たらし込む一夜③
「ありがとうございます。……もしかしてこれも手作りですか?」
私も受け取りながら聞いてみた。
だって、容器が陶器だったし明らかに買ってきたものって感じじゃなかったから。
「ああ。まあ、常備してる材料で作ったものだからふわとろ系じゃなくて昔ながらのプリンだけどな」
「へぇ……」
無難な相槌を打ちながらそれでも凄いと思う。
料理だってこんなに上手なのに、デザートも作れるとか……。
私がスイーツ系あまり作れないのもあって、純粋に賞賛したい気持ちになった。
「ん、美味しい」
先に食べた遥華が口元を綻ばせながら素直な感想を口にする。
続くように私も一口分すくって、まず全く“す”が入っていないことに感動を覚えた。
前自分で作ったときは“す”が入りまくって残念な舌触りになったから。
料理もデザートも上手なんて……もう料理人になった方が良いんじゃないかな?
そう思いながらパクリと食べる。
「んん~!」
ほど良い甘さと滑らかな舌触り。
食事の後の甘味として本当に丁度良くて、もしかしてこの控えめな甘さとかも計算してるんじゃないだろうかと思った。
「美来って本当に幸せそうに食べるよねー。見てるこっちまで幸せな気分になっちゃう」
「美味しいもの食べたら誰だってそうなるでしょ?」
聞き返すように答えながら、私は二口目のプリンをすくう。
「それでも美来ほどじゃないよ。……でも確かにこのプリンは美味しいね。アーモンドの風味があって、私好み」
私ほどじゃないと否定しておきながら、遥華も幸せそうに食べている。
でも待って。
「え? アーモンド?」
どこにそんな風味があるの?
不思議で聞くと、連さんが答えた。
「ああ、遥華はアーモンド好きだから入れてみたんだ。でもナッツ系はアレルギーとか苦手なやつもいるから、美来ちゃんの方には入れてない」
「そうなんですか? でも私は大丈夫ですよ?」
連さんって思っていたより気遣い出来る人なんだなぁ。
そんな風に感心して、連さんへの好感度が急上昇する。
「じゃあ味見してみる? はい、あーん」
遥華が自分のスプーンですくったプリンを差し出してきたから、私はついいつものクセでそのスプーンをパクッと口に入れた。
「なーんて、って……え?」
私にはいつものことだけれど、遥華は冗談で差し出しただけだったみたい。
驚いた顔で見返された。
やっちゃった、とは思うものの、口に入れたものを戻すわけにもいかない。
私はそのままアーモンド風味のプリンを味わわせてもらった。
「んんー……あ、美味しい……」
プリンの甘さの中にアーモンドの風味が広がって更に美味しくなってる。
美味しくて幸せ過ぎて、つい頬がふにゃあっと緩んでしまった。
「美来……」
呆然とした様子で私の名前を呼ぶ遥華にハッとする。
冗談で差し出したもの食べられて驚いたよね?
失敗したかな? と思って顔を上げると優しく抱き締められた。
「へ? 遥華?」
「美来、可愛すぎ。二日だけなんて言わずにここに一緒に住まない?」
「ええ⁉」
流石にそれは無理だよ、と答える前に今度は連さんが遥華ごと抱き締めてくる。
「ちょっ、本当に何なんだよこの可愛すぎる生き物は⁉」
「あの、連さん苦しい……」
訴えるけれど、それが聞き届けられる前にまた別の声が掛けられた。
「……おい、お前ら人の女に何勝手に抱きついてんだよ? 特に連、お前どういうつもりだ?」
いつの間に近くに来たのか、怒りを滲ませた銀星さんの声が降ってくる。
人の女って、勝手なこと言わないで欲しい。
「私は誰の女でも――」
ありません! と抗議しようとしたけれど、連さんが腕を離さないまま銀星さんを睨み上げ声を上げる。
「どういうつもり? こんな可愛い子は守ってあげなきゃと思ってるとこだよ」
「は?」
「銀星、お前美来ちゃん次泣かせたらマジでぶん殴るからな?」
「……」
真剣な声で言う連さんに銀星さんは呆気にとられてるみたい。
「私も! 美来が嫌がるような事したら許さないんだから。毎朝あんたの顔の上に虫ばらまいてやる」
「はぁ⁉」
遥華も続けて私を守るような事を口にする。
でもその具体的な嫌がらせは何なんだろう?
