第5話 孤児院での一夜
「うにゃ~」
プリンの一撃を食らったランとスルゥがテーブルの上でとろけている。
「うううう~っ」
餌付けに屈してしまい悔しいのか、こちらを涙目で睨むラン。
中々に手ごわい。
ここは孤児院の1階にある食堂。
アイリスにお茶を入れてもらい、俺たちは優雅なティータイムを過ごしていた。
「本当に美味しいです!
とろけるような卵の舌触りと、ばにら?の香りが最高です!」
俺の隣でうっとりとした笑顔を浮かべるアイリス。
彼女の話では、転生者から伝えられたレシピでプリン自体は市販されているそうだが、モンスターの卵で作ったソレはあまり美味しくないそうだ。
「「あま~い!!」」
18個あったプリンはあっという間に子供たちのお腹の中に消えてしまった。
「あうう、おかわりぃ……」
孤児院にいる子供は全部で16人。
ひとりひとつは食べさせてやれたのだが、おかわりを準備する事は出来ない。
「そうだな……」
俺はまだ手を付けていない自分用のプリンのふたを開ける。
「みんな、一口ずつだぞ?」
「「!! わ~い!!」」
俺はスプーンでプリンをすくうと、子供たちに食べさせてやる。
「はむっ!」
「んん~♡ ありがとうタクマおにいちゃん!」
「おう!」
ランとスルゥを除けば、子供たちはみな3~6歳くらいだろう。
可愛い盛りで、孤児院で面倒を見ていた年少さんたちを思い出す。
「……スルゥは食べないのか?」
「っっっ……いただきましゅましゅっ!!」
たっぷりとプリンを乗せたスプーンを突き出してやると、年長さんのプライドで我慢していたらしいスルゥはあっさりと陥落した。
残すは……。
「う~っ! あ、あたしははれんち男の誘惑には乗らないわよ!」
と言いつつ、涙目のランはプリンに釘付けだ。
「……そうか、いらないか~」
ワザとらしくため息をついた俺は、スプ―ンに乗ったプリンをひとくちで食べてしまう。
うん、美味い!
「あっ……!」
「我慢できて偉いなランは! さすがお姉さんだ!」
「むき~~~~!!
やっぱコイツ、悪いヤツだわ!!」
こういう子は、実は構って欲しがりだったりする。
可愛いランのリアクションを楽しみながら、俺はリュックの中を探る。
……実はとっておきのココアプリンが1つだけあるんだがな!!
*** ***
「は~い、またランちゃんが大貧民~♪」
「うそっ!? この後革命で大逆転するつもりだったのに~!?」
「あはは、ランちゃんチャンスを待ち過ぎだよ~攻める時は一気に行かなきゃ!」
「うう~っ、ねえタクマ! もう一度やるわよ!」
「おう、せめて平民になれるといいな」
「むき~!!」
尻尾を逆立てて悔しがるラン。
アイリスが作ってくれた夕食(少々……いやかなりワイルドだった)を食べた後、俺たちは大富豪に興じていた。
トランプは、マジック動画を作ろうと買っていたものだ。
「ふふふふっ、二人とも夢中になって……。
それにしてもこの”トランプ”という遊戯、本当に面白いです!!」
頬を緩ませ、ほんわかした笑顔を浮かべるアイリス。
可愛い。
「ただのテーブルゲームだぞ? そこまでじゃないと思うが……」
「いえいえ。
王都での娯楽と言ったら賭け闘技場か、モンスターハンティングくらいですからね。
なによりみんなで一緒に遊べるのが素晴らしいです!!」
「そ、そういうもんなのか」
モンスターを退治する冒険と、そのモンスターハンティングとやらは何が違うのか分からないがこの世界は娯楽が少なく、遊びと言えばアウトドアらしい。
転生者もエンタメはあまり伝えてくれなかったんだな。
「ラン、スルゥ。
あと1ゲームでおしまいにしましょう」
気が付けば、窓の外には夜の帳が降りていた。
機械式の振り子時計を見れば、既に夜の9時半を回っているじゃないか。
小さな子は、そろそろ寝る時間だろう。
「あっ、言い忘れてましたが、明後日から3日間”公用”で不在になります。
ふたりとも年長さんとして、しっかりお留守番お願いしますね」
二人にそう伝えた後、一転して申し訳なさそうな表情を浮かべるアイリス。
「……あの、不躾なお願いとなるのですが、孤児院の警護をお任せできないでしょうか? わたしの使用、いえ友人も所用で王都に不在でして」
”公用”か……やっぱりアイリスはいい所のお嬢様っぽいな。
「あっ! も、もちろん報酬はお支払いしますっ」
ただ感心していただけなのだが、沈黙を拒否と取られてしまったようだ。
孤児院の建物は石壁で囲まれており、鉄製の扉で門を閉じられるとはいえ子供たちだけにするのは不安だろう。
「……あまり多くはお支払いできないんですけど」
警護の冒険者を雇えばいいんじゃないか、と思ったけど何か事情があるのかもしれない。
「お金はいいよ、その分子供たちに美味しいもの食べさせてあげて」
「えっ!? そ、そういうわけには……!」
「じゃ、宿代がわりという事で」
王都の事は何もわからないし、宿が取れるかも不安である。
そういう事なら孤児院に泊めてもらおう。
「あ、ありがとうございますっ!!
すっごくすっごく助かります!!
管理人室が何部屋かありますので、遠慮なく使ってください!」
感激の表情を浮かべるアイリス。
懐かしいな……孤児院での年長さん時代を思い出すぜ!
「!!
タクマおにーちゃん、アイリスおねえちゃんの代わりにいてくれるの!?」
「おう、メシも作るぞ?」
「やった~!! これで野生ごはんから解放される―!」
「ぶふっ!?」
スルゥの無邪気な言葉にむせるアイリス。
野菜の皮がついたままで、肉に骨が混じっているアイリスのワイルド料理はいつもの事らしい。
「……それはいい事ね」
「フォローなし!?」
ズガーンとショックを受けているアイリス。
いちいちリアクションが可愛い。
「え~、でもタクマと一緒かぁ……あたし可愛いから、てーそーの危機かも?」
少し生意気なセリフ。警戒するようにちらちらとこちらを見るラン。
だが俺もランの性格はだいぶ分かって来た……これは、大人ぶりたいだけだな?
「くっくっく、もっと遊んでやるぞ!
次は大人のゲーム……」
「ご、ごくっ」
「オセロだ!!」
リュックから折り畳み式のオセロ盤を取り出す。
「わふうっ!!」
とたんに耳を尻尾をぴくぴくさせ、興味津々のラン。
ちょろカワイイ。
「……だがもう子供は寝る時間、明日にお預けだ!!」
「え~~~!?
やっぱタクマはすけべだわ!!」
「ふふふふふっ」
「あはははははっ」
アイリスとスルゥの笑い声が響く。
こうして、孤児院での初日が暮れていくのだった。
(王都か)
異世界の都市。
少し楽しみだぜ!
……ちなみに、管理人室は俺のボロアパート(四畳半)より広くてきれいだった。
なにこれ最高か?
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