第7話

雪だるまに雪うさぎに雪合戦。



「あら、それだけ? 明日まで降るだろうから、かまくらだって作れるわよ」


「それ、いいですね!」



大きなかまくらをつくって3人で入ったらきっと楽しいだろう。

期待は膨らんでいく。



「でも、雪には気をつけてね、足をとられてころんじゃうから」


「わかりました。ありがとう!」



売店の女性に手を振って外へ出ると、地面がうっすらと白くなってきていた。

ついに雪がつもり始めたみたいだ。


本当はもう少しゆっくりと散歩したい気分だったけれど、そうも言っていられなさそうだ。

外気温は肌を差すように冷たい。

二人の足は自然と部屋まで早足になった。


ざっざっと地面をこするようにして歩くと運動靴に雪が絡みついてくる。

足首までの長靴を持ってきているけれど、それを追い越すくらいに雪がつもるんだろうか。


スキーヤーたちはそれを喜んでいるんだろうか。

部屋に戻って来るとふたりは玄関に入る前に体にまとわりついている雪を手で落として言った。



触れるとヒヤリと冷たくて、でもちょっと心地良い。



「またお菓子を増やしてどうするんだよ」



昨日ここへ来る前に購入したお菓子はまだ残っている。

それに追加するように売店でもお菓子を買ってきてしまったから、袋の中はパンパンだ。



亜希は少し照れたように笑い、それから「透子も来るんだから、これくらい必要でしょう?」と、言い訳をした。



本当は全部自分が食べたいものばかりだったけれど、黙っておく。

それからまたテレビを見始めたふたりだったけれど、外の雪とリビングの鏡が気になって集中できなかった。


なによりも、ここでは普段ふたりが見ているテレビ番組が放送されていない。



「サンドイッチでも作ろうかな」



ふと思いついたように亜希が言った。



「サンドイッチ?」


「うん。だってテレビはつまんないし、透子からもまだ連絡ないしさ」



駅に到着する時間がわかったら連絡してくる予定になっていたのだけれど、ふたりのスマホは鳴っていない。



到着するまでにまだまだ時間がかかるんだろう。

お菓子ばかり食べていたら和也に嫌味を言われそうだしと、亜希は心の中で思った。



「野菜は早めに使ったほうがいいだろうしね」



冷蔵庫の野菜室にはたくさんの野菜が詰め込まれていた。

その中にレタスとキュウリもあったはずだ。



「それもそうだな」



和也が納得したように頷いてソファから立ち上がった。

リビングとキッチンは壁もなくて続き部屋になっているけれど、キッチンに居た方が鏡の存在を意識しなくてすむ。


ふたりはすぐにキッチンへと移動してきていた。

レタスとキュウリ。

それにハムとマヨネーズ。



「あ、これは?」



冷蔵庫の中から和也がコーンの缶詰を取り出した。



「それもいいかもね」



ハムとコーンはよく合う。

野菜との相性だってバッチリだ。

最後にトマトを見つけて材料は出揃った。



「よし、じゃあ材料を切って行こうか」



野菜の水洗いを終えて亜希が包丁を探し始める。

しかし、いくら探してみてもどこにも包丁が見当たらない。



「あれ? 昨日の昼間にカレーを作って、それからどうしたんだっけ?」



シンク下の収納スペースに包丁はない。

どこに片付けたのか記憶をたどってみても、包丁立てに立てた記憶しか残っていない。

だけどそこに包丁はなかった。



「戸棚の中とか?」



和也が一緒になって探してくれる。



「そんなところに片付けた記憶はないんだけどなぁ?」



首を傾げて食器棚を確認する。

そこにも包丁はなかった。

包丁がなければ料理はできない。


それに、コテージの備品をなくしてしまうのはまずかった。

いくら透子のおじさんが優しそうな人でも、怒られてしまうだろう。


最悪の場合は弁償させられることだ。

ふたりのお小遣いで足りるようならいいけれど。


そんなことを考えながら包丁を探していると、コンロの下にある収納スペースが少し開いていることに気がついた。

あれ? こんなところ開けたっけ?



首を傾げて扉に手をのばす。

そして一気に開いた時、亜希の視界に包丁が見えた。



「あ、あった!」



どうしてこんなところに包丁が?

そう疑問に感じる前になくしてしまったものを見つけることができた喜びが先に湧いてきた。


だからなにも考えずに包丁を手にしてしまったのだ。

右手に握りしめた包丁をみて、亜希はすぐに顔をしかめる。


包丁の先端が汚れているのだ。

昨日はちゃんと洗ってから片付けたはずなのに……。


そう思った次の瞬間、包丁の先端の赤茶けた汚れが、まるで血が流れるようにつつーっと柄の方へ流れてきたのだ。



「キャアア!」



亜希は大きな悲鳴を上げて包丁を取り落していた。

音を立てて足元に落ちる包丁。

ふたりはそれを見下ろして息を止めた。



「これって、まさか……」



和也の顔が青ざめる。



「昨日見つけた『やってはいけないことリスト』に書かれてた包丁のことじゃないか?」


「え……」


やってはいけないことリスト。



2,キッチンのどこかにある血塗られた包丁を見つけてはいけない。

そう、たしかにそう書いてあった。



「嘘、じゃあ、これが?」



亜希後ずさりをして包丁から離れる。



「俺たち、もうやってはいけないことのふたつをやったことにならないか?」



やってはいけないことリスト。

1,リビングに置かれている鏡の布を外してはいけない。



「で、でも、こんなの故意にやったことじゃないし」



亜希は必死に言い訳を口にしているが、きっと故意とか、故意じゃないということは関係ないのだ。

やったか、やらないか。

それだけなんだ。



「最後ってなんだっけ?」



和也の質問に亜希はゆっくりと視線をお風呂場のあるドアへと向ける。

やってはいけないことリスト。

2,お風呂で鼻歌を歌ってはいけない。



「だ、大丈夫。3つ目はまだしてないから」


「そうだよな。でも、気をつけた方が……」



和也がすべて言い終わる前にパサッと音がして、鏡の布がはずれた。

それは滑り落ちたというよりは、誰か見えない人の手によって引っ張られてはずれた感じだった。

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