銀星さん虫嫌いなのかな?
まあ、寝起きに顔に虫ばらまかれたら誰だって嫌だけど。
「お前ら突然どうしたんだよ? ちょっと前まではもう少し俺に協力的だっただろ⁉」
二人の様子に戸惑う銀星さん。
遥華と連さんは変わらず私を抱きしめたまま。
「……」
これは……私にここでの保護者が出来たってことかな?
少なくとも銀星さん対策としては強力な保護者になりそうで良かったのかも。
ちょっとだけ安心材料が増えたところで、夕食は終わった。
***
食後は少し休んでからお風呂に入る。
ちょっとした銭湯くらいの大きな湯舟に遥華と二人で入った。
「え? 露天風呂もあるの?」
「うん、親父さんの趣味でね。ちゃんと温泉も引いてるんだよ?」
「凄い……」
職業は置いとくとしても、豪邸だしお金持ちの部類には入るんだろう。
でも、一家庭に温泉引いてること自体が凄いのに露天風呂作るとか……。
本気で好きじゃなきゃ作らないよね。
「今日は男連中が一斉に入って汚れてそうだしさ、明日一緒に入ろうよ。貸し切りになるようにしておくから」
「うん」
覗かれないかとか心配なところはあるけれど、その辺りをちゃんとしてもらえるなら私も入ってみたい。
「いつもは私一人になっちゃうからあんまり露天にはいかないんだよね。女だけで貸し切りしよー」
拳を上げて軽く意気込む遥華に、私はちょっと疑問に思ってたことを聞いてみる。
「女と言えばさ……充成さんの奥さん――銀星さんのお母さんっていないの?」
さっきの食事のときもいなかったし、今遥華も露天は自分一人になるって言った。
もしかして――と良くない想像をしてしまう。
でも、遥華は「ああ! ごめん!」と謝って慌てて否定する。
「説明してなくて誤解させちゃったよね? 亡くなってるとか離婚してるとかってわけじゃないから」
「そうなの?」
実はそういうことを想像していたから否定されてちょっと安心した。
でも、続いた言葉にどう反応していいのか困る。
「姐さんは今旅行中なの。って言うか、一年のほとんどが旅行」
「は?」
「まともに帰ってくるのは正月くらいじゃないかな?」
遥華の話では、銀星さんのお母さんは気ままに旅行に行って、お金が無くなるとその美貌で現地の人に貢がせて暮らして、飽きたら帰ってくるんだとか。
「今はラスベガスにいるって聞いたから、しばらく戻ってこないんじゃないかな?」
「へ、へぇ~……」
……なんて言うか、すごい人だな。
銀星さんにそっくりだって聞いたから、美貌で貢がせるっていうのは納得出来てしまうけれど。
高峰家の意外な事実を知ったところで、私たちはお風呂から上がって寝る準備をした。
歯を磨いて、布団に入る前にお手洗いに行くという遥華。
私は先に部屋に戻ってスマホをチェックしてみる。
すると、奏からメッセージが届いていた。
《大丈夫だったか? 問題ないか?》
その文面を見た途端「うっ」と少し呻いた。
大丈夫ではあるけれど、問題は全くないとは言えないから。
でも遥華を傷つけたくないし、それに連さんという保護者も出来た。
銀星さんのことは心配だけれど、多分大丈夫だから問題ないってことにしよう!
《大丈夫だよ。遥華の家の人には良くしてもらってるし、ごはんも美味しいしね!》
面と向かって口にしていたら表情でバレてしまいそうだったけれど、メッセージだけだから大丈夫!……きっと。
《そうか?》
と聞き返されつつも納得してくれた様子なのでそのやり取りを終える。
そこで丁度遥華が戻って来たから、私達は布団に入りながら沢山お話をして、最後に「おやすみ」と言い合って眠りについた。
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