第四部 プロローグ
プロローグ 坂本千隼
文化祭も無事終わり、事後処理もひと段落つき三連休に入った。
生徒会長としての仕事もこれで少しは楽になるだろう。
これでやっと、本格的に【月帝】と【星劉】の抗争を仕向けたやつを調べられる。
二年前は俺もまだまだ未熟で、抗争の裏に誰かの思惑が絡んでいるなんて思ってもいなかった。
だが、今回の抗争は二年前の状況とかなり似通っている。
誰かの意図を感じる程の対立。
抗争を起こして発散させなければならないほどに膨れ上がった不満。
どうやったのかは知らないが、何人かにナイフを持たせるよう仕向けるやり方。
爆竹が使われていたり、違っている部分はあるけれど似通っている部分が多すぎる。
同じ人間が裏で動いているだろう事は流石に予測出来た。
【月帝】と【星劉】を対立させて何がしたいのか。
狙いは何なのか。
人物を特定出来ればおのずと分かるだろうと、まずは誰が黒幕なのかを優先して調べさせていたが……。
「まさか、あいつとはね……」
俺は調査資料をテーブルに置いて呟いた。
意外と言えば良いのか。
それともだからこそ、なのか……。
でもあいつ一人の考えだけであんなことをしでかしているとも思えない。
他にも誰かの思惑が絡んでいるんじゃないかと思ってしまう。
「……これはもう少し詳しく調べてみないとね」
呟き、思案する。
人物は特定出来たけれど、結局目的はハッキリしない。
何のために【月帝】と【星劉】を対立させたいのか……。
それとも【月帝】と【星劉】というより、司狼と怜王を対立させたいのか?
……そっちの方向から調べてみてもいいのかもしれない。
今回のあいつの動きは何らかの“焦り”が感じ取れた。
このまま、またしばらく動きがないというのは楽観視しすぎだろう。
また何かやらかすかもしれないと思った方がいい。
そこまで考えて、ふと一人の女の子の顔が浮かぶ。
美来さん。
俺達の心を奪った【かぐや姫】。
彼女のおかげで暴走し始めた抗争は止められた。
もしかしたらあいつは美来さんを恨んでいるかもしれない。
二度も計画を潰された邪魔者として。
「……」
そこに思い至ると苦い顔になる。
二年前はともかく、今回は俺が頼んだことでもあるから……。
恨まれて、何かされないか心配になる。
巻き込まれて嫌な思いをしなければ良い。
ちゃんと守らなければ、と思った。
……でも、それはさておき。
最近の彼女の様子を思い出すと少々おもしろくない。
いや、とても面白くない。
天真爛漫とも言える彼女の笑顔。
俺や二人の総長の前では警戒で少し強張ってしまうそれが、最近ある一人の男子に対してだけまるで恋する乙女のような恥じらいを滲ませた笑みに変わる。
久保幹人。
【月帝】のNO.3。
「まさか彼を選ぶとはね……」
二年前、名前も知らなかった彼女を離すまいと先走った行動のせいで、かなり警戒されてしまっている俺達。
だから、ゆっくりアプローチするところから始めなければならなかった。
でもそうしている間に久保は彼女との距離を詰めて行っていたらしい。
しかも久保はいつの間にか変わっていた。
女好きで、特定の彼女は作らず複数人と体の関係だけを続けるような男。
いわば女の敵で、美来さんが好きになる要素なんてなかったはずだった。
それがある日を境に一変する。
体だけの関係の女たちとは一切会わなくなって、授業にも朝からちゃんと出席するようになった。
……まあ、ずっと寝ているみたいだけれど。
そして何より、美来さんへの態度があからさまに変わった。
あまりの変わりように驚きはしたけれど正直見ている方は面白かった。
久保のような男が本気で恋をしたらこうなるのかって。
美来さんにちょっと触れてしまうだけで赤面して固まってしまうような男。
そんな男が彼女に恋のアプローチなんか出来るわけないと放置していた。
でも逆にアプローチしないのが良かったのかもしれない。
久保は自然な形で、彼女の心にスルリと入って行ってしまったみたいだ。
久保は頭は良いが、計算高いわけじゃない。
狙ってしたことじゃないことだけは分かる。
「……だから尚更面白くないんだけどね」
心の内の
だから、代わりにちょっと面白いことを考えてみる。
両想いっぽい二人。
でも、まだ付き合ってはいない。
あまりやり過ぎると嫌われかねないけど、ちょっと邪魔をするくらいは良いんじゃないかな?
恋には障害がつきものと言うし。
俺ってやっぱり腹黒いのかもしれない。
そう思いながら、うっすらと笑った。
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