休み明けの争奪戦①

 振り替え休日は二日。

 遊園地に行った次の日はもう何もする気がないくらいだらけてた。


 文化祭準備を生徒会のお手伝いで走り回り。

 本番前日には【月帝】と【星劉】の抗争を止めた。

 そしてすぐ翌日は文化祭本番で、昨日は思い切り遊んだ。


 格闘技を習っていて普通の女の子より鍛えているとはいえ、流石に疲れた。

 だから二日目の休みは本当に半分くらい寝て過ごしてた。


 でもそのおかげで疲れは取れたと思う。


 勇人くんや明人くんのことは気がかりではあるけれど、休み明けはそれすら気にしていられない状況になりそうだと思うから体力が回復して良かった。


 そしてそれは朝から実感することになる。



【朝ごはんは第一学生寮に来ない方がいいよ! 寮の中で美来のこと騒ぎになっているから!】


 制服に着替えているとき、しのぶからそんなメッセージが届いたから。


 すぐに電話で確認したところ、文化祭中に走り回って私を探していた【月帝】や【星劉】の人たちを見ていた一般生徒たちが、当然ながら“何なんだ?”と疑問に思ったそうだ。

 そして、休み中に仲の良いメンバーとかに事情を聞いた人たちが寮の中で言いふらしたらしい。


 結果、二日の休みの間に学校の生徒ほぼ全員に私が二人の総長や生徒会長が探していた【かぐや姫】だとバレてしまったんだとか。


『ほとんどが信じられないって感じみたいではあるけれど、だからこそ確かめてやろう!って騒ぎ立ててるんだ。美来、学校来るときも気を付けてね!』


 と、何度も注意をされた。


「……学校、行かなきゃダメかな?」


 仕方なく自分で朝食を作って奏と食べているときにポツリとこぼす。


「ダメだろ」


 奏はこちらを見もせず即答である。

 可愛い妹が困っているっていうのに遠慮がないというかなんというか……。


 基本過保護なくせにこういうところは優しくないんだから!

 奏の分の卵焼き奪ってやろうかな? なんて画策していたけれど。


「今日行かなくても明日も状況は変わらないだろうし、そうやっていつまでも休むわけにもいかないだろう?」

「ぅぐっ……」


 正論を言われて言葉を詰まらせる。


「とにかく行ってみないと、どの程度の状態なのかも分からないだろう?」

「……分かった」


 奏の言うことは最もなので、とりあえずは言うとおりにしよう。

 これでもし私自身でも対処しようがない状態だったら逃げるけどね!


 それだけは決めて、私は朝食を終えた。


***


「……はよ。じゃあ行くか」


 奏と二人で部屋の外に出ると、スマホをいじりながら私たちを待っていたらしい久保くんがいた。


「え? あ、おはよう。……どうしたの? 一緒に学校行くの? 久保くんいつもギリギリなのに……珍しいね?」


 挨拶を返しつつ、珍しい状況に疑問を次々と投げ掛ける。


「本当に珍しいな? なんだ? 美来の護衛か?」


 奏も同じく珍しく思ったみたいでそんな冗談を口にした。


「まあ、そうだな。八神さんに指示されたんだよ」

「は?」


 冗談が冗談じゃなかったことに流石の奏も呆気にとられてるみたい。


「なんか昨日までのうちに第一学生寮の方が凄いことになってるみてぇだな。とにかく美来を守れってメッセージが来てたんだよ」

「……え? うそ、守られなきゃいけないほどのことになってるの?」


 しのぶにも念を押されたし、行きたくないなぁとは思っていたけれど……守りが必要と思われるほどのことになってるなんて……。


 え? 本当に行きたくなくなってきたんだけど。

 そうしり込みしていると。


「お、美来ー」

「おっはよー。学校行こうぜー」


 下の第二学生寮の入り口付近から同じ声が二つ掛けられた。


「え? 勇人くんと明人くん? どうしたの朝から」


 驚き、急いで階段を下りると双子が揃って立っていた。


「如月さんが美来の護衛に行けってさ」

「本当は如月さんが来たかったけど、下のやつらは総長じゃないと抑えられねぇからな」


 苦笑いというか、もはや呆れた表情の勇人くん、明人くん。

 追いついた奏と久保くんが「そっちもかよ」と呟いていた。


「……ってことは、本当にすごいことになってるってこと?」


 やっぱり行きたくない。

 明日の方が少しは落ち着くんじゃないのかな?


 真剣に今日休むことを考えだした私に、第一学生寮の様子を知っている双子は「うーん」と唸って教えてくれる。


「凄ぇ騒ぎにはなってるけど、疑ってるやつと信じてるやつが半々って感じだな」

「信じてるやつらは総長たちや生徒会長に目をつけられたくねぇから多分大人しくしてるけど……」


 明人くんにそこで言葉を切られ、聞きたくないけどつい「じゃあ、疑ってる人たちは?」と続きを促してしまう。

 答えてくれたのは勇人くんだ。


「疑ってるやつらが、『眼鏡と髪ゴム取って確かめてやろうぜ!』とか言って盛り上がってた……」

「……」


 小学生か⁉って突っ込みたくなったけれど、実際にそう言って追いかけまわされたらたまらない。


「……ねえ、奏。眼鏡取って髪解いていい?」


 この際全部さらしてしまった方がいいんじゃないかな?

 きっとそういう奴らは実際に確かめてみるまで納得しないだろうから。


「ああ……いや、待て」


 私の言葉に同意しかけた奏だったけれど、途中で止める。


「待てって何? こんな状態になっても続ける意味あるの?」


 双子の話を聞いてもまだ止めてくる奏に不満を覚える。

 でも奏の言葉は止めるためのものじゃなかった。


「今から取って行ったら本当に美来なのか?って疑われそうだからな。学校行ってから外して見せた方がいいだろ」

「ああ、確かに」


 地味な私と眼鏡を外した状態の私がイコールにならなきゃ意味ないもんね。


「でも見せ終わったらまた眼鏡かけて三つ編みにしろよ?」

「え⁉ なんで⁉」


 戻せと言われて思わず声を上げる。

 そのままもうこの格好しなくても良いよね、って思ってたから。


「……写真とか勝手に撮られたくないだろ?」

「え? まあ、それは確かにだけど……」


 でもそういうのは地元ではよくあったことだし……。

 と思うけど、確かに勝手に撮られるのは嫌なことだったからそれ以上は何も言わなかった。

 すると、話が終わるのを待っていたらしい勇人くんが口を開く。


「話終わった? じゃあそろそろ学校行こうぜ。普通に遅刻するぞ?」


 そうして私たちは五人でぞろぞろと登校することになった。

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