第11話 無双シーンが王都中に中継された
ビーッ!
ビーッ!
ビーッ!
「な、なんだっ!?」
とある王都内の集合住宅。
長さ15センチほどの魔鏡からけたたましい警告音が鳴り、表面に文字が浮かび上がる。
【大規模なスタンピードが発生!! 王都住民は警戒体制に移行せよ!!】
「またか……」
真っ赤な文字を見て、顔を引きつらせる住人。
この魔鏡(ミラース・マジック・ホロゥ)はギルドから王都の全世帯に支給(有償で)されたアイテム。
大規模スタンピード発生時の避難誘導を円滑に行うためだと説明されているが、様々な費用が必要で正直いって迷惑だった。
【南西街区の第2、第3砦が対処する】
【南西街区の住人は至急支援物資を砦詰所に届ける事】
【これより日の出まで、不要不急の外出を禁ずる】
【また、王国法第72条により、魔鏡の動作を止めたものは処罰される】
次々とメッセージが魔鏡に映し出される。
住民を守るため、と言いつつギルドへの物資供与を強制され、監視下に置かれる。
うんざりするが、ギルドが対処してくれなければ自分たちはモンスターに殺されるだろう。
ヴンッ
恐怖に震える住人の前で、月明かりに照らされた城壁外の様子が映し出された。
「こ、これは!?」
スタンピードの様子を目にすることはめったにない。
住人は、魔鏡に映った映像を食い入るように見つめるのだった。
*** ***
ガラガラ、ガコン
孤児院前の広場の入り口に設置された、鉄製の引き戸をしっかりと閉める。
スタンピード発生の一報があってから30分ほど……俺たちはなんとかスラムの住人たちの避難を完了させ、迎撃態勢を整えていた。
ドドドドドド!!
モンスターの群れはもう城壁の間近まで迫っており、
月明かりに照らされた連中の姿がはっきりと見える。
コボコボ!
ニンゲンドモヲチマツリニアゲロ!
ゴブゴブ!
オスハエサ、メスハナエドコニスル!
マチガエルナヨ!
粗末な鎧を身に着けた、身長130㎝くらいの小鬼の群れ。
コボコボ、タノシミダゼ!!
錆びた剣を掲げ、下卑た雄たけびを上げている。
「……ギルドが解析した通り、主力はゴブリンとコボルドのようですね。
1体1体の力は大したことありませんが、とにかく数が多いのが厄介です」
「奴らは人間や亜人族の村を襲って略奪を繰り返し、女性を攫って苗床にするんです」
「うへぇ」
大剣を構えるアイリスの表情は厳しい。
ゲームではゴブリン・コボルドと言えば雑魚敵の代表格だが、この世界ではそうはいかないようだ。
コボコボゥ!!
群れの先頭にいたコボルドが、孤児院に繋がる階段を駆け上がってくる。
「通しません!!」
ザンッ!!
ギャオオンッ!?
アイリスの大剣の一撃で真っ二つになり、階段を転げ落ちるコボルド。
ヒルムナ、ヤッチマエ!
オオ、オンナガイルゾ!
ニンゲンノニオイガ、タクサンスル!
仲間があっけなくやられたというのに、歓声を上げ階段へ殺到するモンスター達。
オレサマガイチバンノリダ!
一部の小柄なゴブリンは、階段を使わず城壁をよじ登り始めた。
「くっ、マズいですね……」
焦りを隠せないアイリス。
彼女の剣技をもってすれば、コボルドやゴブリンは物の数じゃない。
俺の戦技複製(ダビング)で彼女の技をコピーすれば、100体くらいなら倒せそうだ。
(だがこれでは……)
闇の向こうから次々にモンスターが湧き出てくる。
このままでは、数の暴力で押し切られてしまうだろう。
「ギルドの援護は、まだ来ませんかっ?」
アイリスの話では、冒険者ギルドの助力が得られるとのことだったが……。
ババババッ!!
次の瞬間、城壁の上から何条もの光が放たれ、周囲を昼間のように照らす。
ナンダッ!?
