新イベントとテスト 後編
「え⁉ マジ⁉ かなちゃんに負けた⁉」
すぐ近くで明人くんの声が聞こえた。
双子と奏の三人も見に来てたみたい。
勇人くんが12位で、明人くんが13位。
丁度私と奏の間にいる感じ。
「お、美来。お前は15位か?」
私に気付いた明人くんが少し得意げに近付いて来る。
むぅ……私より順位上だからって。
「……そうだよ。奏にはいつも負けちゃうんだけど……勇人くんと明人くんにも負けるなんて」
思わず唇を尖らせてふてくされると、明人くんは笑いながら私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「いいじゃんか。逆に俺らが美来より下だったらカッコ悪ぃだろ?」
「べつに、カッコ悪いとは思わないけど……」
また唇を尖らせたまま言うと、勇人くんも近くに来る。
「美来がそう思ってくれたとしても、俺たちはカッコつけてぇの」
勇人くんにもそんなことを言われて、私は困ったように笑みを浮かべるしかなかった。
私のことを好きだと言ってくれる二人。
その気持ちには応えられないけれど、気持ちまで否定することは出来ないから。
だって、異性として見れなくても大事な友達なのは変わらないし。
「……それにしても、久保は意外だったな」
複雑な顔をして奏もこっちに来た。
しのぶの近くに来て順位表を見上げている。
私もまた順位表を見上げ、確かにと思う。
久保くんの名前もこの中にあった。
しかも上の方。
2位。
1位の高志くんのすぐ下に、その名前があった。
「まあ、そうだよな」
と、奏の言葉に同意する明人くん。
「うんうん、普段の生活態度見てたらこの順位嘘だろって思うよな?」
勇人くんも苦笑いでうなずく。
「いつも寝てるし、頭良くてもまさかここまでとは思ってなかったよ……」
私は驚きを隠しもせずその名前を見つめていた。
そんな私に、しのぶがちょっと呆れた声で答える。
「いつも寝ていても怒られないのなんだと思ってたの? 流石に勉強出来なかったらたたき起こされてるって」
「寝てても怒られないのってそういうことだったの⁉」
驚いたけれど、言われてみれば納得だった。
はじめは【月帝】の幹部だし先生も怖がって注意しないのかと思っていたけれど、よくよく思い返してみると先生たちが久保くん含め【月帝】や【星劉】の人たちを極端に怖がっている様子は無かった。
それでも注意しなかったのは授業を聞いていなくても勉強が出来るからだったんだね。
……まあ、だとしても授業態度が悪いって注意されてもおかしく無いんだろうけど。
そこは大目に見られてたってことだったのかな?
「あー、やっぱり1位は高志か」
私が納得したあたりで当の本人の声がした。
さっきまで教室で寝ていたけれどいつの間に来たんだろう?
人が多かったこともあって近くに来るまで分からなかった。
「久保くん、2位なんて凄いね! ちょっとビックリしちゃった」
「え、あ……ああ。……まあ、勉強は昔から出来る方だったからな」
私は驚きを伝えたくて久保くんに近づき声をかける。
すると照れくさそうに視線を逸らされてしまった。
でもすぐに戻されたそれは、少し真剣な光を宿している。
「……でも、今回は1位取りたかったんだけどな」
「今回は? いつもじゃなくて?」
言い方に疑問を覚えてそのまま聞くと、「いつもはそこまでじゃねぇな」と返って来た。
「今回は、その……なんつーんだ? ゲン担ぎって言うか……」
ハッキリしない物言いで視線が泳ぐ久保くん。
心なしか耳が赤くなっている様に見える。
この反応でゲン担ぎ? それって……!
いつ告白してくれるのかなって思っていたからかもしれない。
そのゲン担ぎは、私に告白してOKを貰うためのもの?って、すぐに気づいてしまった。
「そっ――」
そんなのなくてもOKするのに、と言いかけて止まる。
告白されていないのに先にOKするのってどうなんだろうと思いとどまったから。
でも、ちゃんと告白してくれるつもりだったんだ。
告白をやり直すと言ったのは久保くんだけれど、テストが終わった直後も動きが無かったから心変わりしてしまったんじゃないかと不安になっていた。
良かった……嬉しい……。
心変わりなんて
そして、告白してもらえるんだと実感出来て今度は逆に気恥ずかしくなった。
今ここでされるわけじゃないだろう。
けれど、好きな人に好きだと言ってもらえると考えただけで私まで視線をさ迷わせることになってしまう。
「……なんか、甘酸っぱいね」
「だよね! はたから見てるだけでも分かるくらい甘酸っぱい」
少し離れた位置から香と奈々の声も聞こえた。
甘酸っぱいって、まさか私たちのこと⁉
そこまで分かりやすかった⁉
「星宮さん!」
香たちの言葉に驚いていると、今度はまた別の声がした。
「え? あ、高志くん?」
強く呼ぶ声にまた別の意味で驚くと、高志くんはそのまま私の手を掴んだ。
「え?」
「ちょっと生徒会室まで来てくれないか? 千隼様が生徒会役員を集めてるんだ」
言うが早いか、高志くんはそのまま私の手を引いて歩いていく。
「え? あ、ちょっと……!」
いつになく強引な高志くんに驚いて、私はみんなに断りを入れる暇もなく連れられて行ってしまう。
しばらくそのままの状態で歩き、廊下の人込みも抜けてから私は声を掛けた。
「どうしたの高志くん? そんなに急いで、何か問題でもあったの?」
真面目な高志くんがこんな風に焦る様子を見るのは初めてな気がする。
それほどに良くないことでも起こったのかと戸惑い気味に聞いた。
すると途端にピタリと足を止めた彼は、何故か困惑した表情になる。
「いや、問題があったわけじゃない。先生たちに提出した草案にOKが出たから、役員の皆にも全生徒に告知することを了承してもらいたいとのことだった……」
聞くと、確かに問題がある様には思えない。
じゃあどうしてこんな強引に私を連れ出したのか……。
「あ、すまない。引っ張って来て……」
まるで手を掴んでいたことを今気づいたというようにパッと離される。
「どうしてだろう……? さっき星宮さんが久保といるところを見て、何故かとてもイライラしたんだ……」
「高志くん?」
「すまない、きっと疲れているんだな。連休が終わってからハロウィンパーティーの許可を取ったり草案を作ったりテスト勉強したり……休む暇もなかったから」
そんなに立て続けだったんだ……。
っていうか、草案作る前にも働いてたんだね。
やっぱりあの時のはワーカーズハイだったのかな?
……本当に大丈夫かな?
「休んだ方がいいんじゃない?」
草案に引き続きテスト勉強も1位を取れるくらい頑張ったんだ。
テスト直後も、草案を詰めて先生たちに提出するまでの話し合いに欠かさず参加していた。
もう休んでもいいんじゃないのかな?
本気で心配したんだけれど、高志くんは力なく笑って「大丈夫」と言う。
「あと少し、詳しいルールとかを決めて公表してしまえばあとはゆっくり出来るはずだから」
「そう?」
心配ではあったけれど、本人が大丈夫だというのにもう休めとは言えない。
「でも本当に、気を付けてね?」
「ああ、ありがとう」
疲労が濃く見えるその笑みに、頑張ってとは嘘でも言えなかった。
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