幼馴染推参ッ!!
スマホの画面に目を向けると、滅多に自分から電話なんて寄越さない幼馴染の
「なんだよ。奈子から電話なんて珍しいな」
「あのね、わざわざ忘れ物してること教えてあげるために電話したっていうのに、その態度はなんなのよ」
「忘れ物?」
「課題のプリントが机の上に置きっぱなしだったんだけど。この私がわざわざ届けに来てやったんだから、ありがたく思いなさい」
窓の外から下を覗くと、玄関の前で二階にいる僕をじっと見上げている奈子の姿がを見つけた。忘れたプリントを
奈子とは幼稚園から高校までずっと一緒で、いわゆる腐れ縁というやつだった。くしくも実家が隣同士な事もあって、いつからか家族ぐるみの付き合いが続いている。
さすがにここ最近は付き合いこそ減ってはいたものの、年末年始には必ず一緒に近所の神社に初詣に出かけたりしていた。
しかしそれも、年齢的にそろそろ潮時ではないかと考えている。
――奈子の奴、俺のことをイジるくせにやたらとつきまとってくるのなんとかなんないのか。いい加減周囲から勘違いされて困るんだよ。
学校には(僕にはとても信じられないけど)奈子のことを気に入っている輩が多いことは知っている。とはいえ外面がいいだけで、俺にだけ見せる阿修羅のごとき本性は今のところ誰にも知られていない。
奈子からよくイジれてる僕は、なにかにつけて彼らから目の敵にされていた。不本意にもほどがある。
「早く取りに来い」
「アイアイサー。今から取りに行くよ」
――まったく、少しは自分の影響力というものを自覚してほしいもんだ。
溜息を吐きながら電話を切ろうとした瞬間――それまでベッドの上でバリボリ菓子を食い散らかしていたエステルが、「これか」とウチの親父みたいに、小指を立てながら尋ねてきた。
無表情なのが余計に腹が立つ。感情が死んでやがるのか。
「アホ、違うわ」
「……もしかして、部屋に誰かいるの?」
「へ? ああ、うん。クラスメイトがな」
「へえ〜友達がいない望の家に、〝私〟以外の人間が遊びに来てるんだぁ。ふーん。本当かなぁ?」
「は、はは。僕にだって友達の一人くらいいるし」
やけにトゲのある言い方に、見上げてくるジト目は僕の発言を完全に疑っていた。
奈子の言う通り学校での僕は、
でも考えてみてほしい――万が一にも幼馴染に、小学一年生とさほど変わらないガキを部屋に連れ込んでいるなんて勘違いされた日には、社会的な死も同然。
「なによ、私に見せられないナニかを隠しているわけ?」
「え、いや……」
「気が変わった。望の部屋に届けに行くから」
「は?」
玄関からガチャガチャと音が聴こえるとインターホンが鳴ってお袋と挨拶を交わす声が聴こえた。
「ヤ、ヤバい! おい! 何処かに隠れてくれ!」
「なんで私が身を隠さなくてはいけないんですか」
「頼む! じゃないと俺が死ぬんだよ! 社会的に!」
「それならそれで魂をいただけるので、一石二鳥ですけどね」
二階に上がってくる足音に縮み上がりながら、すきなだけ菓子を食べさせる約束をしてなんとかクローゼットに押し込むと同時に、荒々しく扉が開かれた。
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