黒幕①
パーティー当日は朝からみんなソワソワしていた。
イベント前の独特な雰囲気に、私もワクワクする気持ちが治まらない。
とはいえ、午前中は普段通りに授業を受けなければないためお昼になる頃にはそのソワソワもほど良く落ち着いていた。
昼食はあまり会話らしい会話もせず、みんな早めに終わらせる。
この二階席で食べている人は、生徒会や【月帝】、【星劉】以外の人もみんな仮装するみたいだったから。
「じゃあ、生徒会メンバーは後ほど会議室の方で。僕たちは今日はどちらかというと楽しむ側だから、気楽にいこう」
坂本先輩はそう言って王子様スマイルを浮かべた。
今日に限ってはうさん臭さを感じないから、心から思っていることだと思う。
だからこそ私も純粋に楽しもうって思った。
いったん教室に戻ってカバンなどの荷物を持って会議室に集合だ。
幹人くんとは朝にちょっと話せただけであまりゆっくり時間を取れなかったけれど、着替えてしまえば一緒に校内を回ったりも出来そうだから早く教室から荷物を取って来よう。
足早に教室に戻ると、丁度しのぶも戻って来ていた。
「あ、美来はこれから着替え?」
「うん、奈々と香はもう行っちゃったの?」
「うん、放送部は結構忙しいみたい。ま、楽しそうでもあったけれどね」
香と奈々は放送部の方で色々やることがあるらしく、仮装はしないけれど早くから準備するため食事を終えて行ってしまったらしい。
しのぶはそんな二人につき合って早く食べたけれど、仮装もしないから一人でどうしようかと思っていた所だそうだ。
「せっかくなんだからしのぶも仮装すればいいのに……」
結構百均で猫耳や三角帽子を買って簡単な仮装をしている子もいる。
しのぶならそれらに少しアレンジを加えるだけで良い感じの衣装が出来ると思うのに……。
「でも香も奈々も別行動だし、美来は豪華衣装を着て久保くんと歩くんでしょう? 私一人は流石に恥ずかしいよ」
「あ、そっか……。でもそれなら奏と一緒に仮装すれば良かったんじゃ……」
「ううん、いいの。奏最近忙しそうだし、衣装用意する余裕ないみたいだったし」
「あ……」
笑顔で話すしのぶは本当に気にしていないみたいだったけれど、その奏の忙しさは多分私を守るためにノートパソコンで何かをしているからだ。
私のことなんだから自分でも少しくらいはやるよと申し出たこともあるけれど、SNSもやっていない私が手伝っても悪化する未来しか見えないって拒否されてしまった。
そりゃあ確かに、スマホを持っていても動画見たりメッセージアプリ使うくらいしかしていないけどさ……悪化させるような真似はしないと思うんだけどな。
………………多分。
まあ、なんにせよ私のせいだ。
「ごめんね、奏が忙しいのって多分私のためだから……」
申し訳なくてしゅんとすると、背中をポンと叩かれた。
「もう! そんな顔しないでよ。別にどうしても仮装したかったわけじゃないし、イベントも奏と同じ場所でお菓子配る方で楽しむから」
気にしないの! と春の太陽みたいに笑うしのぶに元気付けられる。
そこまで言ってもらえているのに、ずっと申し訳ないと思ってるのも良くないよね。
「うん、それなら良かった」
と私も笑顔を返した。
「それに私今回はみんなの衣装じっくり見たいんだ。上手いアレンジしている子もいるし、人気者の人達は豪華衣装でしょ? 楽しみー!」
どうやら本当に仮装する側じゃなくて良かったらしい。
まあ、楽しそうなら何よりだ。
「あ、そうだ。良かったら今ついて行っていい? 美来の天使姿も早く見てみたいから!」
「いいけど、廊下で待つことになっちゃうよ?」
「いいよ。私たちお菓子配布組は準備とかそんなにないし、まだ時間あるから」
廊下で一人待たせるようなことはしたくなかったけれど、そこまで言うのなら断るのもしのびない。
私は了承して、二人で教室を出た。
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