双子とデート⑤
「……っはああぁぁぁ……」
少し上ったところで、明人くんは盛大に息を吐いた。
項垂れてる様子からも、やってしまったーって感じで……。
「……大丈夫?」
「……あー、うん。勇人があんな態度取ってるのは俺が言ったことのせいだってのは分かってんだけど……まさかあそこまで態度が変わると思わなかったから……」
またため息を吐いて、今度は息を吸いながら天を仰ぐように少し仰け反る。
「……言ったことは後悔してねぇけど、勇人の態度はちょっとショックかなぁ」
「……一体何を言ったの?」
あんまり突っ込んだことは聞かない方がいいかなとも思ったけれど、主に私に関する態度がおかしいんだから当事者として聞いても問題ないよね?
そう思っての質問。
「……」
でも、明人くんは仰け反った体勢のまま答えない。
「明人くん?」
だから私は問い詰めるように強めに名前を呼んだ。
「……はぁ……今日言うつもりはなかったんだけどな……」
またしてもため息を吐いた明人くんは、諦めたように私を見た。
「まあでも、言わなきゃ美来は納得しないんだろ?」
「う、うん」
真っ直ぐジッと見られて、いったい何を聞かされるのかと身構える。
質問して良かったんだろうか? そんな疑問が浮かび上がりつつも、今更聞かないということも出来ないから私はそのまま彼の言葉を待った。
「……先にまず言わせてくれ」
「……何を?」
何となく、聞かない方がいいような気がした。
でも聞かなきゃ話が進まないから、先をうながす。
「俺、美来のことが好きだ。友達じゃなくて、異性として」
「――っ!」
息を呑む私に、明人くんはすぐに言葉を付け加える。
「でも、お前は俺を友達としか見てねぇのは分かってるから、今は返事はいらない」
その言葉に少しホッとしてしまう。
今すぐ返事をして欲しいなんて言われたら、断る以外に答えがないから……。
似たような事は今までもあった。
今みたいに二人きりになったタイミングで、友達だと思っていた相手に告白されたことが。
でも返事は決まってた。
答えはいつもNO。
もしYESと返事をしてしまったら、きっと……。
ある記憶を思い出し、グッと眉間にしわが寄る。
やっぱり、“あんな風”になりそうなことは避けたかった。
「……それで、さ」
明人くんはそのまま今の告白はまるでなかったかのように話を戻す。
きっと、私を困らせないようにって配慮もあったのかも。
私は申し訳ない気持ちも持ちつつ、今はその優しさに甘えた。
「……三日前、抗争が終わった夜。俺そのことを勇人に言ったんだ。そしたらあいつ、『俺たちのにしようぜ』って言ったんだ……」
「えっと……それは……」
どう受け取ればいいんだろう?
そんなことを言ったということは、勇人くんも私を異性として好きってこと?
でも俺たちの、なんて言ってるってことは共有しようとしているってことで……。
それは本当に好きだってことになるのかな?
ちょっと、よく分からなくて言葉が出ない。
「だから俺は“俺たちの”じゃなくて、“俺だけの”にしたいんだってハッキリ言ったんだ」
「……」
その言葉に込められた思いを理解して、やっぱり私は何も言えなくなる。
確かに向けてくれている明人くんの気持ちに、私は応えることが出来ないから……。
「それからだよ、勇人があんな風に俺に美来を譲るような態度取り始めたのは」
「譲る……」
そっか、確かにあの一歩引いている感じは明人くんに譲っているとも取れる。
「あの態度だけ見れば勇人はそこまで美来を好きなわけじゃないかもって思うかもしれないけどさ……」
そこで一度言葉を切った明人くんは、まるで胸に溜まったモヤを吐き出すように「ふー……」と息を吐いた。
「でもずっと一緒にいた双子だぜ? 勇人も本気で美来を好きだってことぐらい分かるんだよ」
「……」
……これは、聞いて良かったのかな?
本人以外の口から好意を知らされたって状況なんだけど……。
今度は気まずさに声を出しづらい。
でも明人くんは自分が口走ったことの意味に気付いていないのか、そのまま話し続けた。
「勇人はきっと、自分が俺と同じくらい美来のこと好きだって気づいてねぇんだよ。だからあんな態度取ってるんだと思う」
だからさっき、奏に指摘されたのは良いキッカケかも知れないって判断したそうだ。
それでちゃんと自分の気持ちに気づいて欲しいと思って、態度を改めろとか言ってみたんだって。
「でも俺の方がキレちまった。悪かったな美来、付き合わせて」
「……ううん」
何と言うか色々と複雑な心境だったけれど……とにかく事情は理解した。
話を聞いて私に出来ることは無いかと考えていたけれど、これはむしろ私が突っ込んじゃダメなやつだ。
変に突っ込むと色んなことがこじれる予感しかない。
何より、一番の問題は勇人くんの気持ちがハッキリしないことみたいだし……。
そういうのって、結局のところ本人が自覚しないと意味がないんだよね。
私に出来ることはない。
こればかりは、勇人くんが自覚するのを待つしかないってことか。
私は仕方ないと思いつつも小さくため息を吐いて、ゴンドラの窓の外を見た。
もうかなり上に来てる。
夕焼けはまだ残っているけれど、ちらほらと街の灯りが見えてきていた。
そのまま少し沈黙が流れたけれど、丁度頂点を過ぎたあたりで明人くんが話しかけてくる。
「……あーっと……美来?」
「ん? なあに?」
呼ばれて顔を明人くんに向けると、彼は視線をさ迷わせてから横目で私を見た。
「その……俺さっき返事はいらないっつったけどさ、一つだけ教えてくれねぇ?」
「……何を?」
ちょっとだけ警戒してしまう。
質問によっては答えられないだろうから。
「その……俺の気持ち聞いてさ、嫌だって思わなかったか?」
「え?」
「ほら、なんつーか……好きだって言われたくない相手っているもんだろ? だからその……告白そのものを嫌がられてねぇかな?って……」
「それは……」
明人くんが言いたいことを理解して、答えようと口を開く。
「あ! やっぱいい! 嫌とか言われたら立ち直れねぇから!」
左手のひらを私に向けてストップのジェスチャーをする明人くん。
そんな彼に私は苦笑して答えた。
「嫌ではないよ。少なくとも友達としては好きだもん」
「……マジ?」
「もちろんマジだよ」
困るには困るんだけどね。
続く言葉は、あえて言わなかった。
言わなくても明人くんは分かってくれていると思ったから。
だから返事はいらないって言ったんだと思うから。
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