次期総長 後編
「いや、【月帝】も同じような決め方だった。久保だけが例外なんだよ」
私が幹人くんのことを考えてる間にも話は続けられていく。
「あの時は少し揉めたな」
如月さんの目が過去を思い出すように細められた。
彼の話では、【月帝】にも次期総長として指名できそうな昔から知っている人間がいたんだそうだ。
ただ、その人物は他人を見下すようなタイプで人の上に立つのには向かなかったらしい。
「久保は中学の頃に八神のことを知って、どういうわけか知らないが八神のことを慕ってこの高校を選んだらしい」
そして、女好きという難はあるが人の上に立つ分には問題ない人物として幹人くんが候補に上がったのだとか。
「八神が久保に決めると言ったときは俺も千隼も難色を示したよ。久保本人には問題なくとも、今までとやり方が違う。それに直接の関わりがないと言ってもあの高峰組と関係があるからな」
暴走族を名乗る以上、銀星さんが率いる【crime】とは関わらないようにしたかった如月さんたちにとっては遠慮したい相手だったという。
でも元々候補に上がっていた人物も、幹人くんにケンカでも学業でも負けてしまってプライドがズタズタになったらしく、二年に上がる前に退学してしまったのだとか。
「というわけで、仕方なく次期【月帝】の総長としてNO.3になったのが久保だ。まあ、今まで問題はなかったからこのままでも大丈夫なんじゃないか?」
初めに揉めたな、なんて言っておきながら今はずいぶんとアッサリしている。
まあ、それくらい大丈夫だって思っているってことなんだろうけれど……。
でも、私の両隣りに座る双子の意見は少し違ったらしい。
「あー……大丈夫、なのか?」
「まあ、今までなら大丈夫だったかもしれねぇけどよ……」
苦笑いの勇人くんと呆れ顔の明人くん。
「え? 大丈夫じゃないの?」
何か問題があるんだろうかと不安になって聞いた。
すると二人は私を通り越して視線を合わせ、気まずそうに口を開く。
「最近、あいつ色々と大人しくなっただろ? 女遊びも止めたし」
「うん」
勇人くんの言葉に頷く。
私のことを好きになってから他の女の子を相手にしようと思えなくなった、みたいなことを聞いた。
「それが一部では覇気が無くなったみたいに言われてるらしいんだ」
「ええ⁉」
女遊び止めただけでそんなこと言われなきゃないの⁉
なんて驚いたけれど、他にも原因があったらしい。
「しかも美来の前じゃあメチャクチャヘタレになるだろ、あいつ」
「うっ……」
それは、正直否定できない。
私はそういう幹人くんも可愛くて嫌いじゃないんだけどね。
……ただ、キスは頑張って欲しいけれど。
「そういうところを見た【月帝】の連中がこないだ不安そうに言ってたんだよ。『次期総長があれで本当に大丈夫なのか?』って」
「……」
流石にそれって、マズイ?
なんて思っていると、明人くんが追い打ちをかけてきた。
「しかも同じ【月帝】の連中にじゃねぇぞ? 一応対立してるって
「……」
「……」
明人くんの言葉に、私だけでなく如月さんも黙り込んだ。
そして私が何を言おうか迷っているうちに、如月さんが「……そうか」と話し出す。
「じゃあ、美来はやっぱり久保と別れた方がいいな」
「どうしてそうなるんですか⁉」
思わずガタンッと椅子を鳴らして立ち上がってしまった。
食事中にこんな風に立ち上がるのは行儀が悪いと分かっているけれど、突っかからずにはいられない。
幹人くんが【月帝】のメンバーに不安がられる原因が私だとしても、だからと言って別れなきゃならないというのは理不尽すぎる。
「付き合ったことで尚更ヘタレになってるだろう? 別れて距離を取った方がいいと思うのは普通じゃないか?」
「そんな、ひどいっ」
横暴すぎる言い分だけれど、少しは理解出来てしまうから辛かった。
私が近くに居なければ、幹人くんが仲間から『大丈夫か?』なんて思われることはなかっただろうから。
ついさっきまで幸せの絶頂にいたからこそ尚更辛くて、涙が浮かぶのを止められなかった。
「っ! あ、いや……」
途端に慌てる如月さん。
でも、その涙が零れる前に落ち着かせてくれたのは彼ではなく両隣にいる双子だった。
「あーあ、泣かせちゃった。如月さんひでぇの」
「なっ⁉」
明人くんが如月さんを非難しながら私の背中に手を添えてくれる。
幼子をあやすように優しくポンポンと叩かれ、溢れそうだった涙は止まった。
「ほら、座れよ美来。大丈夫だって、久保がヘタレにならないよう特訓するの手伝ってやるから」
勇人くんの言葉に、泣きたくなるほどの辛さも消える。
「特訓?」
「そうだよ。ヘタレな久保を見るのは面白れぇけど、それで美来が泣くことになるんだったら何とかしないとな」
優しく笑って元気付けてくれる二人に胸が熱くなる。
私を諦めないという二人も本当は別れて欲しいって思っているかもしれないのに。
それでも如月さんみたいに別れろとは言わず、元気付けてくれる。
しかも特訓を手伝ってくれるとまで言ってくれた。
だから、二人に心からの笑顔を向けて「ありがとう」と感謝の言葉を伝える。
瞬時に耳を赤くした二人は、同じく優しい笑顔を向けてくれた。
「良いんだよ」
「だって俺らは――」
『美来のことが好きだから』
最後は声をそろえる辺り本当に仲の良い双子だなって思う。
「お、俺も美来が好きだぞ⁉ だからその、泣かせるつもりじゃあ……」
慌てて声を上げる如月さんはちょっと滑稽だ。
幹人くんのことをヘタレなんて言っていたけれど、今の彼も結構ヘタレていると思う。
でも、だからこそ泣くよりも笑えてきた。
「ふふっ……分かってますよ」
「そ、そうか……?」
ホッとした様子の如月さんを私は真っ直ぐに見る。
そして宣言した。
「もう別れろなんて言われないように、幹人くんの特訓頑張りますから!」
もう泣かせたくないと思っているからなのか、如月さんは私の宣言を否定しない。
何か言いたそうではあったけれど、「そうか……」とだけ口にしていた。
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