第三部 エピローグ
エピローグ ???
「は? どういうことだよ? 協力するって言ってただろう?」
夜の繁華街。
その裏路地で、俺は目の前にいる美しい男を睨みつけながら話が違うと問い詰める。
だが相手――【crime】の総長である高峰銀星は全く悪いと思っていなさそうな態度で「悪いな」と口にした。
「お前の話を聞いたときは面白そうだと思ったし、俺にとっても悪い話じゃねぇと思った……でもな、状況が変わったんだよ」
「状況がって……」
こっちはこいつらの協力ありきで計画を立てていたんだ。
急に状況が変わったから下りると言われても困る。
「だってな、お前の計画を実行したらあいつ絶対泣くだろ? 前はちょっとくらい泣いても楽しい方を優先しようかと思ってたが……もう無理だ」
「無理ってどういうことだよ?」
せめて納得のいく理由を知りたいと思い
すると銀星は、皮肉気だった笑みを幾分優しいものに変えて告げた。
「無理なんだよ。俺の女神を泣かせるようなマネ、出来るわけねぇだろうが」
「は? 女神?」
思ってもいなかった単語が出てきて本気で戸惑う。
女神って何だ?
何かの例えか?
「あああ! いや! なんでもない! それは気にすんな!」
俺が深読みしようとしたところに、銀星の連れ――【crime】の副総長でもある西木戸連が間に入った。
「とにかく、こっちはもう協力出来ないってことだよ。せめてもの義理立てとしてお前の計画はバラさないでいてやるからさ」
「そんなんで納得出来るとでも⁉」
ふざけるな! と怒鳴りつけたいところだったが、直後銀星に睨まれ叫びは喉で止まる。
「……てめぇが納得できるかどうかなんて関係ねぇんだよ。こっちが無理だって言ってんだから、無理なんだっつーの」
本気の睨みに、気圧された。
【crime】は【月帝】や【星劉】と違って地元の人間だけで作られたチームだ。
そのためケンカの弱い奴も多く、佳桜高校の連中からは少し舐められている。
だが、トップである銀星は別格だ。
こいつだけは【月帝】と【星劉】の総長が二人がかりになっても敵わないだろう。
それくらい強い男だ。
銀星の家でもある高峰組にしたってそうだ。
何十年も抗争がないから、地元の人間にはちょっと怖い集団の家があるくらいにしか思われていない。
実害はないから、関わり合いになろうとしなければ問題ないだろう、と。
だが、何十年も抗争がないということは裏を返せばケンカを売ってくる相手もいないってことだ。
それがどういう意味を持つのか、考えただけで背筋が冷たくなりそうだった。
敵対は、すべきじゃない。
少なくとも俺の中ではそういう相手だ。
俺は「チッ」と悔し紛れに舌打ちしつつ、仕方がないと諦めた。
「分かったよ。でも、せめて邪魔はしないでくれよ?」
一度は協力すると約束したんだ。
それくらいの願いは聞き入れてもらえるだろうと思って口にした。
だから、まさかそれすらも断られるとは思いもしなかったんだ。
「それは約束しかねるな」
「はぁ⁉」
「言っただろ? お前の計画だとあいつは泣くだろうって。俺はあいつをもう泣かせたくねぇんだよ」
そう語る銀星は、ついさっきまで俺を睨んでいたとは思えないほど優しい目を空に向ける。
あいつとは、あの【かぐや姫】のことだろう。
地味な見た目は継続している様なのに、本人の無自覚な魅力で次々と生徒たちをたらし込んでいる星宮美来という少女。
いつの間に銀星までたらし込んでいたのか……。
つくづく邪魔をしてくれる。
彼女を学校で見かけて、可愛いと……好ましいと思えば思うほど憎らしさも増す。
それほど俺にとっては邪魔な存在になっているんだ。
だから、逆に彼女を利用してやろうと思った。
彼女の存在を上手く使えば、きっと【月帝】と【星劉】に……いや、八神司狼と如月怜王の間に確かな亀裂を入れられるだろうから。
だというのに、協力してくれるはずだった【crime】の銀星は敵対する側に回った。
腹立たしくて、苛立ちを抑えられない。
「まあ、裏で色々やってるのがお前だってことは秘密にしといてやるよ。でもな、あいつを泣かせるようなマネだけはすんなよ?」
最後にそう告げた銀星は、俺の怒りなんて歯牙にもかけず去って行った。
連も共に去り、暗い路地に俺だけが残される。
落ち着け。
今銀星に怒りをぶつけたとしても、適当にあしらわれるか返り討ちになるだけだ。
協力者を失った以上、これからのことを考えなくてはならない。
この間の抗争は失敗に終わった。
あまりやり過ぎると気づかれる恐れもあるから、次を失敗すればもうチャンスはないと思った方がいい。
八神と如月は大学は別になるだろうから、明確な対立をさせる為には今しかないんだ。
去って行った銀星たちに怒りをぶつけている暇すら惜しい。
何とか腹立たしさを呑み込んで冷静に考える。
星宮美来を利用する計画は銀星たちの怒りを買う危険性がある。
だが、今更計画を練り直す時間もない。
何とか銀星たちに気取られないようあいつらの代わりを見繕うしかないか?
