休み明けの争奪戦②
これはいったいどういう状況なんだろう……?
噂の渦中の私が注目されているのか、単純に久保くんや双子が揃って登校していることに注目されているのか分からないけれど、多くの視線を浴びながら何とか校門にたどり着いた。
すると、そこには二つの勢力がにらみ合っている光景が繰り広げられていたんだ。
「素顔の美来さんはとっっっても可愛かったわ! やっぱり彼女はカッコイイのではなくて可愛いのよ!」
自慢げに胸を反らして対面する相手にそう主張するすみれ先輩。
その後ろでは、いつの間にか増えていた《美来さんは可愛いファンクラブ》の人たちが「そうだそうだ!」と声を上げる。
合間に。
「でも有栖川先輩だけずるい!」
「そうよね、私たちだって美来さんの素顔見たいのにー!」
なんて声も聞こえた。
「素顔を見たからってどうだというの? 彼女の内面からにじみ出るカッコよさが分からないなんてやっぱりあなたはまだまだね」
すみれ先輩の言葉を鼻で笑うのは宮根先輩だ。
その後ろには、少数とはいえこちらも増えた様子の《美来様イケメン女子ファンクラブ》のメンバーがうんうん頷いている。
え? これ本当にどういう状況?
スルーして通り過ぎたいんだけど、がっつり進行方向に陣取っている。
避けることは出来ないし、近づいたらどうしたって見つかってしまう。
どうしようかと途方に暮れ、奏に「どうしよう?」と意見を求めようとしたけれど……。
「あ! 美来様!」
ファンクラブの一人に気づかれてしまった。
途端に彼女たちは私を見て、一斉にこちらに向かってくる。
「ひっ」
いくら女子とはいえ、大勢が一気に向かって来たら怖いものがある。
思わず後退りしてしまいそうなのを何とか耐え、彼女たちを迎えた。
「美来様の素顔がどれほど可愛らしかろうが、私たちは貴女のカッコイイところをちゃんと分かっていますから!」
「は、はぁ」
宮根先輩にいきなりよく分からない主張をされて戸惑う。
「確かに美来さんは素晴らしい女の子だからカッコイイところもあるかもしれないわ。でもそれも含めてやっぱり可愛いと思うのよ!」
しかもすみれ先輩もそれに続いて来る。
カッコイイけど可愛いとか、主張が混ざって来てるんじゃないのかな?
そしてそんな二人をかき分けて声を上げるツワモノが一人。
「それでその! 素顔は見せてくれないんですか⁉」
さっきすみれ先輩をずるいとか言っていた子の一人だ。
私は確認のためにチラリと奏を見る。
無言で首を横に振られて、まだダメなんだなと理解した。
「その……納得出来ないって人に見てもらうために、もっといろんな人がいるところで見せようと思ってるから……」
そう、疑っている人達に主に見てもらわなきゃ意味がないから。
「そうですか……」
残念そうにしゅんとしおれる彼女には悪いけれど、こういうのは効果的に見せるための時と場所というものがある。
そしてそれは今じゃない。
「それよりも皆さんどうして朝からこんなところに?」
話を逸らす意味でも、さっきからずっと感じていた疑問を口にした。
「それはもちろん!」
「美来様を守るためですわ!」
「は?」
つい先ほどまで対立していたはずなのに、息ピッタリで宣言するすみれ先輩と宮根先輩。
話を聞くと、どうやら彼女たちも第一学生寮の様子を見て私を守らなきゃと思ったらしかった。
色々と暴走気味な気もするけれど、その気持ちだけは純粋に嬉しい。
「ありがとうございます」
ちょっとは困ってしまうけれど、今は素直に笑顔でお礼を伝えた。
「はぅっ……」
「きゅわわーん……」
すると何故か目の前の二人は撃沈してしまう。……解せぬ。
「……はぁ……その格好でもこれとか。眼鏡の意味なくなってきてるな」
近くに来てそう呟いた奏だったけれど、それでもこの格好は続けろって言うんだからこっちも解せぬ、だよ。
そんな私の不満を知ってか知らずか、奏はそのまま話し出した。
「思った以上に混沌としていそうだな……。まとめるためにも、素顔見せるの一番効果的な方法取るしかないな」
「って言うと……?」
嫌な予感を覚えつつも促して聞いてみる。
「生徒会長に話は通しておくよ。昼休み、頑張って演じ切れ」
「………………マジかぁ」
奏の言葉から何をすべきかを察して、私は気が遠くなる思いがした。
予想していたやり方の中で、一番避けたかったやつなんだけどなぁ……。
***
守られていたおかげで突撃してくる人はいないまでも、色んな視線を浴びながら午前中の授業を何とか終えた。
そして、昼休み。
「美来さんは生徒会役員になったからね。今後お昼は生徒会のテーブルで食べてもらうから」
坂本先輩がそう宣言したことで癒しのお食事タイムが殺伐としたものに変わった。
「ああぁ⁉ どういうことだよそれ?」
ただでさえ野獣のような力強い目を吊り上げ、坂本先輩を睨む八神さん。
「美来が生徒会に……先に手を回されたか……。だが、そのまま独り占めしようなんて許せるわけがないだろう?」
如月さんはいつもの冷たい声にさらにひんやりとした怒りを乗せて、眼鏡の奥の眼差しにも冷気を宿らせた。
私はそんな三人を目の前に、お昼のカレーを頂いている。
「さ、美来さん。今日のデザートは料理長特製のバニラアイスね。溶けないうちに召し上がれ」
私の周りにはすみれ先輩を含め生徒会の女子メンバーが集まっていて、なにやら色々世話を焼かれていた。
「ありがとうございます。でもちゃんと自分で食べれますからね? あーんとかいらないですからね?」
他の女の子が食べているものをひと口もらうときならともかく、自分のものをわざわざあーんとかされるのはちょっと……。
だから断ったんだけど、すみれ先輩は残念そうに眉を下げてしまう。
「残念ね……あーんして美味しそうに食べる姿がとても可愛らしいのに……」
「えっと……すみません」
何と返せばいいのか分からなくてとりあえず謝っておいた。
そんな感じで食事を終える頃には目の前の三人の話に決着がついていた様で、私は今まで通り3つのテーブルをローテーションで回ることになったらしい。
……私の意見は全く聞かれてないけれど。
「さてと、食事は終わったかな? 美来さん」
話し合いが終わると坂本先輩にそう聞かれる。
「……はい」
この後行われることを思うと、気が進まなくて返事も小さいものになる。
でもやらないわけにはいかない。
でないと、いつまで経っても私が本当に【かぐや姫】なのかと疑う人たちは出るだろう。
それに、朝のように素顔を見たいと言ってくる子もまた出てきそうだ。
ここは奏の言う通り、一番効果的な方法で出来るだけ多くの生徒に知らしめるしかない。
坂本先輩は私が座っている場所まで来ると、左手を差し出してくる。
「さあ、エスコートしましょう。俺のプリンセス」
キザッたらしい言葉だけれど、外見王子様な坂本先輩が言うと全く嫌味にならない。
むしろ似合っている。
「……よろしくお願いします」
私は差し出された手に右手を乗せ、軽く引かれるままに立ち上がった。
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