衣装合わせ③
「え?」
「ああ! 天使が舞い降りた!」
「……はい?」
ひざまずいた先輩はそのまま両手を組んで私に祈りを捧げている。
いや、そんなことされても困りますから!
「ん? なんだ?」
先輩の叫びで他の人達も私に気づき始める。
「素敵ね!」
「可愛らしいわ」
そんな普通の反応を示してくれる人達もいたけれど、中には――。
「本当に天使の様だ。天使と言えば金髪となるところだが、黒髪というのもこれはこれで白い衣装にマッチしていてイイ……」
と、何やら語り出した男の先輩もいた。
「思った通り、君に似合っているね」
王子スマイルで近付いてきた白いスーツ姿の坂本先輩は、まじまじと私の姿を見てから軽く眉を寄せる。
「うーん……君の対になるように僕は悪魔系にしておけばよかったかな? でも生徒会長としてのイメージもあるし……」
などと話し出したことは正直私にはどうでも良いことだったのでその後はスルーした。
とりあえず似合わないという意見はなさそうだったので一安心だ。
あと、当日は何事もなく終われるようにやっぱり眼鏡もかけておこうと思う。
一部の異常行動を起こしている人達を見て、主にファンクラブの人達の反応が怖いなと思ったから。
そんなちょっとの不安を抱きつつ、私は幹人くんはどんな衣装なのかな? と思いを
***
私たちが衣装合わせをした日は、【月帝】と【星劉】も衣装合わせの日だったらしい。
生徒会の天使と悪魔に被らないようにすると言っていたけれど、二つのチームは結局何にしたんだろうと思っていた。
【月帝】の方は、吸血鬼と狼男だってその日のうちに少しだけ会えた幹人くんに聞いた。
「どっちも似合いそうだね。幹人くんの衣装はどっちなの?」
「俺は吸血鬼だった。八神さんの方が吸血鬼とか似合いそうだと思うんだけどよ、タキシードとかしっかりした服装学校でまでしたくないとか言って狼男選んでた」
「へぇー……」
そんな理由を口にするってことは、学校以外ではそういう服装もしているってことなんだね。
ビシッと決めた八神さんってなんだか想像できないな。
っていうか、別にハロウィンの衣装なんだから着崩してもいい気はするけど。
まあ、それよりも。
「じゃあ幹人くんの衣装がしっかりしたタキシードってこと? なんか新鮮。見るのが楽しみだな」
ワクワクと、少しのドキドキを混ぜて期待の眼差しを向ける。
すると少し照れた幹人くんは「こっちのセリフだっての」と私の頬を親指の腹で撫でた。
「美来の天使姿とか、似合うに決まってる。楽しみだけど、俺心臓持つか不安だな」
そうして笑うと、額にチュッとキスを落とされた。
「っ! 不意打ちだよ、幹人くん……」
されると思っていないときに触れてくる唇にはビックリする。
ドキッと心臓が跳ねて、そのまま鼓動が優しく早まる。
特訓の成果なのか、頬や額にならあまり照れずにキスをしてくれるようになった幹人くん。
でも照れていない幹人くんは、言葉も行為もひたすら甘くて私の心を翻弄する。
「もう、私の方が心臓持つか不安だよ……」
額を押さえながら、私は照れ隠しの文句を口にした。
***
そんなやり取りをした翌朝には、珍しく朝から会えた勇人くんと明人くんに掴まっていた。
「へぇー美来は天使かぁ。絶対可愛いんだろうなぁ」
衣装の詳細を聞いた勇人くんが可愛い顔を優しい笑みに変えて言う。
そんな彼は、明人くんと二人で海賊の仮装をするらしい。
「海賊かぁ……定番って感じじゃないけれど、二人には似合いそうだね」
素直な感想を口にすると明人くんが呆れ気味に口を開く。
「まぁな……。定番は生徒会と【月帝】でさっさと決めちまっただろ? 他に残っていそうな定番ってジャック・オー・ランタンとか布被ったオバケとか……顔見えねぇやつばっかじゃん?」
人気者だから見栄えのいい仮装をして欲しいって要望だったのに、顔が見えなきゃ意味ないだろ? と苦笑いだ。
「まあ、確かに。……じゃあ海賊だけなの? 如月さんも?」
聞きながら、流石にそれはかなりイメージ違うなぁと思う。
「いや、如月さんはドクターやるんだってさ。なんかマッドサイエンティストっぽくて似合ってたぜ?」
明人くんの感想に、それ褒めてるの? と突っ込むべきか悩む。
でも、確かにドクターなら如月さんに合うと思った。
そんな話をした今日はパーティー前日という事でみんな大忙しだ。
私も高志くんやすみれ先輩と一緒に校内を回って、明日のイベントの準備に不備がないか、調理部のお菓子は問題ないかなどチェックをしていた。
寮に帰って来たのは門限ギリギリで、幹人くんとも会えずちょっと寂しいなと思う。
でも、明日の楽しみに取っておこうということにして、早めにベッドに入った。
急だったけれど、みんなで頑張って準備したハロウィンパーティー。
なんだかんだ言って楽しみなイベント。
まさかこのイベントが波乱に満ちたものになるなんて、このときは思ってもいなかった。
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