でもこの辺りにいる不良は佳桜高校関係者か【crime】の連中ばかりだ。
【crime】の連中は使えなくなったし、普段の俺のことを知っている佳桜高校のやつらは使えない。
俺が裏で画策していることを気取られるわけにはいかないんだ。
いっそ金で人を雇うしかないか?
思考を巡らせているうちに少し怒りが落ち着いた俺は、やっと繁華街の明るい場所へと出る。
続けて考えならが歩いていると、ある数人の集団が騒いでいるのが見えた。
あまり見ない顔だな、と思っただけであとは気にも留めず通り過ぎるはずだった。
「おい! 本当にこの街に美来がいるんだろうな⁉」
だが、仲間に対して怒鳴ったリーダー格の男の声を聞いて足を止める。
……コイツ、今美来って言ったか?
「は、はい! いるはずです! SNSで写真アップされてるの見ましたから!」
「俺も見ましたよ? 二回目確認しようとしたときには消されてましたけど」
明らかにガラの悪い男の集団。
そしてこの辺りでは見ない顔。
「で? この街のどこにいるんだ?」
「ここの佳桜高校ってとこに通ってるみたいっす!」
「全寮制らしいんで、寮に入ってるんじゃないっすか?」
そして、星宮美来を探している様子。
「寮⁉ ふざけんなよ⁉ だったらこんな時間に街うろついてたって会えるわけねぇだろうが!」
怒りをあらわにする背の高い男は、美男子の部類に入るかもしれないが目つきの悪さでそれも半減していた。
「落ち着いてくださいよ
「そうっすよ。下手に会って逃げられたらまたいつ会えるか分かんないじゃないっすか。奏に知られたらまた色々邪魔されるだろうし……それは避けたいでしょう?」
奏という名前が出たことで確信する。
こいつらはあの星宮兄妹のことを知っているんだと。
そして、おそらくあの二人の地元の人間だと。
……これは、使えるかもしれないな。
こいつらは俺のことを知らない。
それにこの辺の人間じゃないから銀星たちに話が伝わる心配もない。
しかも今の話の内容を聞く限り、美来を狙っている連中のようだ。
俺と利害が一致するかもしれない。
「チッ……まあ、確かに次こそは逃がすつもりはねぇからな」
「なあ、あんたたち。もしかして星宮美来を探しているのか?」
橋場と呼ばれた男が渋々納得し落ち着いたことろを見計らって声を掛ける。
「……なんだ、てめぇは? 美来を知ってんのか?」
橋場は突然話しかけてきた俺を警戒するように睨みつけた。
その様子は迫力があったが、それだけで怖気づくほど俺は弱くない。
「もしかして、彼女が欲しい……とかいう感じか?」
「……だったらどうだっていうんだ?」
睨まれても動じない俺に、橋場は思ったより冷静に対応している。
怒りっぽい性格にも見えたが、案外頭は悪くなさそうだ。
俺はついてるのかもしれないな。
銀星たちより、こいつらの方が計画には適任かもしれない。
その喜びに思わず口角を上げて、俺は計画へ誘うための言葉を口にした。
「あんたたちが星宮美来を手に入れる手伝いが出来るかもしれない、と言ったらどうする?」
【地味同盟~かぐや姫はイケメン達から逃れたい~ 第三部完】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます