調査

 日中にも関わらず、光が入らず薄暗い廃墟の中。


 ラマは床に溜まった砂利や埃に足跡をつけながら歩いて行く。視線の先にはラマのものよりもひとまわり小さい足跡があり、それは建物の奥へと向かっていた。

 しばらく進むと開けた大きな部屋があり――追っていた足跡はそこで途切れている。

 ただし、床には足跡の他に何かが倒れたような跡が残っていて、この場所で何かが起こったのは容易に想像出来た。


「エリル、どうだい?」

 ラマは床から視線を外し、後ろを振り返って問いかけの言葉を口にする。それに対して後方にいた女性は水色の髪を揺らしながら首を横に振った。

「駄目ね。アリーシャさんの魔力の痕跡は僅かに残っているけれど、ここで途切れてる。時間が経ち過ぎていて追跡は無理だわ」

「他に何か判った事はある?」

「……少し待って」

 エリルはすっと目を閉じて意識を集中させる。


 ――その瞬間、部屋の中全体に魔力の波が走った。


 空間に漂う魔力を検知・精査するためのスキャン魔法だ。

 今では術式も公開されて色々な場所で使用されているが、元々はレヴィスの母親――ウィルシアが構築した魔法でもある。


「…………」

 しばらくしてエリルは目を開き、そのまま視線をラマへと向けた。

「ものすごく薄くて、誰のものなのか特定は出来ないけど……アリーシャさんのものとは別の魔力を感じたわ。誰かと会っていたのは間違いないんじゃないかしら」

「そうか……」

 その結果を聞いたラマは顎に手を当てて、考え込むように視線を下に落とす。

「監視の目を潜りぬけて抜け出して、こんな場所で誰かと会って……一体、何をしようとしてたのかしら」

「…………」

 女性が静かに呟いた声に顔を上げたラマの表情は厳しいもので、エリルは僅かに肩を震わせた。


「レヴィスの魔力を暴走寸前まで追い込んだというし……好奇心旺盛なところは元々あったけど、もう少し深く調べないといけないかもしれないな」

「……そうね」

 同調して頷いたエリルだったが、厳しい表情のままのラマの姿に小さく微笑みを零した。

「……何だい?」

「何て言うかすっかり保護者が板についているなって思って。……七年前、封印の儀式を止められなかった事……彼等を助けられなかった事、まだ後悔してる?」

「…………」

 気遣うように笑うエリルの言葉にしばし口をつぐみ――それからラマは自嘲の笑みを浮かべる。


「これは一生かかっても消えないよ。だからこそオレはレヴィスやクレアをしっかり守らないと……フィード先輩やウィルシアさんの代わりにね」

「そう」

 どこか泣きそうにも見える笑みへ短く言葉を返し、エリルはくるりと身を翻すと来た道を戻って歩き出す。

「気負うのはいいけど気負い過ぎて潰されないようにしてね」

「うん、判ってるよ」

 先を歩く女性から投げられた言葉に、ラマは小さく笑って返事をした。

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