第二学生寮のトラブル 前編
後日、差し入れに関しては相談したすみれ先輩が何とかすると言ってくれた。
生徒会の仕事もあるのに申し訳ないなって思ったんだけど、文化祭が終わると二月の生徒会選挙まではそこまで大きなイベントはないから大丈夫なのだそうだ。
でもすみれ先輩には色々お世話になってるし、何かお礼しなきゃなぁって思った。
手作りのお菓子とかあげたら喜ぶかな?
お菓子はあまり得意じゃないけれど、奏に教えてもらえば簡単なものなら出来そう。
今週末は三連休だし、ゆっくり考えてみようかな?
なんて思っていたんだけど、予想もしていなかったトラブルが発生してしまったんだ。
***
三連休初日の朝。
休みだからとゆっくり朝食の準備をしていたときにそれは起こった。
「え? あれ?」
突然さっきまで普通に出ていたはずの水道が出なくなり、蛇口だけでなく首もひねる。
何度開け閉めしても出なかったので、隣の部屋の奏に電話で聞いてみた。
「そっちの水道はお水出る? こっちの部屋だけなのかな?」
『いや、こっちも出ない。ちょっと久保にも聞いてみるか』
そう言う奏に付き合うように、私も外に出て久保くんの部屋を訪ねた。
「おい久保、起きてるか?」
インターホンを押して声を掛ける奏。
すぐにドアを開けた久保くんは起きたばかりだったのか、寝ぐせをつけたままだった。
「おはよう、久保くん」
「お、おう。……はよ」
思いがけず朝から会えたことが嬉しくて笑顔で挨拶すると、久保くんは私もいるとは思わなかったのか少し驚きつつも戸惑いがちに挨拶を返してくれた。
そんな私達の空間をぶった斬るように奏は早々に本題を口にする。
「はい、おはよう。おい久保、こっちの部屋の水出なくなったんだけどお前の部屋は出るか?」
「あ? いや、俺も今起きて水飲もうとしたとこだったんだけどよ。出なかった」
「そっちもか……もしかしてこの寮全体で断水してんのか?」
久保くんの返答にグッと眉間にしわを寄せた奏は独り言のように呟く。
そうしている間に、他の部屋の寮生たちも部屋から出てきて「どうだ?」「そっちもか?」などと話し始める声が聞こえてきた。
その様子に奏の呟きの通り、寮全体が断水してるんだって知った。
私たちはそんな他の寮生たちと共に何があったのか聞くために寮母さんの部屋へ向かったんだけれど……。
「もう、あなた達ちょっと待ってなさい!」
出てきた寮母さんは丁度電話をしていたのか、一先ず押しかけて来た生徒たちを黙らせるため叫んでいた。
「ええ。はいそうです……はい、お願いします。……ふぅ」
叱られて押し黙った寮生たちが見守る中、寮母さんは電話を終わらせると困ったようにため息を吐く。
そして顔を上げみんなに話した。
「みんな断水の原因が知りたくて来たんでしょうけれど……。私だって突然出なくなって困っているのよ?」
文句という前置きをしてこれからどうすればいいのかを告げる。
「とりあえず業者を呼んだから、原因を突き止めて直してもらいます。それまで不便だろうけれど、水道は使わないで過ごしてちょうだい」
寮母さんの話を聞いてみんなは散って行った。
彼女の話しぶりだと、今日中には何とかなりそうかな?って思ったから。
私もとりあえず朝ごはんは出来ていたから、奏と一緒に食べてしまう。
洗い物は出来ないけれど、桶に溜まっていた水があったので浸けておいた。
色々と不便だったけれど、今だけと思って午前を過ごす。
お昼ご飯はこれ以上洗い物を増やすわけにもいかないから外で食べることにした。
久保くんも誘って、三人でファミレスで食事をする。
午後には直っていればいいねー、なんて話していたけれどそう簡単にはいかなかったみたいで……。
「あ、あなた達出かけてたのね?」
寮に戻ると、外にいた寮母さんに声を掛けられる。
何かあったのかと周囲を見ると、寮の敷地内に小型のショベルカーなどが入っていて少し物々しい雰囲気だった。
え? 何? どうなってるの?
「ごめんなさいね、調べてもらったら配管がかなり古かったみたいで……。建物内の水道管も点検したいからってことで、急遽寮を一時閉鎖しなきゃならなくなったの」
「え⁉」
「は⁉」
私と久保くんが声を上げて驚く横で、奏は苦々しい表情を浮かべ詳しく話を聞いていた。
「閉鎖って、いつまでですか? 部屋の荷物とかはどうすれば?」
流石奏。すぐに必要な情報を得ようとしている。
「三連休の最終日までよ。明後日の午後には何とか戻れるようにしてもらうから。あと荷物はそのままでいいけれど、念のため貴重品だけは持っていってちょうだい」
「……」
急展開に言葉が出てこない。
寮から出てどこに行けばいいの?
「丁度三連休だからって家に帰る子も多かったし……急で悪いけれど、あなた達も家に一度帰ってみたらどうかしら?」
そう提案をした寮母さんは業者の人に呼ばれて「それじゃあ明後日」と言い残し行ってしまった。
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