遥華の家 前編

「その遥華って子、本当に信用して大丈夫なのか?」

「大丈夫だって。いい子だよ?」


 荷物をまとめて寮を出て、今更ながらに心配性を発揮する奏に私は苦笑する。

 遥華のことをよく知らないから心配になるのは分かるけれど、私の言葉くらいは信用して欲しい。


「でもな、出会った経緯とか関係性を聞くとどうしても心配になるって言うか……」

「そうだよ、銀星と関りがある女なんだろ?」


 まだ渋る奏に久保くんも同調する。

 久保くんまで心配性になってしまったみたいだ。


「二人とも心配しすぎだよ」


 困り笑顔でそう返すと丁度駅に着いた。

 久保くんの家はここから二駅ほど離れてるという事で、二人とはここでお別れだ。


「じゃあ久保くん、奏をよろしくね」

「ああ……何かあったら連絡寄越せよ?」

「些細なことでも心配なことがあったら連絡しろよ?」


 変わらず心配性な二人に「分かったから」と返事をして、私は遥華との待ち合わせ場所のバス停に向かう。

 街中よりは少し離れるのでバスを使うと言っていたから。


 行ってみると、バス停近くに設置されたベンチにいつもより少し控えめなメイクをした遥華がスマホをいじりながら座っているのが見えた。


「遥華! お待たせ」

「あ、美来!」


 声を掛けるとスマホ画面からパッと目を離し私を見る遥華。

 途端に笑顔になった彼女に、私まで何だか嬉しくなった。


「突然のことなのにありがとう。明後日までよろしくね」

「ううん、いいの。私も美来ともっと話したかったし!」

「そうなの? ありがとう!」


 急なお願いを聞いてくれただけでなく嬉しいことまで行ってくれる遥華に笑顔を向ける。


「……」


 すると、何故か遥華は私をジッと見て黙り込んだ。


「……遥華? どうしたの?」


 小首を傾げて聞き返すと、遥華はまるで恋をする女の子のようにふわぁっと可愛らしい表情になった。


「うん、なんていうか……今の美来、地味な格好してるのに何だか凄く可愛い」

「え?」

「そんな格好なんて関係なく、笑顔がものすごくキラキラしてるように見える」

「そ、そう?」


 自分じゃあ分からないから、聞き返すように答えることしか出来ない。


 そういえば奏にもこの格好意味なくなってきたな、とか言われたっけ。

 それでも地味な格好は続けろって言われてるけど……。


 なんて思い返していると、遥華はワクワクした表情になって口を開いた。


「もしかして美来、恋でもしてる?」

「ぅえっ⁉」


 突然言い当てられて、不意打ちに顔がカァッと熱を持つ。


「え? うそ、本当に?」


 言い当てておきながら遥華も驚きの表情。

 でもすぐにニヤァとからかいの笑みを浮かべて追及してきた。


「誰? 銀星なわけはないよね? 同じ学校の人?」

「なっ⁉ 恋してるなんて言ってないよね⁉」

「言わなくても分かるって。美来顔に出過ぎだもん」

「……」


 いつもながら表情でバレバレだったみたい。

 否定しようにも、もう遥華の中では私に好きな人がいるという事になっているようだった。


「ねえねえ、どんな人?」


 そう言って私の好きな人を聞き出そうとしてくる彼女は、グイグイ来るけれど押しすぎないというショップ店員のスキルを駆使してくる。

 結果、バスに揺られている間に私の好きな人が誰なのかはしっかり知られてしまった……。


「うう……別に隠してるわけじゃないけど、あまり言いふらさないでね?」


 というより、隠し切れないんだけれどね。

 全く、私の表情筋っていつになったら引き締められるようになるのかな?

 ちょっとは出来るようになってるときもあるのに。

 バスから降りて徒歩で遥華の家へ向かいながら項垂れた。


「まあ、銀星とかには言っちゃうかも知れないけど。わざわざ言いふらすようなことはしないって」

「うん……」


 っていうか、私を狙っているらしい銀星さんに知られても大丈夫なのかな?

 まあ、銀星さんはあくまでカラダ目当て的な感じで私を好きってわけじゃないから平気なのかな?


 なんて思っていたんだけれど、続いた遥華の言葉に耳を疑う。


「でもそっかぁ。銀星フラれちゃったんだねぇ」

「は?」


 フラれるって、誰に? 私に⁉


「え? 待って、銀星さん私のこと子ども扱いしてたよね? 本気で狙って来てる感じじゃなかったよね⁉」


 驚きのまま聞き返す私に、遥華はこの間の文化祭前日の夜歌っていたところを見ていたと教えてくれた。


「え⁉ 見てたの⁉」


 学校が違うから部外者なのに、見ていたという事にまず驚く。


「うん、美来カッコよかったよー? 銀星もあのときの美来の姿見て本気になっちゃったみたい」

「ええー……」


 見られていたことにも驚いたけど、それで本気になられても困る。

 銀星さんを好きになることなんてあるわけないし……何より、そのせいで久保くんが酷いことをされないかと心配になってしまう。


「どうしたの? 美来は何を心配してるの?」


 私の不安を見て取ったらしい遥華に、私はこの際だからと不安なことも一通り話した。

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