新イベントとテスト 前編

「ハロウィンパーティー、ですか?」


 三連休も終わり、いつものように細々とした生徒会のお仕事をしていたときだった。

 生徒会役員が揃っていたこともあり、坂本先輩が大事な報告があると立ち上がって話しだしたんだ。


 何でも、中間テストが終わってから準備を始めて生徒主体でハロウィンパーティーを行うことが急遽決まったんだそうだ。


 元々いくつかのグループで、それぞれが個人的に仮装などはしていたんだとか。

 でもそれが年々大規模になって行って、しかもそれぞれのグループで衝突してしまったりと少し問題になっていたのだそうだ。


 衣装が被ってると言い合いになったり、小道具を盗まれたなんてこともあったり。


 ちなみに盗まれたっていう話は実際には借りただけだったけれど、その旨がうまく本人に伝わっていなかったらしい。



「そんな状態だったから、いっそ学校行事として学校側が管理してくれると助かるって要望は前からあったんだ」


 今回は学校側は許可を出すだけで、あくまでも生徒主体の行事だけれど。と、主に私に説明してくれた。


「でも本当に急な話ですね? いつもなら先生たちに許可を取る前に本当に必要なことなのか会議するのに」


 会計の先輩が驚きながら聞くと、坂本先輩は申し訳なさそうな笑顔を浮かべる。


「去年までのことを思い出すとやっぱりそろそろ対策を考えなきゃと思ってね……。期間を考えると時間が足りないと思って相談もなく話を進めてしまった。それは本当にすまないと思っている」


 謝罪のために深々と頭を下げる坂本先輩に、逆に会計の先輩の方が慌てた。


「なっ⁉ 頭を上げてください! 別に非難しているわけじゃないんです。何とかした方がいいとは俺たちも思ってましたから! な? みんな」


 同意を求める声に、すみれ先輩をはじめみんなが「ええ」「そうですよ」と穏やかな声で答える。

 それらの言葉を聞き、坂本先輩は頭を上げ王子スマイルを全開にして「ありがとう」と微笑んだ。


「……」


 私はそのやり取りを何とも言えない気分で見つめていた。

 だって、坂本先輩はこの展開そのものを狙って演技していたみたいだったから。


 みんなに相談もなく先生たちから許可を取って来て、ハロウィンパーティーを行うことを決めてしまった。

 色々理由を口にしていたけれど、本来ならそれでも非難されるところだと思う。


 それを坂本先輩が先に申し訳なさそうに謝ることで、その後の文句が出てこないようにした。

 もちろん坂本先輩が元々みんなから信頼されてるからなんだけれど……。


 でも私には、その信頼を逆手にとって不満の芽が出る前に押し潰したようにも見えた。


 坂本先輩の本性を多少は知っているのと、奏がたまに似たようなことをするのを見ているから気づいたんだけど。


 やっぱり坂本先輩って奏に似てるかも。

 でも二人って仲悪そうだよね……同族嫌悪ってやつかな?


「とりあえず今はハロウィンパーティーを行うことを知っておいて欲しかったんだ。中間テストも近いから、詳しい話し合いはテストが終わった後という事になる」


 みんながハロウィンパーティー開催に関して文句を言わないことを確認した坂本先輩が、優しく微笑みながら今後のことを話す。

 すると、また会計の先輩が心配そうに口を開いた。


「え? でもそれじゃあ準備期間が少なくありませんか?」


「それに関しては僕と高志で草案をいくつか作っておくから、まずはその中から仮決定したものを学校側に提出しよう。それでOKが出た時点で生徒たちに告知すれば少しは心の準備も出来るだろう?」

「でも二人にだけ負担がかかってしまうんじゃ……」


 尚も心配そうにする会計の先輩に今度は高志くんが立ち上がる。


「大丈夫です! 皆さんのテスト勉強を妨げるわけにはいきませんし、将来千隼様の秘書として働くときの練習だと思えば大したことではありませんから」


 いつになくやる気に満ちた表情で言い切る高志くんに、みんなは少し申し訳なさそうにしつつも「そうか、じゃあ頑張ってくれよ」と二人に仕事を任せていた。


「じゃあテスト明けすぐに忙しくなって申し訳ないけれど、みんなよろしく頼むよ」


 最後に坂本先輩がそう締めくくって今日の仕事は終わる。


 私はみんなが帰り支度をする中、さっき言っていた草案を作るため居残りするという高志くんに近づいた。


「お疲れ様。本当に坂本先輩と二人だけで大丈夫? 私も少しは何か手伝おうか?」

「美来さん、さっきも言ったが大丈夫だ。大変ではあるけれどキャパオーバーというほどでもないからな」


 答える高志くんはやっぱりいつもより明るい感じに見える。


「そう?」


 と返してみたけれどちょっと心配だ。

 ワーカーズハイみたいになってるんじゃないかと思ってしまう。


 ワーカーズハイっていうのはハードワークをこなした達成感などで気分が高揚している状態のこと。

 必ずしも悪いことって訳じゃ無いけれど、あまり無理をするのは良くない。


 今はハードワークをこなす前のはずだし、ワーカーズハイとはちょっと違うのかもしれないけれど……。


「……でも、体調には気を付けてね?」


 心配する私に高志くんは改めて視線を寄越した。

 その彼の表情がフッと緩む。

 優しそうに細められた眼差しで「ありがとう」とお礼を言われた。


「でも星宮さんには応援をもらった方が嬉しい。その方がやる気が出る」


 体調には気を付けるから、と口にする高志くんに私は確かにそれも一理あると納得した。


「そうだね。うん、じゃあ大変だろうけど頑張ってね!」

「ああ、頑張るよ」


 笑い合ってちょっと和やかな雰囲気になったところで、第三者が割って入って来る。


「さ、美来さんも早く帰ってテスト勉強の準備をするといい。転校してきて初めてのテストだろう? 不安な部分もあるんじゃないかな?」

「あ、はい」


 坂本先輩に笑顔でうながされ、私は生徒会室を後にした。

 実際坂本先輩の言う通りだったから。


 私の成績は結構いい方だけれど、転校後初めてのテストだ。

 しかもこの佳桜高校はマンモス校。

 この中で私の順位はどの辺りになるのか……そんな不安も少しはある。


 そういえばみんなはどれくらいの順位なんだろう?


 高志くんは当然のように上位っぽいし、勇人くんと明人くんも勉強は出来る方みたいだった。

 しのぶ達はいつも中間をウロチョロしてるって言ってたっけ。


 ……久保くんは……いつも授業寝てるけど、大丈夫なのかな?


 なんて考えながらも私はその後のテスト期間はしっかり復習して万全を期した。



 そして結果は……。



「……15位」

「美来すごい! この学校でその順位ってかなりの上位だよ⁉」


 奈々に驚きの声で褒められたけれど、私は自分より上位の名前を見ていてそれどころじゃなかった。


 30位までは廊下に張り出されるという事で、昼休みにしのぶたちと見に来ていた。

 自分の順位は分かっていたけれど、奏とか他の人はどうなんだろうと思って。


 ちなみに奏は10位。

 また負けてしまった。


 前の学校でもいつも私より少し上にいるんだよね。

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