移動中の会話
ユバルのミストゲート設置場所へ向かう馬車の中。
「…………」
「…………」
レヴィスとフロートはお互いに黙ったまま、ずっと沈黙が続いていた。
正確には乗りこんだ当初レヴィスは話を振っていたけれど、昨日の一件を意識したフロートがあまり言葉を返す事が出来ず、そのうちレヴィスも少しずつ酔い始めて口を閉じたため、会話のない状態となっていた。
(やっぱりボッカから先に酔い止めをもらっておくべきだった……)
馬車の天幕を仰ぎながら、レヴィスは薬を受け取るのを後回しにしたのを後悔していた。
本来ならペルティガの試験が終わった後、宿屋に戻って出発前に薬をもらう予定だったのだが、フロートの事もありレヴィス達はそのままユバルへと移動。
荷物はフウマの部下が回収したため、ボッカ達に会うことなく宿屋を出てきたのである。
(
そう思いつつちらりと対面に座る少女へ視線を向けるが、相手はその瞬間に顔を真っ赤にして目を逸らす。
……頼もうにも、どうにも頼みにくい。
レヴィスは小さく息をついてから再び天幕を仰いで目を閉じた。
「あの二人、何かあったのかな」
何の声も音も聞こえない後方へ一瞬視線を向けながらカルロは小さな疑問を口にするけれど、隣に座っているラピスはあまり興味がなさそうだ。
「さぁー? まあ何かあっても別に良いんじゃないかー? あいつらだって子どもじゃないんだしー。ボクらが深く踏み込む必要はないと思うけどー?」
「…………」
前髪をいじりながら発せられたラピスの言葉にカルロはしばし口をつぐみ。
それから手綱を動かさないように持ったまま視線だけでなく顔を後ろへ向けた。
「トレヴァン! 不純異性交遊なんかしたらすぐ国へ報告して相応の対処をしてもらうからな!」
「してない! 馬鹿かアンタは!」
ぱっと目を開け、レヴィスは講師に向かって乱暴な言葉を返す。
向かい側ではフロートの顔がこれ以上ないくらい真っ赤になり、御者台からはラピスの抑えきれていない小さな笑い声が聞こえてくる。
「……ったく、オレだってラピスとまだそういう関係になってないのに……」
カルロがぶつぶつと不平をもらす一方、ラピスが冷ややかな笑顔で視線を横に移した。
「んー? 『まだ』ってどういう事かなー? 言っておくけどオマエがボクに手を出したら犯罪だからなー」
「いやいや! 見た目は子どもかもしれないけどラピス大人でしょ! 何の問題が⁉」
「大ありだ馬鹿ー。そんなだから教え子に馬鹿呼ばわりされるんだこの大馬鹿者ー」
「そ、そんなに連呼しなくても……」
「……おい、フロート」
御者台でかわされる会話を聞きつつ、レヴィスは正面へ視線を戻して少女の名を呼ぶ。ビクッと肩を震わせつつも顔を向けてくるフロートの頬はやはり赤い。
レヴィスは頭を掻きながら立ち上がると少女の隣へ腰を下ろし、顔の赤みを強めてこちらを見るフロートの肩へ頭を預けた。
「!」
青年の行動にフロートは驚いて体を震わせたが、レヴィスはそのまま少女の手を握る。
「意識するなとは言わないけど、過剰反応はやめてくれ。……こっちが逆にそれ以上を意識するから」
「……!」
ギョッと表情を変えたフロートに対し、レヴィスは静かに目を閉じた。
「……ごめんなさい」
「……ん」
しばらくして、耳に入った小さな声にレヴィスは短く言葉を返す。
……術を使われている訳ではないが、触れている部分から伝わる温もりが心地よくて、少しずつレヴィスの意識は深い部分へ落ちていく。
「レヴィス君……?」
「…………」
フロートは声をかけるけれど、その問いかけへの回答は小さな寝息だった。
規則正しい寝息をたてている青年の髪を空いている方の手でそっと撫でた後、自身も青年の方に頭を寄せて目を閉じる。
「……おー。仲の宜しい事でー」
「え? ……あっ!」
静かな車中を覗き込んだラピスがニヤニヤと笑い、それに気付いたカルロが声を上げた。
とはいえ流石に眠っているのを邪魔するのは憚かれたらしく、それ以上は何も言わずに正面へ意識を戻す。
……ただし、ミストゲートに到着して起きてきた二人に対し苦言と愚痴を口にして。
ラピスに「オマエうざいなー」と言われて一気に落ち込む事になったのだった。
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