「!!」
目を凝らせば、城壁上に点在する砦の窓にマジックロッドを持った数人の魔法使いらしき姿が見える。
彼らが光の魔法を使ったようだ。
ゴゴゴッ
砦に据え付けられたバリスタが動き、モンスターの群れに照準を合わせる。
バシュッ!
放たれた巨大な矢が、数体まとめてゴブリンを貫く。
威力は絶大だが、とにかくゴブリンとコボルドの数が多い。
ヒルムナ!
バリスタの攻撃で一瞬引いたモンスターたちだが、群れのボスらしき巨体ゴブリンの指示で、再びこちらに向かってくる。
「くっ!!」
アイリスの剣技と俺の戦技複製(ダビング)で、どこまでモンスターの数を減らせるか。
ブブッ
厳しい……そう思った時、冒険着の胸ポケットに入れていた魔鏡が振動する。
何事かと魔鏡を取り出すと、表面に映像が映っている。
光に照らされたゴブリンとコボルドの群れ。
大剣を構え、群れに対峙するアイリス。
「って、これは!?」
明らかに上空から撮られた映像だ。
「どうやら、ギルドはスタンピードの様子を王都の皆さんに見せるつもりのようです」
「そ、そんなことが出来るのか?」
「通信魔法の応用で、魔鏡から魔鏡に魔道絵を送れるんです。動く絵は魔力の消耗が大きいらしくて、遠くには送れませんが。
彼らの意図が分かりませんね……」
(やはり”配信”ができるのか!)
魔法ってすごいな……思わず感心する。
「って、魔法だ!」
魔法で思い出した。
ゲームで集団を攻撃する手段といえば魔法である。
アイリスの魔法を戦技複製(ダビング)でコピーしまくれば、モンスターの集団を殲滅できるんじゃないだろうか?
「アイリスって、何か攻撃魔法使えないの?」
「え、魔法ですか?
わたし魔法はあまり得意じゃなくて……ファイアーボールくらいなら。
でも、数発撃ったら魔力切れになっちゃいますよ?
これほどの数が相手では……」
「いいから、使ってみて!」
「!!
そうか、タクマさんのスキルならっ!」
彼女も俺の意図を察してくれたようだ。
アイリスの表情が明るくなる。
「それじゃ、行きますっ!
ファイアーボール!!」
ボオオッ
勇ましく突き出した掌の先に、バスケットボール大の火球が生まれる。
ごおおおっ
ズドオオオオンッ
火球は壁をよじ登っていたゴブリンとコボルド5体を巻き込み、灰にする。
(いけるっ!!)
これだけの威力があれば、モンスターの群れを殲滅できる。
そう判断した俺は、スキルブックを開き、右手を空に向かって振り上げる。
出し惜しみは、もちろん無しだ!
『戦技複製(ダビング):ファイアーボール×100!!』
ボオオッ
ボオオオッ!
ボオオオオッ!!
無数の火球が、俺の頭上に生まれる。
「いけええええええええっ!!」
ぶんっ
ごおおおおおっ
右手を振り下ろすと、無数の火球はモンスターの群れに向かう。
ズッドオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
巨大な爆炎が巻き起こり、
数百体に及ぶゴブリンとコボルドを、きれいさっぱり焼き尽くしたのだった。
「…………はへ?」
「う、嘘だろ? あれだけいたモンスターが一瞬で……」
「信じられない!!」
「タクマの旦那、あんたすげえよ!!」
スラムの住人たちにもみくちゃにされる。
『……うおおお! なんじゃこりゃあ!?……』
『……いったい何が起きているの!?……』
『……わああああああああっ……』
気のせいか、城壁の向こうからも大勢の人たちが叫ぶ声が聞こえる。
うん、やっぱり少しやりすぎたかもしれない。
カオスな空気を何とかしようと、俺は上空に視線を向ける。
きらりと光を反射する、小さな鏡。
おそらく、あれが魔鏡に映像を映しているのだろう。
「孤児院を手伝っている転生者のタクマです。
アイリスの魔法のおかげで、モンスターを殲滅できました。
凄かった・面白かったと思われましたら、お気に入り登録……は無理でしょうけど、レンディル孤児院に寄付をお願いします」
住所(アドレス)はこちら!」
つい、いつもの癖でカメラにアピールするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます