会いたくなかった男④
「うわっマジかー。GPS使えなくなるのは痛いわね……」
仮面を取って髪を結い直している遥華が苦々しく言う。
でもこの状況で髪を結い直すとか結構余裕そうに見えた。
って言うか。
「遥華……なんか慣れてる?」
こっそり連さんに電話していたこともそうだし、それ以前に私たちが危ない状況になっているとどうして気づいたんだろう?
「んーまぁね。銀星の幼馴染ってことで色々巻き込まれちゃうことあるから」
困り笑顔で遥華は話しを続けた。
「だからさ、さっきも見た瞬間ピンと来たの」
裏門にいるはずのない私がいたこと。
明らかに怪しい三人の男達。
それに、と遥華は香梨奈さんを指差した。
「その子たち。仲良さげに腕を組んでるけど彼女すごく不機嫌そうだったし、美来の友達は怯えてたし。これは人質にでも取られてるなって思って」
「……正解、凄いね」
本気で驚いた。
慣れているからっていうのもあるんだろうけれど、頭の回転も良いんだと思う。
「はっ、でも結局捕まっていたら意味ないわよね?」
嘲笑いながらそう言った香梨奈さんは、しのぶを突き飛ばすように押した。
「きゃあっ⁉」
「しのぶ⁉」
とっさに受け止めると、しのぶにそのままギュッと抱き着かれる。
「ごめん、美来。私が人質にならなかったら、こんなことには……」
しのぶは声も身体も小刻みに震えていた。
「そんな、しのぶは悪くないよ。むしろ巻き込んじゃってごめん」
しのぶは全く悪くないのに……むしろ私のせいで巻き込まれて怖い思いをしてる。
謝るのは私の方だ。
震えるしのぶを少しでも落ち着かせたくて、私もギュッと抱きしめる。
そうしているうちに橋場達も車の中に乗り込んできた。
「ちょっと、私まで乗る必要ある?」
香梨奈さんも黒髪の男に背中を押される形で乗り込んだ。
「まあまあ、もうちょっと付き合ってくれって」
ヘラヘラとした男に香梨奈さんは何か言い返そうとしたみたいだったけれど、運転席から「おい! 急げ!」と焦った怒鳴り声がして声を出せなくなったみたい。
最後に橋場も乗り終わり、ドアを閉められたことで渋々座席に座っていた。
そうして、車は動き出す。
「……どこまで行くの?」
しばし無言の車内だったけれど、これから橋場が私たちをどうするつもりなのか知っておきたい。
私のことは連れ帰るつもりなんだろうけれど、しのぶと遥華はいずれ解放するとさっき茶髪の男が言っていた。
それなら、このまま地元に戻るってことはないだろう。
「あ? まあ、まずは郊外に潜伏場所を用意してもらったからなぁ。まずはそこに行くさ」
橋場の答えに、思った通りこのまま遠くへ行くわけじゃないと分かって少し安心する。
でも。
「地元に戻るまで待てねぇしな。まずはお前を味わうつもりだ」
「っ!」
ニタリとした笑みに、ゾッとした。
明らかな身の危険に思わずブルリと震える。
……大丈夫。
きっと、奏は気づいてくれる。
幹人くんだって、きっと私を探してくれてる。
それに遥華がさっき連さんに電話していたから、私達が誰かに攫われたってことは知られている。
恐怖に耐えるように、自分に言い聞かせるように助かるはずだと考えを巡らせた。
余裕そうだった遥華も、状況が悪いことは分かっているのかあまり話さない。
しのぶは少しは落ち着いたかもしれないけれど、まだ手が震えてる。
私もそれ以上は何も話さず、しのぶの手を握って助かる方法を考えていた。
***
しばらくして車が止まる。
結構時間が経った様に感じたけれど、多分実際には15分くらいだと思う。
思ったよりは遠くなさそうで良かったけれど、いつ助けが来るか分からない状況だから不安はなくならない。
「ほら、降りろよ」
黒髪の男がそう言ってしのぶの腕を掴んだ。
「っ! やっ!」
「しのぶ!」
引きずり降ろそうと腕を引く男に、しのぶと私は抵抗するように踏みとどまった。
「お前ら諦め悪すぎだろ。ここまで来てまだ抵抗すんの?」
呆れ気味にため息を吐いた男は、今度は力いっぱいしのぶの腕を引く。
「あっ」
流石に男の本気の力で引かれては留まることは出来ない。
それに無理に引っ張ってもしのぶが痛い思いをするだけだ。
「大人しくしてれば痛い思いせずに済むぜ? お前らは人質だし、美来が橋場さんの言う事聞いてれば変なことはしねぇよ」
そう言って今度は黒髪の男が遥華の腕を掴む。
遥華はムスッとした表情をしつつも仕方ないなとばかりにため息を吐いて大人しく従っていた。
それを見ながら私は「……本当に?」と聞き返す。
「あ?」
「本当に私が大人しく従っていればしのぶと遥華には何もしないのね?」
橋場の好きになんてされたくない。
でも、それ以上に巻き込んでしまった二人を酷い目に遭わせたくなかった。
「……ああ、約束してやるよ」
私の言葉に、橋場が嫌な笑みを浮かべて答える。
「お前が大人しく俺のものになれば、その二人には手を出させねぇよ」
分かってるよな? と、他の二人に確認を――というより、返事を求めた。
「はいはい、分かってますよ」
「分かりましたよ。……ちょっとは遊びたかったっすけど」
黒髪はヘラヘラ笑いながら、茶髪は渋々と了解の返事をする。
「……分かった。大人しくする」
不満は顔にありありと浮かんでしまったけれど、二人が無事に済むならと了解の返事をした。
助けが来てくれるのと橋場に好きにされるの、どっちの方が早いだろうかと焦りがにじみ出る。
そんな私に橋場は「じゃあ、来いよ」と顎で指示を出す。
言う通りに車から降りると、今まで黙っていた香梨奈さんが不機嫌そうに声を上げた。
「で? 私はまだついていた方がいいの?」
車の中からの質問に答えたのは黒髪の男だ。
またヘラヘラした笑顔で「もちろん」と告げる。
「せっかくだし、美来がちゃーんとこの街から出て行くの見といた方がいいんじゃねぇ?」
「……まあ、それもそうだけど」
半分納得していない様子だけれど、香梨奈さんはため息を一つ吐いて車から降りた。
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