双子とデート⑥

「そっかー、良かった……」


 明人くんは大げさなくらい大きく息を吐いてまた仰け反る。

 そのまま数秒止まったかと思ったら、勢いよく戻って私に屈託のない笑顔を見せた。


「じゃあさ、俺の気持ちは知ってもらったし……これからはどんどんアピールしていくからな!」

「え?」

「あ、心配しなくても美来が嫌がるようなことはしねぇから。……そうだな」


 アピールもされると困るんだけど、とは言いづらい状況に戸惑う。


 告白されて嫌だったって言えばよかった?

 いや、でも好きだと言われて嫌がるほど明人くんのことを嫌ってるわけじゃないし……。


 どう対応すればいいのかグルグルと考えているうちに、明人くんは目の前にしゃがみ込んで私の右手を取った。


「とりあえず、これくらいはいいだろ?」


 そう言って、手の甲に唇を落とす。

 軽く触れて、チュッとリップ音を鳴らし離れた。


「なっ⁉」

「手にキスは前にもしたし……良いよな?」


 私の様子をうかがうように見上げ、ほんの少し首を傾げる。


「いや、良いよなって……」


 そもそも、その前の手のキスだって許したわけじゃないよね?

 確か勝手にやってたよね?


 そう突っ込みたいのに、嬉しそうにニコニコしている明人くんに何も言えなくなった。

 嫌だって言えばしないでくれるんだろうけど……この笑顔を曇らせるようなことを言うのはかなり気が引ける。


 でも、前みたいに所かまわずされても困るし……。


「……たまーに、なら」


 妥協点として、そう答えた。


***


 奏たちと勇人くんは私たちの次のゴンドラに乗っていたみたい。

 私と明人くんがゴンドラから下りて周囲を見回していると、後からそろって降りてきた。


「……」


 無言で近づいてきた三人の中で、シュンと項垂れている勇人くんが一番目立つ。


 そしてしのぶは何とも言えない様子の苦笑い。

 奏は呆れの中にちょっとだけ怒りを混ぜたような無表情だ。


「……ねぇ、何があったの?」


 微妙な空気の中帰るために園の出口に向かって歩いている途中、コッソリしのぶにどうしたのか聞いてみた。


「うーん……まあ、簡単に言うと勇人くんが奏に洗いざらい吐かされたってところかな?」

「あ、うん。なんとなく分かった」


 きっと魔王じみた圧を掛けて、勇人くんが明人くんに遠慮している理由を聞き出したんだろう。


 うわ、その場にいなくて良かった。

 尋問状態の奏って本当に魔王っぽくて怖いから。


「本当、奏は妹思いだよね」

「……」


 しのぶの感想にそれでいいのかと突っ込みたくなる。

 魔王っぽい奏を見てもそんな恋する乙女の表情が出来るしのぶって何気にかなりの強者つわものなのかも知れない。


 そうして帰りはまた奏としのぶとは別行動で、私は双子と共に森家の運転手さんに送ってもらう。

 行きは三人で後部座席に乗っていたけれど、勇人くんは奏の圧にやられたのか疲れ果てた顔で一人助手席に座った。


 でも、私と明人くんもたくさん遊んで疲れたし、行きのときみたいに元気におしゃべり出来る状態じゃなかったからどっちでも同じだったかもしれない。


 車の中でウトウトしつつ送ってもらい、お礼を言って自分の部屋に向かう。


 今日は楽しかったけど……色々あって疲れたな。

 勇人くんのことは気になるけれど、彼がどういう答えを出すのかは見守るしかないだろうし……。


 階段を上りながらそう考えていると、観覧車での明人くんの言葉が蘇る。


『俺、美来のことが好きだ』


「……」


 胸がギュッと切なくなって苦しくなる。


 明人くんのことは、嫌いじゃない。

 どっちかっていうと好きな方だと思う。

 ……友達として。


 だからやっぱり困ったなぁって思ってしまう。


 友達としてこれからも仲良くしたい。

 でも断ればどうしたって今までと同じじゃいられない。

 だからってOKするわけにもいかなくて……。


「はぁ……」


 部屋の鍵を開けながらため息をつくと、突然近くの部屋のドアがガチャ! と勢いよく開いた。

 突然過ぎてビクッとなったけど、出てきたのが久保くんだったからすぐにフッと力を抜く。


「美来! あ……えーっと……大丈夫だったか?」

「え? 何が?」


 すぐに私を呼んだところを見ると、偶然出てきたというより私を待っていたのかもしれない。

 でも質問の意味が分からない。

 心配されるような危ないことをしたわけじゃないし。


「え? あ、っと……その、双子に変なことされてねぇかなぁって思ってよ」

「え……」


 瞬時に思い浮かんだのは、明人くんに告白されて手にキスをされたこと。

 でも変なことって程のことじゃないし……。


「ううん、何もされてないよ?」


 どうしてそんなことを聞くのかと苦笑気味に答えた。


「そ、そうか……まあ、あいつらがお前の嫌がることするとは思えねぇけど……まあほら、一応……」


 頭を搔きながら誤魔化すように視線をさ迷わせる久保くんが何だかおかしくてちょっと笑ってしまった。


「それより、ちゃんと病院行ったの? ケガの具合はどう?」

「え? ああ……」


 話題を変えた私に視線を戻し、さっきよりは落ち着いた態度で答えてくれる。


「とりあえず傷は塞がったから、また開くような無茶だけはするなって注意されたくれぇだな」


 あとは処方された傷薬を塗っていればいいんだそうだ。


「そっか、良かった」


 心からホッとして笑顔を浮かべると、久保くんは「うっ」と呻いて胸を押さえる。


「久保くん? どうしたの?」

「いや、だからそういう表情……あー、いいや。なんでもねぇ」


 そう言うと彼は細く長く息を吐いて自分を落ち着かせていた。


「まあ、何もなかったならいいや。疲れてんだろ? もう部屋入れよ」

「え? うん。じゃあ……おやすみ」


 何となくまだ話したい気持ちもあったけれど、疲れているのは確かだし別れの挨拶をした。

 すると久保くんは優しい笑みを浮かべて「おやすみ」と返してくれる。


 トクリ、と。

 その笑顔に、わずかに心が反応した気がした……。

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