告白の障害③

 数十分後。

 私は学校の中庭に一人突っ立っていた。


 丁度見ごろを迎えているコスモスがたくさん咲き誇っているここは、秋の人気告白スポットらしい。

 今告白するならここでしょう! と奈々が力説していた。


 ちなみに春は校庭の隅にある大きな桜の木が一番人気なんだとか。


 久保くんと話せなくて落ち込む私に、友人三人は私と久保くんが二人きりになれるようにセッティングしてくれた。

 校内の見回りをするであろう久保くんをこのコスモスが咲き誇る中庭に誘導するから、ここで待っている様にと言われたのはついさっきのことだ。


 ここまでしてくれるしのぶたちに有難いなって思う。

 ちょっと照れ臭い気もするけれど、私のために考えて動いてくれてるんだもん。

 本当、友達に恵まれてるなぁ。


 気恥ずかしいけれど、温かい気持ちで私はコスモスを見ながら久保くんを待っていた。


 ……でも、そこに現れたのは――。


「……高志くん?」

「ん? 星宮さん? 何しているんだ? こんなところで」


 いや、それは私のセリフなんだけど……。


「私はちょっと人を待ってて……高志くんはどうしたの?」

「ああ、俺は中庭の確認に……。ハロウィンパーティーでここも飾り付けて解放するか検討しているところで……」


 何だか覇気のない様子の高志くんは答えながら私の方に来る。

 足取りがフラフラしていて何だか顔色も悪い。


「高志くん? 大丈夫? 大体なんでまだ仕事してるの? もう落ち着いたからゆっくりするんじゃなかったの?」


 ちゃんと休むと言っていたのに、まったく休んでいないんじゃないだろうか。


「大丈夫だ。仕事と言っても雑事だし、大した労力はかからないから……」

「それ、少しは働いてるってことでしょ? 休みなよ」


 本当に顔色が悪いから、少し強めの口調で言う。

 でも高志くんは「大丈夫だから」と力なく笑った。


 ダメだこれ。

 無理やりにでも休ませないとないやつだ。


 とりあえず休むなら保健室だよね。

 口で言っても自分から行ってはくれなさそうだし……連れて行かないとないよね?


 でもどうしよう、久保くんが来た時私がいないんじゃあすれ違っちゃうし……。


「星宮、さん?」

「ん? 何?」


 でもやっぱり私が連れて行くしかないかと思っていると、私の目の前に立っていた高志くんが声を掛けてきた。


「あれ? 星宮さん、なんで二人に? あ、奏くんなのかな?」

「え? 高志くん? 何言ってるの?」


 突然不思議なことを言い出す高志くんに戸惑っていると、彼の体がかしいで私に倒れ掛かって来る。


「え? ちょっ⁉ 高志くん⁉」


 なんとか押し留めようと彼の胸に手をついたけれど、男一人の重さは支えきれなくて。


「ぅわっきゃっ!」


 勢いよく倒れなかっただけマシかもしれない。

 でも私は高志くんに押し倒されるような形で地面に倒れてしまった。


「ちょっ、高志くん。重いぃ……」


 一体どうしたのかと思いながら彼の体を押しのけようとして気づいた。


「っ⁉ 高志くん? もしかして熱ある?」

「うっ……」


 呼びかけて問うけれど、まともな受け答えも出来ない状態みたいだ。

 首筋に手を当ててみると、ものすごく熱い。


 これ、かなりの高熱なんじゃあ……?


 本当に保健室に連れて行かないといけない状態だ。


「高志くん、大丈夫? 意識ある?」

「うう……」


 うめき声しか聞こえない。

 これは意識はあったとしてもかなり朦朧もうろうとしているんじゃないだろうか。


 どうしよう、せめてまずは高志くんの下から抜け出さないと!


 そうは思うけれど、高志くんは結構しっかりした体つきをしている。

 それがずっしりと重石のように乗っかっている状態じゃあ身動き一つ出来なかった。


「本当に、どうしよう……」

「美来?」


 途方に暮れていると、待っていた相手の声がした。


「久保くん!」


 良かった、久保くんに手伝ってもらえれば!


「美来、どこに――っ⁉ 高志⁉ なにしてやがる!」


 私たちを視界に捉えたらしい久保くんが荒々しい足取りで近づいて来る。

 そして高志くんの襟首を掴んで持ち上げた。


「高志てめぇ……言い訳があるなら言ってみろ!」


 久保くんは初めて見るような怒りの表情で高志くんを睨みつけている。

 でも意識が朦朧としているであろう高志くんが答えられるわけがない。


「待って久保くん! 高志くんただでさえ死んじゃいそうなのに! それにその掴み方だと首締まってる!」


 久保くんが高志くんを持ち上げてくれたおかげで起き上がることが出来た私は、今にも息の根が止まりそうな高志くんを助けるために声を上げた。


「は? 死んじゃいそうって――あつっ! なんだ? 熱あんのか?」


 高志くんの高熱に気付いた久保くんは、怒りを抑えてゆっくり高志くんを寝かせてくれる。


「とりあえず保健室連れていこう」

「ああ、そうだな」


 高志くんの状態をすぐに把握してくれた久保くんは、私の提案に躊躇いもなく頷いてくれた。

 なんとか私も手伝って久保くんの背中に高志くんを乗せると、一緒に保健室へと向かう。


 途中物陰に隠れるようにしていたしのぶたちを見つけて目が合った。

 久保くんを誘導してくれたあと様子をうかがってくれてたんだろう。

 驚いている表情の三人に、私は困り笑顔を見せる。


 私のために色々セッティングしてくれた三人には悪いけれど、高熱を出している高志くんを放っておくわけにはいかない。

 三人に“ごめんね”と口の形だけで伝え、後で説明しなきゃなと思いながら保健室へと急いだ。

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