせて掻き消えた。
「おい! 何が起きた!」
空っぽの台座を確認したラピスは、いつものような間延びした声ではなく、鋭い物言いで担当者に詰め寄る。
一方の担当者は動揺を隠しきれない様子で石碑を調べていたが、しばらくして首を横に振った。
「わ、判りません……こんなことは初めてで……転送中にどこからか強い魔力干渉を受けて、予定とは違う場所に飛ばされたようなんですが……」
目の前で起きたことが担当者にも理解出来ていないらしい。
しどろもどろな口調で答える男性に対し、レヴィスはようやく立ち上がってそちらの方へ顔を向ける。
「飛ばされたって……どこに……?」
「それもすぐには……すみません……」
「すみませんで済むか! すぐに調べろ!」
ラピスは苛々しながら頭が回っていない担当者へ言葉を飛ばした。
「……全く。エルフの血が入っていてもドワーフは所詮ドワーフだな」
不意に聞こえた、透明感のある声。
その場にいた全員が弾かれたように声のした方向を見る。
――いつからそこにいたのか。
入口近く、壁にもたれかかる格好で男が一人佇んでいた。……そして、男を見たレヴィスの表情が動揺したものへと変わる。
「……クォル……さん?」
「待っていたぞ、レヴィス」
名を呼ばれた男――クォルは感情のこもっていない冷ややかな表情で青年に言葉を返した。
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