呼び寄せた代償
おかしいな――小悪魔なお姉さんに甘やかしてほしかっただけなのに、僕の眼の前にいるのは、ベッドの下に隠していた秘蔵コレクションのエロ本を目敏く見つけて、寝転びながら読み漁っているガキなんだけど……。
「ガキガキとおっしゃいますけどね、こう見えて人間の年齢に換算すると二百歳なんですよ」
人の心を読めるチート持ちかよ。そのうえロリババアなのかよ。神も仏もないじゃないか。
「まだ神や仏にすがったほうがよかったんですよ。悪魔に頼んたのが運の尽きです」
「うっさいわ。なんだよ……お姉さんじゃないうえにロリババアなんて、一部のオタクにしか刺さらない性癖だろ……。これじゃあ小悪魔なお姉さんじゃなくて、小さい悪魔を呼んだだけじゃないか」
喉が渇いたと言うので、仕方なく持ってきてやったジュースをストローで飲んでいたガキは、いつの間にか帰省した大学生のように僕の部屋で寛いでいる。
「あのさ、頼むから今からでも〝チェンジ〟ってできないの?」
「そう言われましても、あまりに思春期を拗らせた童貞の願いをどう叶えてやるかで、地獄の悪魔たちも困り果ててたんですよ。それで協議の末に私が遣わされたんですから、感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはありません。ちなみにチェンジはなしで」
「いやね、高級おせち頼んだら中身スカスカだったときくらいにこっちは打ちひしがれてるんだよ。なんなら今にも膝から崩れ落ちたい精神状態のところをなんとか堪えてるのよ。お願いだからさ、何でもするから帰ってくれない?」
「可哀想な人間ですね。おーよちよち」
エロ本に出てくるお姉さんを「胸デカすぎ(笑)」と、ケツを掻きながら屁をこく悪魔の姿に、溢れる怒りで血涙を流して魂の叫びが我が家に
「こんなのあんまりだぁぁぁぁ」
✽
――これはもうどうしようもならない。
元いた世界に帰る気は、さらさらない悪魔を前に、放心状態でいた僕はふと恐ろしい事実に思い至った。
「おい。ガキ」
「私にはエステルという名前があるので、今後はその名を読んでいただけますか。ガキにガキ呼ばわりされるのは業腹ですので」
「……じゃあエステル。一つ大事なことを尋ねるけど、召喚の儀式は百歩譲って成功したことにしよう」
「ですから成功してるんですって。それがなにか?」
「それがなにかじゃねえよ。大事なことだよ。つまり僕は願いが叶った代償を、というか願いなんてそもそも叶ってないんだけど、それでもエステルに支払わなければならないってことになるんだよな」
もはや僕より部屋に馴染んでいるエステルは、勝手にベットの上で寝転びながら菓子をボリボリと食っていやがる。
ああ……シーツの上がカスだらけ……。 マジでコイツいったい何をしにやってきたんだ。
「貴方が仰るとおり、願いを一つ叶える代償に、死後の魂を頂く契約は私が召喚された段階で締結されています。一応言っておきますけど、悪魔との契約を破棄できるなんて思わないほうがいいですよ」
小さな体躯からはおよそあり得ない迫力にたじろぎ、冷や汗が流れ落ちた。
「それは、つまりどういう目に遭うんだ」
「法廷で争いましょう」
「異議アリッ! 意外と地獄ってシステマチックなんだな」
とまあ召喚に失敗した上に、死後に魂を取られる現実から目を背けて会話をしていると、ポケット中でスマホが震えた。
取り出すと幼馴染からの着信だった。
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