キモチ
「大丈夫か?」
少女の体を支えながら青年は心配そうな表情で視線を落とす。一方の少女は息を整えるように深呼吸を何度か行なっていたが、しばらくしてふふっと楽しそうに笑った。
「えっと……大丈夫……か?」
先程とは少し違う意味合いを込めたレヴィスの言葉にフロートは笑ったまま「大丈夫」と返事をする。
「ごめんね、いきなり笑って……魔力って面白いなって思ったから、つい」
くすくす笑いながら話す少女にレヴィスは少し首を傾げる。
「……面白い?」
「うん。法力と違って多面性があるというか……同じもののはずなのに感覚的に色んな印象を受けて、面白いなぁって」
「そうか? ……まぁ、四大元素とかに変わる源になるものだし……そういう印象を受けてもおかしくはないか……」
口元に手を当てて自問自答しているレヴィスに対し、フロートは微笑んでから再び青年の胸に身を寄せた。
「何となくだけど魔力がどんなものか判った気がする。有り難う」
「……なら良かった」
お礼を述べるフロートへレヴィスも言葉を返したが、間近にいる相手を直視出来ず、その視線は宙をさまよっている。
胸に顔を埋めている少女からその様子は見えないはずだが、何となく察したのか眼下でくすりと笑う声が聞こえた。
それから少し照れたような声でフロートは小さく呟きをもらす。
「……やっぱりレヴィス君といると落ち着く」
その言葉にレヴィスはドキッとして――ぐっと息を呑み込んだ後、少女の体に腕を回して抱え込んだ。
僅かにフロートが肩を震わせたのを感じながらも、込める力はそのままにレヴィスは言葉と息を同時に吐く。
「俺も……お前といると安心するよ」
「……え?」
本当の事を言うとレヴィスが発した言葉をフロートはちゃんと聞いていた。ただ、レヴィスには悪いが耳に入った言葉が信じきれなくて思わず疑問の声が口をついて出てしまっていた。
内心慌てるフロートを余所に、覚悟を決めたらしいレヴィスの言葉は続く。
「判ってると思うけど……俺のせいで里の皆が亡くなってる」
「……うん」
今のフロートの位置からレヴィスの表情は見えない。
少し動いて上を向けば確認出来るけれど、それをしてはいけない気がして。フロートは黙ったまま動かずにじっと次の言葉を待った。
「だから……俺は誰かの側にいてはいけないんだって思ってた。そんな資格もないし……何より誰かの近くにいて、その誰かをまた失うんじゃないかって不安がどうしても拭えなくて、一人でいる方がずっと楽だった」
「…………」
淡々と紡がれる、独白に近い言葉をフロートはただ黙って聞いている。
……体を動かすだけではなく、何か言葉を発する事すら躊躇われた。
「初めは自分に近付いてくる奴が本当に嫌だったよ。ほっといてくれればいいのにって思ってた。……でも、クレアが……妹がいて、ラマ様がいて……アカデミーではボッカが近くにいて……距離を置こうとしても遠慮なく踏み込んで来てさ。……気がついたらいるのが当たり前みたいになってて……極めつけは俺のこと好きだとか言う奴が出てくる始末だ」
そこでレヴィスは小さく笑い、言葉が途切れた瞬間にようやくフロートは口を開く。
「……別に告白されるの、初めてじゃないでしょ?」
フロートとて色恋沙汰に興味がない訳ではない。噂で聞いたレヴィスの話の中にはそういう話もいくつかあった。
「全く知らないような子からされた事はあるけど、ある程度接した上でそう言ってくる奴はいなかったよ」
「…………」
どこか冷めたような口ぶりにフロートは再び口を閉じる。
これまでレヴィスの外見で告白する女の子はいても、踏み込もうとして距離を置かれた段階から更に踏み込んだ女の子はいなかったのだろう。それは同性も同様で、それでも踏み込んできたのはボッカだけだったに違いない。
「正直、俺が誰かの側にいるのは……死んだ皆からすれば許せない事かもしれないけど……それでも、妹がいてくれて、ラマ様やボッカがいてくれて……誰かが側にいてくれる事に安心してもいたんだ。こんな俺でも、一人じゃないんだって思えた」
妹のクレアにはもちろん、ラマやボッカにも言えなかった事をひとつずつ、レヴィスは言葉にして吐き出していく。
「お前に告白された時も……動揺もしたけど、嬉しかった。俺がどういう奴か知ってて、それでも好きだって言ってくれた事……本当に、有難う」
ただ吐き出される言葉をフロートは何も言わず――いや、何も言えずに聞いていた。
言いたい事はあるけれど、上手い言葉が浮かばない。
「そんな資格はないかもしれないけど……もし、許されるんならこの先も……側にいてくれる人達と……フロートと、一緒にいたい」
そこで一度途切れた言葉と同時に、レヴィスは腕に力を込め、早鐘のように打つ心臓を抑えるように深く息を吸って呑み込む。
「……少し遅くなったけど……俺も、お前の事が好きだよ」
少女を抱き寄せながら紡いだ言葉は部屋に響き、そして静寂の中に掻き消える。
「……有難う」
告白して一週間。
ようやくもらえた、一番欲しかった言葉に。
青年の胸に顔を埋めたまま、フロートの小さな呟きが口からもれた。
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