第18話
「イヤアァ!!」
亜希の悲鳴が響き輪tリ、歪んだキャスターの顔が赤く染まる。
それはまるで血が流れているようだった。
次の瞬間ブツンッとテレビ画面が暗転した。
同時にうめき声も消えて電気の点滅も消える。
だけど安心はできなかった。
気がつけばふたりは抱き合うような格好で床に座り込んでいた。
亜希の目には涙が滲んでいる。
「早くなんとかしなきゃ」
和也も泣いてしまいたくなるのをどうにか我慢して呟いた。
でも、どうすればいいかわからない。
こんなに苦しんでいる幽霊たちがまだここにいるのに、どうすることもできない。
「コテージの外はまだ調べてなかったよな」
ふと思いついたように和也が言った。
「え?」
「コテージの外だよ。この写真に映ってる倉庫はまだそこにあるから、なにか残ってるかもしれない」
「でも、鍵は管理人さんに返しちゃったよね?」
倉庫を開けるためには一度管理人室へ行かなければいけない。
亜希はチラリと窓の外を確認した。
雪は降り続いていて、もうふたりの下半身をすっぽりと埋めてしまうほどの積雪になっている。
この中を管理人室まで歩いて行くなんてとてもできない。
それこそ何時間もかかってしまうかもしれない。
この部屋にそれだけの猶予があるとは思えなかった。
このままでは3人の霊たちは人間を襲う悪霊になってしまうかもしれない。
そうなると、無理やり除霊してあの世に送ることしかできなくなってしまう。
それは幽霊にとってひどい苦痛になるのだと、御札をくれたお寺の人から、和也と亜希は教わっていた。
できればそうなる前にどうにかしてあげたかった。
「とにかく倉庫に行ってみるしかないよね」
亜希はそう言い、立ち上がったのだった。
☆☆☆
雪のせいで倉庫へ向かうだけで随分と時間がかかってしまった。
長靴の中には沢山の雪が入り込んできて足先は凍えるほど冷たい。
それでも、気にしていられなかった。
ふたりは倉庫の前までやってくると、下半分が雪に埋もれてしまったドアに手をかけた。
少し力を入れてみるけれど、ビクともしない。
やっぱり、鍵がないとダメなんだ。
そう思ったときだった。
倉庫のドアの隙間からなにかが突き出しているのを和也が見つけた。
「これ、なんだ?」
ノートのようなそれが突き出している部分だけ、雪が積もっていないことも気になった。
和也がそれを手に取り、確認する。
とても古くて茶色くなっているけれど、大学ノートでまちがいなさそうだ。
「大学生さんが泊まったときに忘れて行ったのかな?」
亜希からの問いかけに和也は左右に首を振った。
「それならこんなに古くなってないと思う。これはもう何十年も昔のノートみたいだから」
ノートの劣化はそれくらいひどいものだった。
ノートについている雪を払って確認してみると、表紙には『199×年~ 日記』と記されている。
随分と古い日記みたいだ。
ふたりはゴクリと唾を飲み込んでそのノートをめくる。
紙同士がくっついてしまっているようで、めくるときには最新の注意が必要だった。
パリパリと音を立てるそれは、今にも破れてしまいそうだ。
部屋に戻って読もうかとも思ったが、いましがたの出来事を思い出すととても戻る気にはなれなかった。
外はまだ明るくて十分に文字を読むこともできる。
ふたりは寄り添うようにして日記へ視線を落としたのだった。
【199×年、○月○日。
今日、私達の両親が亡くなった。
ふたりとも同じ病気で、寄り添うようにして亡くなった】
出だしから重たい雰囲気で亜希はため息を吐き出す。
ここにはコテージになる以前に起こった重大な出来事が記されているはずだから、目を離すことはできない。
でも、最初からこんなに重たい内容だとは思っていなかった。
きっと、両親が亡くなったことによって日記を残しておく気になったんだろう。
【これからは妹と若菜の3人で、この家で暮らしていくことになる】
「これはきっとショートカットの女性が書いた日記なんだと思う。鏡や湯船で見た女の子の名前が若菜だ」
和也の説明に亜希は頷いた。
妹と書かれているのが、若菜ちゃんの叔母さんで、セミロングの女性のことだろう。
【妹の純は私達親子と共に暮らすことを後ろめたく感じているみたい。でも、姉妹なんだから手を取りあって行きていきたい。私の旦那も亡くなってしまって若菜も寂しがっているのだし】
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