告白の障害①

 ハロウィンパーティーに関しては無事に生徒たちへの告知も終わり、細かなルールも決められた。


 仮装したくない人もいるだろうから、そういう人達にはお菓子を配る方に回ってもらうとか。


 ちなみにそのお菓子を買うためのお金は全生徒から三百円ほど徴収することになっている。

 全生徒からってことで乗り気じゃない人から不満が上がるかとも思ったけれど、案外そういう声は聞かなかった。


 坂本先輩の話だと、なんだかんだお祭り好きな生徒ばかりなんだ。とのこと。

 そんなものかな? と首をひねるけれど、まあ文句がないなら良いかと思い突っ込まなかった。


 他にも小物は各自でしっかり管理するとか、衣装も平等性を持たせるために上限三千円で済ませるだとか。

 去年までにあった問題点を解消するような形でルールが決まった。


 そしてイベント内容も決まる。

 といっても急なことだったしあまり大したことは出来ない。


 校内の数か所にお菓子を配る人を配置して、仮装した生徒が校内を回りお菓子とスタンプを集めていくスタンプラリー形式だ。


 スタンプを集めると体育館に入れるようになっていて、そこではハロウィンらしい音楽が流れている。

 少しだけど飲み物も用意しておくとかで、そこでくつろぐもよし、踊ったり遊ぶのもよし、疲れたならそのまま帰ってもよしだそうだ。


 その話が決定したとき、それなら生徒会役員はお菓子配る方に回るのかな? と思っていると……。


「あ、生徒会メンバーは強制的に仮装チームだから覚えておいてね?」


 と坂本先輩に告げられた。

 何でも、人気のある生徒は是非とも仮装して欲しいという声が多く……。


 【月帝】と【星劉】の幹部と生徒会メンバーはほぼ強制的に仮装することになったらしい。


「その代わり衣装は僕が準備するから」


 と、今回に限りお金持ちである坂本先輩が生徒会メンバーの衣装を準備してくれるらしい。

 ちなみに【月帝】は八神さん、【星劉】は如月さんが準備するのだとか。


 ……そういえばあの二人も一応裕福な家のおぼっちゃまだったっけ。

 暴走族の総長なんてしてるから忘れそうになるけれど。


 時間もないから坂本先輩が選ぶというのが少し不安だったけれど、別に仮装が嫌というわけではなかったから了承した。


 そんな風に生徒会の仕事も落ち着いてきて、やっと久保くんともゆっくり会えるかなぁと思ったんだけど……。


「……何でこうもすれ違っちゃうのかな?」


 朝、隣の席で早くも寝入ってしまった久保くんを見ながら呟いた。

 教室に来て「はよ」と挨拶をしたらすぐに机に突っ伏した久保くん。

 いつものことではあるのだけれど、ここ最近は本当に眠いらしい。


「今日も朝からぐっすりだね、また遅くまでこき使われてたのかな?」


 寝ている久保くんを起こさないように声を抑えた奈々が私に聞いてくる。


「うん、そうみたい」


 答えながら思い返す。


 昨夜も9時前くらいに帰ってきたみたいだった久保くん。

 直接会いたかったけれど迷惑になるかもと思って少しだけ電話してみたんだ。


『お疲れ様、今忙しいの?』

『ああ……急遽決まったハロウィンパーティーのことで校内の見回り増やしたりとか、それぞれ衣装どうするかとか……八神さんの指示じゃなきゃサボってるってくらい忙しい』


 苦笑気味に答えた久保くんは、その後も何かやることがあるらしくてすぐに電話を切った。

 私に余裕が出来たら今度は久保くんが忙しくなるなんて……作為を感じるのは気のせいだろうか?


「まあ、お昼には少しくらい話す時間も取れるんじゃない? 今日は【月帝】のテーブルで食べる日でしょう?」


 香の言葉にそうだったと思い直す。

 流石にすぐに告白云々とはいかないだろうけれど、そういうの関係なくもう少し久保くんと話したい。


 純粋にそう思っていた――のに!


***


「あ、久保くん。今日は――」

「おい幹人、昨日頼んだ仕事終わったか?」


 昼食時、私の言葉を遮って八神さんが久保くんに声を掛ける。


「あ、まだちょっとかかりそうっす。昼飯食い終わったらやってしまうつもりなんで」

「そうか、ならいい」


 八神さんに声を掛けられて久保くんが無視出来るはずもない。


 そしてまだ仕事があるらしい久保くんは、そんな風に言われたら早くご飯を食べて続きをしなきゃならいと急ぎだす。

 私が話しかける隙もなくなってしまった。


 それでも少しくらいはとチャンスをうかがっていたのに、今度は私の方に話しかけてくる八神さん。


「そういえば生徒会の方の衣装はどういったタイプなんだ? あまり被らねぇようにしないとな」


 なんて、こっちも仕事の話だから無視も出来ない。


「選ぶのは坂本先輩なので詳しくは知らないんですけど、天使と悪魔あたりにするつもりみたいです」

「そうか、じゃあその辺りは避けた方がいいか」


 そんな感じで食事中もろくに久保くんと話せなかった。

 食堂に来る前までは勇人くんと明人くんが私にべったり状態だったし……。

 やっぱり作為を感じる。


 まさか久保くんが忙しくしてるのって私のせいなんじゃ……。


 そう考えるとちょっと落ち込んでしまう。

 酷いことをされているわけじゃないけれど、大変な状態みたいだったから。


 こんなふうに嫌がらせみたいなことされる可能性があったから、私は今まで特定の相手を作りたくないと思っていたんだ。

 でも、決めてしまった心はもう変えることなんて出来ない。

 かけていたストッパーは外れてしまった。

 久保くんを好きだって気持ちは、もう止めようがなくなってる。


 せめて私がもう少し自分の気持ちをうまく隠せていたら良かったのかもしれないけれど……。


 言いふらしているわけじゃないのに、態度や表情で気づかれちゃってる。

 感情を表しすぎる表情筋が憎い。


 やっぱり訓練した方がいいのかな?

 なんて、何度も思ったことを考える。


 でももう私の気持ちはみんなに知れ渡っちゃってるみたいだしなぁ……。


 すでにバレてしまっているのはもうどうしようもない。

 でも、もしそのせいで久保くんが大変な思いをしているんだとしたら……。


 あ、ヤバい。

 これは、本気で落ち込むかも……。


 そう思った頃にはもう気持ちは沈んでいて、久しぶりに一人じゃ浮上出来そうにないくらい落ち込んだ。


 美味しいはずの食堂の料理が、味気ないもののように思えた……。

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