双子の決意 後編
次の日の昼食どき。
今日は【星劉】のテーブルで食べる日だけれど……。
「ほら美来、俺のから揚げ一つやるよ」
私の左側に座る明人くんが塩唐揚げを一つお皿に乗せてくれる。
「この茶碗蒸し、だしがメチャクチャ美味いんだよ。ほら、あーんしてやろうか?」
右側の勇人くんはスプーンにひと口分茶碗蒸しを乗せて差し出してくる。
「いや……男の子からのあーんは貰わないって奏と約束したから」
勇人くんの茶わん蒸しをお断りしながら、いつにも増してべったりしてくる二人に戸惑う。
ついでに言うと向かい側にいる如月さんがものすごく冷たく怖い目でこっちを見ているから落ち着かない。
というか怖い。
「あの、さ……二人とも何で今日はそんなべったりしてくるの?」
このまま如月さんに睨まれ続けたくないので、原因究明のためにも聞いてみた。
「そりゃあ美来のことが好きだからに決まってんじゃん」
「いっつも一緒にいられるわけじゃねぇんだ。一緒にいるときくらいべったりでも良いじゃねぇか」
勇人くんがサラリと当然のように私を好きだと言い、明人くんがこれまた当然のように一緒のときはべったりするんだと言う。
「何? まさか俺の告白忘れたなんて言わねぇよな?」
「忘れてはいないよ?」
忘れてはいない。
でも前までも結構絡んで来てたし、態度がそこまで変わった感じもしなかったから……。
今までとの違いを感じていなかったから今みたいにべったりされるとは思っていなかったと言うか……。
「なあ美来」
明人くんの声に答えていると、勇人くんが私を呼ぶ。
見ると、色々と吹っ切れたような表情をしていた。
「俺も美来が好きだよ」
「っ!……ありがとう」
さっきも言われたけれど、改めて告白されて本気のものだと分かる。
返事を求められてる感じはしなかったから、お礼しか口に出来なかったけど。
「でも俺は、その美来への好きも明人と共有するものだと思ってた」
「……」
「明人は違うって知って、俺は本当に美来のこと好きなのかなって悩んだりもしたんだ」
「それは……」
何とも言えない。
私も双子だけれど、男女の違いがあるせいか奏と何かを共有することってあまりないから……。
だから心から理解することは出来ない。
「でもさ、最近の美来を見てて分かったんだ。俺は美来が好きになるのが明人なら諦められるけど、他のやつだったら絶対諦めきれないって」
「……」
それは……どう受け止めれば……。
「ならやっぱり美来のこと本気じゃねぇのかなって思わなくもねぇけど、もうその辺悩むのやめたんだ」
ニカッと、晴れ晴れとした笑顔になる勇人くん。
彼はそのまま私の右手を取った。
「俺が美来を好きだって気持ちは本物だ。それだけは絶対確かな気持ちなんだ」
「っ!」
正直、困る。
でも、その真っ直ぐな気持ちにはドキッとさせられてしまって……。
「美来が明人を選んだときだけ諦める。でも、明人以外だったら諦めない。これが俺なんだって分かった。だからもうそれを貫き通すって決めたんだ」
矛盾している様にも思えるその気持ち。
でも、勇人くんの目には強い決意を感じる。
これが自分なんだっていう、ブレない意思。
そんな勇人くんはいつもよりカッコよく見えて、ちょっと見直してしまった。
「勇人はそうかも知れねぇけど、俺は違うからな?」
左手を取られ、今度は明人くんが話しかけてきた。
声に左を見ると、可愛い顔に男らしさを垣間見せる笑みを浮かべている。
「俺は相手が勇人だとしても諦めねぇ。諦められねぇって気づいた。だからホントに覚悟しろよな、美来」
「え……なに、を……?」
聞き返さない方がいい気がしたけれど、多分私が聞き返さなくても同じことを言われたと思う。
取られた両手を持ち上げられ、指先に柔らかいものが触れた。
「っちょ⁉」
『俺たちに愛される覚悟だよ』
揃う声に私は金魚のように口をはくはくさせる。
もはや本当に何を言えばいいのか……。
左右を見て、どちらも引き下がりそうにないってことだけは分かった。
困り果てて正面を見ると、今度は目の前にある如月さんの表情にビクッと思わず震える。
これは、明らかに怒っている……。
「お前ら……よくも俺の目の前でそんな真似が出来るな?」
底冷えするような眼差しといつにも増して冷たい声音。
そんな彼にいつもだったら怯える双子だけれど……。
「いくら如月さんでも美来のことだけは諦められないっすから」
「そうですよ。今俺、明人以外は諦められないって言ったの聞いてましたよね?」
怯えなんて欠片も見せずに挑戦的な目で言い返す二人。
「お前ら……」
さらに冷たく低くなる声に、私が怖くて涙目になりそうだ。
勇人くんが心を決めていつもの仲の良い双子に戻ったのは良かった。
でも勇人くんの言葉からすると、諦めないってのは告白を断ってもってことだよね?
告白を断るのはいつも申し訳ない気持ちになってしまう。
仲の良かった友達なら尚更。
だからある意味お断りはしなくて良いってことで良かったとも言える……のかも知れない。
でも、私が一人を選んでも諦めないってことだから……。
「美来」
「好きだよ」
如月さんの表情に怯えながらも考えていると、両側から甘い声が聞こえた。
そして――。
チュッ
「………………へ?」
なんか、二人の顔が近いなって思った次の瞬間。
私の両頬に柔らかいものが触れてリップ音が聞こえた。
そして目の前の如月さんがガタン! と椅子を鳴らして立ち上がり驚く。
今、もしかしてほっぺにキスされた?
「っな⁉」
理解し、固まる。
そんな私の顔を覗き込む二つの可愛い顔は、イタズラが成功した子供みたいに嬉しそうだ。
無邪気なほどの二人に、私は一つだけ告げる。
「頬へのキスは……許してないんだけど?」
って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます