第13話
そして、書き込まれた年数はみんなバラバラだった。
一番直近の書き込みは先月。
一番古い書き込みは、なんと10年前だ。
そんなにも昔からこのコテージは呪われているという噂があったのだと、わかった。
それにしては呪い系の書き込みが少ないのは、やっぱい霊感の有無とか、泊まる部屋によって違うということなんだろう。
「これ、見て」
亜希が1人で考え込んでいると和也が隣からスマホ画面を見せてきた。
そこには誰かのSNSの投稿が表示されていた。
《今コテージ飯田に到着!》
日付を確認すると、ちょうど一月前のものになっている。
亜希はさっきの評価サイトを思い出した。
そこにも一月前に書き混んだ人物がいた。
《大自然! 今日は友だちとバーベキューだ!》
そんな書き込みと一緒にコテージの裏手にある山の写真が投稿されている。
写真の右手にはコテージが半分ほど映っていて、それが今自分たちが泊まっている場所だとすぐにわかった。
どこのコテージよりもここは庭が広いから、すぐにわかる。
《ちょっと時期外れだけど、売店に行くと花火があったから買ってきた!》
書き込んでいる人物はどうやら大学生のグループのようで、コテージを何部屋か借りて大人数で泊まりに来ているみたいだ。
そしてこの人物が泊まった部屋が、ここなんだ。
《バーベキューも花火も最高! これで彼氏がいれば完璧なんだけど……》
泣き顔の絵文字つきの投稿にはコミカルさもあって、まだコテージでなにも起こってないことが伺えた。
でも、ここから先の投稿に異変があった。
《お風呂上がりなんだけど、なんか変。視線を感じたんだけど、もしかして痴漢?》
《いや、ちょっと無理かも。1人でコテージのリビングで飲んでたら、鏡の女の子が映ってた》
《鏡の女の子は自分の姿じゃないのか?ってコメント沢山きたんだけど、そんなんじゃないって! 小学生くらいの子だったから!!》
それから先もずっとなにかに怯えて、結局一睡もできずに朝が来たと書かれていた。
《とにかくさ、なんかヤバイから、友だちと一緒に『やってはいけないことリスト』と作成することにした。たぶん、私達がこれやったから、ダメだったんだろうなぁ、みたいな?》
突如出てきた『やってはいけないことリスト』に亜希と和也が顔を見合わせた。
あのリストを作って警告してくれたのは、この人だったんだ。
「この人なら、コテージの過去についてなにか知らないかな?」
亜希の言葉に和也は首を傾げた。
コテージについての書き込みはまだしばらく続いているけれど、全部怪現象が起こったという内容であり、コテージの過去については触れられていない。
でも、コテージから帰った後でコテージについて調べていても不思議じゃない。
なにせ、こんなにも怖い目にあっているんだから、その原因が気になっても不自然じゃない。
ふたりはさっそくSNSののダイレクトメッセージ機能を使って大学生の人へ連絡をいれることにした。
コテージの過去についてなにか知りませんか?
知っていたら、返事をください。
「スマホで調べられるのはこれくらいが限界かな」
それからも30分ほど調べ物をしていたけれど、目ぼしい情報はなかった。
あとは自分の足で聞き込みにいくくらいしか方法はない。
「でも、管理人のおじさんは絶対に教えてくれなさそうだよな」
和也がしかめっ面で言った。
確かに、このコテージでなにが起きるのかも教えてくれなかったのだから、過去の出来事を教えてくれるとは思えない。
窓の外はまだ雪が振り続けていて、一番遠い管理人室まで行くのも大変だ。
そこでふたりは付近のコテージを調べてみることにした。
自分たち以外の宿泊者を探すのだ。
分厚いジャンパーに長靴をはいて、丸々と膨らんだふたりは外へ出た。
降り積もった雪はふたりの太ももを隠してしまうほどの高さがある。
雪に足を取られないようにゆっくりゆっくり前進すると、普段使わない筋肉を使ってすぐに体が痛くなってきた。
早く誰かに出会わないか。
そう思っていたとき、右手のコテージから子供たちの笑い声が聞こえてきてふたりは同時に顔をあげた。
そこには庭で遊ぶ小学生くらいの子供が3人と、それを見守っている大人ふたりの姿があった。
5人家族だろうか。
みんな雰囲気がよく似ている。
と、そのとき。
男の子が投げた雪玉が起動をそれて亜希の頭にぶつかった。
「冷たっ」
思わず声を上げると、男女の大人ふたりがすぐに駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。大丈夫?」
女性が心配そうに声をかけてきたので、亜希は慌てて「大丈夫です。痛くはなかったので」
と、微笑んで見せた。
女性の後ろでは雪玉を投げた男の子が申し訳無さそうな顔で立っている。
「ほら康太、お姉さんに謝りなさい」
「……ごめんなさい」
康太と呼ばれた男の子は首を引っ込めるようにして謝る。
「大丈夫だよ康太くん。雪玉作るの上手だね」
褒めると康太は嬉しそうに頬を赤くした。
「君たちはどこのコテージに泊まってるんだい?」
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