第6話 ギルドの横暴
*** 翌日 レンディル王国冒険者ギルド
「おい、エール早く持ってこいや!!」
ギルドに併設された酒場で朝から飲んだくれていた冒険者の男が、怒声と共にジョッキをぶん投げる。
がしゃあああああん
「ひいいっ、た、ただいまっ」
給仕を務める獣人族の女性が慌てて返事をした。
砕けたジョッキの破片が当たったのか、額に血がにじんでいる。
「早くしねえとぶち犯すぞ!!
俺たちがいないと生きることすらできない劣等種族がよぉ!!」
「も、申し訳ありません、ゲース様!」
脱兎のごとく厨房に逃げ込む女性。
「まったく……これだから亜人族は使えねぇ!」
お人好しな現レンディル王の布告で、亜人族をギルドや役所で働かせているのだが……。
「低能力で頭もワリィ連中の生活費を、なぜ俺たちの稼ぎから払ってやる必要があるんですかねぇ!」
もともと人間族と亜人族の間には圧倒的な能力の差があり、あらゆるスキルを訓練で身に付けられる人間族に比べ、一部の例外を除き、種族に応じた固有スキルくらいしか身に付けられないのが亜人族だ。
人間族が街に城壁を築き、次々と開発する新スキルでモンスターを狩っていなければコイツらはとっくに滅んでいただろう。
「ま、その分あっちの方は具合良いのが多いがな」
「ボスンのアニキも好きっすねぇ」
ねめつけるように尻尾が生えた女性の尻を凝視する眼帯の男。
鋼のような筋肉を纏ったこの男はレンディル王国冒険者ギルドのトップ冒険者で、実質的にギルドを取り仕切っている。
「それで、
エールを運んできた女性の尻を鷲掴みにしながら、ゲースに尋ねるボスン。
「テシタの奴から魔導絵が送られてきましたぜ」
懐から長方形の鏡を取り出しテーブルの上に置くゲース。
ニポンからの転生者が数年前に作った通信用の魔道具で、魔鏡(ミラース・マジック・ホロゥ)と呼ばれるものだ。
レンディル王国冒険者ギルド専用のメッセージボードには、テシタのコメントと共に1枚の魔導写真が貼り付けられている。
「ふうん?」
エールをあおり、興味深そうに魔鏡を覗き込むボスン。
地面に転がっているのは確かに土竜の死骸で、傍らに立っているのは道楽姫と呼ばれるアイリス。
「道楽姫に土竜を倒すほどの力はなかったはずだが」
魔導写真をよく見れば、土竜はバラバラに切り裂かれている。
アイリスの剣技はBランク相当の魔法剣で、土竜を倒せるほどのレベルではない。
「ウチのギルドにいたら中の下レベルっすね」
アイリスはシルフ族とエルフ族のハーフで、亜人族には珍しい戦闘スキルの使い手だ。
レンディル王が推進する亜人族保護政策の象徴として養子にされたのだが、大臣らの反対により継承権のない第三王女という立場になっていた。
「よっぽどいい転生者を引いたんじゃないっすか?」
アイリスの隣に見切れている体格の良い男。
恐らくコイツが転生者で、アイリスを手助けしたのだろう。
「ち、テシタの奴もう少しいい角度で撮っとけよ。
どうします? ギルドの権限で接収しますか?」
「……いや、しばらく様子を見よう。
コイツのスキルが判明してからでも遅くはねぇ。引き続きテシタに監視させろ」
転生者は有用だが、持っているスキルがハズレな事も多い。
転生者は世界的に保護されているのでむやみに処分する事も出来ず、維持には金が掛かるのだ。
「第三王女様が転生者の男を囲っているとゴシップネタにも出来るしな」
「……マジで好きっすねぇ」
密かにアイリスを狙っているボスンは、にんまりと笑うのだった。
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