第15話

その質問に和也は首を傾げた。

似ているようにも、違うようにも見える。


なにせ鏡に出てくる少女の顔色は青白く、血が流れているのだ。

簡単には判断がつかなかった。



「もしこの子だとすれば、この子はもう死んでることになるよな。一緒に映ってるふたりはどうだろう? まだ生きていて連絡が取れるとすれば、有力な情報が得られるはずだけど」



和也の言葉に亜希も同意した。

でも、写真に写っている女性たちと連絡を撮るのは安易ではないと想像がつく。

しばらく写真を見つめていると、途端にばしゃばしゃと水音が聞こえてきてふたりは顔をあげた。


音はお風呂場から聞こえてきたみたいだ。



「亜希、今日はもうお湯をためた?」


「そんなことしてないよ」



亜希は左右に首を振る。

今日は透子が到着すれば別の部屋に移動する予定になっている。


だからお風呂の準備はしていない。

するにしてもまだ時間が早すぎる。



「じゃあ、今聞こえてきた音はなに?」


「わからないよ」



答えながら亜希の全身に鳥肌が立っている。

今お風呂場によくないものが来ている。


全身でそれを感じていた。

亜希は数珠を握りしめ、和也はポケットに御札が入っていることを確認した。


本当は怖い。

確認なんてしに行きたくない。


だけど行かないとなにも解決できないままだ。

コテージの悪い噂は今もどんどん拡散されているだろうし、それをとめるためには根源を断ち切らないといけない。


亜希は緊張から無意識の内に何度も唾を飲みこんだ。

そろりそろりと和也の後ろに続いて脱衣所へと足を踏み込む。


水音は更に大きくなり、すりガラスの向こう側で弾けているのが見えた。

浴室から何本も手が伸びて水を叩いている姿が想像に浮かんでくる。


和也が勢いをつけてすりガラスのドアを開いた。

その瞬間水音はピタリと止んで、浴室内は静まりかえる。


バスタブの中を確認してみたけれど、そこには水も溜まっていなかったのだった。


☆☆☆


「ちょっと、怖すぎるんだけど!?」



浴室から戻ってきた亜希は大きくため息を吐き出してソファにダイブした。

さっきの出来事で随分と神経をすり減らしてしまった。



「本当に。透子はまだまだ来ないだろうしなぁ」



和也はソファの横で座り込む。

その顔にも疲れの色が見え始めていた。


ここで怪現象が起こり始めてから、随分と時間が立っているせいだ。

音楽室のときのようにサッサと解決すればいいのだけれど、今回はそうもいかなさそうだ。



「そうだ。さっきの写真を透子に送って見ようよ」



ふと思いついたように亜希が上半身を起こして言った。

キッチンで見つけた写真は今リビングのテーブルの上にある。

その不吉に見える写真はなんとなく裏返しで置かれていた。



「そうだな。透子なら写真を見てなにか気がつくかもしれない」



和也はそう言って自分のスマホで写真を撮影した。

情報収集のためと言いながらも、透子にも自分たちの恐怖を分けてやりたいという意地悪な気持ちが少なからずあった。


これくらいのやり返しは許されるはずだ。

するとすぐに透子からメッセージが返ってきた。



《透子:知らない人たちだね。でも、かなり昔コテージが建つ前に一軒家があったのは聞いてるよ。そこに暮らしてた人たちかな?》



きっと、そうなのだろう。

結局透子に質問してみても、自分たちの想像を超えてくる返事はなかった。



「でもさぁ、それっておかしくない?」



和也のスマホ画面を覗いていた亜希が呟く。



「おかしいって、なにが?」


「だって、すでになくなった家に暮らしていた人たちの写真が、どうしてコテージの食器棚から出てくるの?」



そう言われればそうだ。

この写真の家はすでに取り壊されているのだから、ここにあるはずがない写真なんだ。


そう理解すると和也の体に寒気が走った。

あるはずのない写真。

誰も居ないのに聞こえてきた水音。


これらは全部、幽霊たちの仕業に違いない。



「それに、もう1つ思ったことがあるんだよね」



亜希が腕組みをして難しそうな表情になる。



「なに?」


「女の子の幽霊が出るだけなら、写真に映っているのも女の子1人だけでいいんじゃないかなって。それなのに、3人映っている写真が出てくるってことは……」



このコテージにいるのは、3人の幽霊。

亜希はそう言って口を閉じた。

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