第24話
「あの、もしかしてなんですけど、あの土地だけ地鎮祭をしていないことはないですか?」
地鎮祭とは、その土地に建物を建てるときに行うお祓いのようなものだ。
そうしてお祓いをしておくことで、建てたものに災いが降りかからないようにするのだ。
和也からの質問におじさんは驚いたように目を丸くした。
やっぱり、していないのだろう。
あれだけ沢山の霊魂が溜まっているということは、それだけの過去があの土地にあるということになる。
だけど考えてみれば、あの一角だけでそれほど沢山の出来事があるのか疑問だった。
いくら庭が広いと言っても、平屋のコテージ一軒と普通の庭一つ分の敷地面積で、大した大きさにはならない。
そして導き出した答えが、あの一角に霊たちが集まってきているということだった。
「地鎮祭をしていない建物だから、他のよくないものたちまで集まってきているんだと思います」
和也が丁寧に説明する。
「他のところはしたんだけど、あそこだけは後から追加でコテージを建てたから、地鎮祭はやってないんだ」
おじさんの言葉にようやくふたりは納得した。
そういうことだったのか。
だから他の部屋ではなにも起きず、最奥の部屋でだけ怪現象があったんだ。
「もう1度、地鎮祭から始めればあの部屋もきっと大丈夫ですよ」
亜希はそう言い、微笑んだのだった。
透子がやってきたのは夕方近くになってからだった。
その頃には少し雪も溶けていて、ふたりは別の部屋に移動を済ませていた。
「ごめんごめん、いやぁ! すっごい雪だったね!」
ふたりと合流するなり透子が頭をかきながら笑う。
その表情には反省の色が見えなくて亜希と和也は二人して仁王立ちをし、睨みつけた。
「あれ? ふたりとも機嫌悪そうだね? どうしたの?」
ケロッとした顔で首をかしげて聞いてくる透子には一切に悪気がないようで、なんだか怒ることがバカらしく思えてしまって、ふたりの表情が同時に和らいだ。
それを見て透子が「さっすが双子だね! 今表情がシンクロしてた!」と、手を叩いて喜んだ。
こんな調子だからどうも怒るに怒れない。
亜希と和也はとにかく大変だったのだと、透子に説明することにした。
透子はふたりの話に目を見開いたり、息を詰めたりして耳を傾ける。
「うわぁ! 本当にあの部屋って危険だったんだね!」
「そうだよ、だからさぁ」
『これからはちゃんと自分たちにも伝えておいてよね』
亜希がそう言おうとするのを透子が遮った。
「でも解決してくれたんだよね!? ほんっとありがとう!」
目をキラキラと輝かせる透子に亜希は押し黙る。
透子は右手で亜希、左手で和也の手を握りしめるとブンブンと振り回して何度も「ありがとう」と繰り返す。
「そういえば、おじさんもすっごく感謝しててさ、スキー代を持ってくれることになったよ」
「いいの!?」
亜希は思わず目を輝かせる。
「もちろん! それ以上のことをしてくれたんだもん」
透子の軽率な行動には時折辟易させられることがあるけれど、今回はまぁ多めにみてもいいかもしれない。
スキー用品一式レンタルするのに結構お金がかかると思っていたのだ。
「スキー場までは当然おじさんが送迎してくれるし、明日は1日楽しもう!」
☆☆☆
翌日、3人は予定通りにスキーを楽しんだ。
普段あまりスキーをしないふたりは何度も転んで冷たい雪に悲鳴を上げたけれど、最後の方には少しだけ滑れるようになっていた。
「スキーって結構体力使うなぁ」
スキー板を足から外しながら和也が呟く。
「そうだよ。筋肉もつくし、体感も使うよ」
透子が楽しそうに受け答えする。
「来年の冬も3人で来ようね?」
その言葉に亜希と和也は苦笑いを浮かべたのだった。
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