次期総長 前編

「俺は諦めないからな?」


 【星劉】のテーブルで取る昼食時、如月さんに幹人くんと付き合い始めたのかと確認された後の言葉。

 まるでそれが当然だろうとでも言うように、言った後はパスタを口に運んで食事を進めていた。


「……」


 ……やっぱり言った。


 みんながみんな口をそろえたようにそう言うから、如月さんも言いそうとは思っていたけれど……。

 こんな世間話のようにサラリと言われるとは。


 なんて言えば良いか……とりあえず、呆れた。


「だからって邪魔しすぎると嫌われますよ?」


 私が黙ってチャーハンをもぐもぐしていると、右隣に座る勇人くんが先に口を開いた。


「そうそう。確かに久保かよーって気分にはなりますけど、それで邪魔して美来に嫌われたら元の子もないっすからね」


 左隣に座る明人くんも続くように話し出す。

 そんな二人にムッとした表情でパスタを飲み込んだ如月さんは、話すために口を開く。


「別に俺は何もしていないだろう?」


 確かに、ハロウィンパーティーの準備中はこうして昼食を一緒にすることはあっても他で会うことはなかった。

 会うことが無ければ邪魔をするようなこともない。


「でも俺たちに久保と美来を二人きりにするなって指示出してましたよね?」

「おい」


 明人くんの言葉にサッと睨みつける如月さん。

 否定しないってことは事実なんだな。


「自分だけいい子ぶろうとしないでくださいよ」

「なっ⁉ お前ら『もちろんです!』とか言って、俺が言わなくても邪魔する気満々だったじゃないか」


 勇人くんの非難の声に眉を寄せた如月さんは文句を言い始めた。


「そうっすね。でもだからって言ったことは覆らないすよ?」


 明人くんの返しに、ついには無言で睨むだけになる如月さん。


 対面している形だから私も睨まれてるみたいで怖いんだってば~!


 内心恐怖で震えていると、一つ大きなため息を吐いて如月さんは話題を変えた。


「それよりお前ら次期総長はどっちか決めたのか? そろそろ決めておかないと、忙しくなってからじゃあ大変だぞ?」

「次期総長?」


 考えてもいなかった話題に、今まで成り行きを見守っていた私は声を上げる。


「如月さんはそのまま総長しないんですか?」


 暴走族の総長って、そんな頻繁に世代交代するものだっけ?

 いや、詳しくなんて知らないんだけどね。


「まあ、大学生になれば嫌でも将来を見据えて家の方の仕事も手伝ったりしないとないからな」


 如月さんの話では、この学校の暴走族は特殊で普通とは違う。学校側が仕組んだ部分もあるから、この学校周辺でしか通用しないんだとか。

 そういえばしのぶにも前そんな風に説明されたっけ、と今更ながらに思い出す。


「……司狼のように家とは関係ない職につこうとしているならまた話は違うだろうが……まあ、それでも交代はするだろう」

「家……」


 さっきから繰り返される“家”という言葉に、彼らが実はそれなりの会社を持つ家の御曹司だってことを思い出した。

 坂本先輩はともかく、如月さんと八神さんは跡取りというわけじゃなかったはずだけれど……それでも家とは切り離せないってことなのかな?


「ま、そういうわけで【星劉】のNO.2とNO.3の俺らどっちかが来年総長を務めるってわけ」


 私と如月さんの会話がひと段落したのを見て、明人くんが締めくくる。

 でもそれだけじゃないだろう、と如月さんに睨まれていた。


「お前たちは再来年総長になるべき者を指定しなきゃならないだろうが」

「げ、それもあった」


 如月さんの指摘に明人くんは嫌そうに顔をしかめる。


「俺たちのように一年のときから総長やるような世代はない方がいい。まとめきれないからな……」


 苦々しい表情で呟く如月さんに、私は無言で納得する。


 そうだよね。

 そのせいで二年前抗争を起こさなきゃならなくなったんだもん。


 明人くんと勇人くんもそれは思ったのか、複雑な顔をしていた。


「……でもなぁ……来年の総長は別にどっちがなってもいいんだけどな。その次が……」

「ま、悩むよな。まだ一年だから色んな面で把握出来てねぇし」


 私を挟んで勇人くんと明人くんは相談を始めてしまう。


「だから春に一年をちゃんと見ておけよ、と言っただろう?」


 悩む二人に如月さんは呆れ交じりに息を吐いた。


「え⁉ あれってそういう意味だったんすか⁉」

「羽目外さないように見とけって意味なのかと……」


 目を見開いて驚く明人くんと、呆然とした様子の勇人くん。


 如月さんは自分たちの次の総長を決めるために見ておけって言ったんだね、きっと。

 二人の様子を見ると、如月さんの意図した通りのことはしていないんだろうなって分かる。


「まあ、俺は後輩で強いやつの中にお前たちがいたからな。昔から親のパーティーとかで見かけていて多少は知っているから決めやすかったぞ?」


 と、如月さんはアドバイスになるようなならないような助言をした。


「決めるって言ったって如月さん、俺たちを指差して『お前らがNO.2とNO.3な』って言っただけじゃないっすか!」

「そうっすよ! おかげでいまだに俺らもどっちがNO.2でどっちがNO.3なのか分かんないんっすけど⁉」


 明人くんの悲鳴のような声に勇人くんも続く。


 そういえばどっちなんだろうとは思っていたけれど、ちゃんと決まっていたわけじゃなかったんだ……。

 如月さん、クールでインテリそうに見えて結構アバウト?


 ううん、それよりも……。


「親のパーティーとかで見かけていてってことは、やっぱり勇人くんと明人くんもどこかの御曹司とかなんだ?」


 裕福だっていうのは何となく感じていたし、一緒に遊園地へ行ったときは二人の家の運転手の人に送り迎えしてもらった。

 御曹司だって言われても不思議はない。


「あーまあ、一応跡取り息子ってことになんのかな?」

「てか、知り合いだから選んだって結構テキトーじゃないっすか?」


 勇人くんが私の質問に答えると、明人くんがまた如月さんに文句を言う。

 それに対して如月さんは淡々と答えていた。


「人をまとめる能力があるならそれで問題ないだろう? あとは昔から知っている相手なら人となりもある程度分かるしな」


 むしろ代々そうやって次期総長を決めてきたんだ、と彼は言う。

 すると勇人くんが声を上げた。


「え? じゃあ久保は? 【月帝】の次期総長の決め方は違うんっすか?」

「っ」


 突然幹人くんの名前が出てきてドキッとしてしまう。


 ああ、でもそうか。

 【月帝】のNO.2は三年の稲垣さんだし、順当にいけば次期総長は幹人くんってことになる。


 幹人くんが【月帝】の総長……。

 想像して、なんかカッコイイかも、と思ってしまう。


 とにかく不良嫌いだった少し前の私なら、カッコイイなんて思いもしなかっただろうけど……。

 でも、幹人くんだと良いなって思っちゃう。


 ……ダメだ、私重症かもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る