双子とデート④

「……奏に苦手なものがあったんだ」


 四人でジェットコースターの列に並びながら、しのぶがポツリと驚きの言葉を口にする。


「それな! あのかなちゃんが絶叫系苦手だとは思わなかったぜ」


 まるで弱みを握ったとでもいうかのように笑いながら声を上げたのは明人くんだ。

 そうやって侮ると痛い目を見るからやめた方がいいよ、と思いつつ彼の言葉に私は訂正を入れる。


「正確にはジェットコースターだけがダメなんだよ。バイキングとか、上がって落ちてくるだけのタイプのものとかは大丈夫なんだって」

「ん? なんで?」

「一方向だけならいいけど、昇って下りて曲がって逆さまになってって、自分で対応できそうにない動きをするアトラクションだから。だって」


 聞き返してきた勇人くんに応えながら、一方向だとしても対応は出来ないと思うんだけどなぁ? と毎度のことながら思った。

 そんな会話をしているうちに私達の順番が来る。


 このジェットコースターの座席は二人ずつになっているから、もしかしたら双子は誰と乗るかでもめるかも知れない。

 そうなったら私はしのぶと乗ろう!


 そう思っていたんだけれど……。


「俺が美来と乗るからな!」


 私の手を取って明人くんがハッキリ宣言すると、勇人くんは「ずるいなぁ……」と文句を言いつつもしのぶを見た。


「えーっと、しのぶ? 俺とで良い?」

「え⁉ う、うん。私は誰とでも良いけど……?」


 予想に反して勇人くんがアッサリ引き下がったから、すんなりとそれぞれの座席が決まった。


 ああ……本当、どう見てもおかしい。


「そういやあ、かなちゃんさっき俺達がいつもと違うって言ってたけど、どういうことだ?」


 座って安全バーを下ろしながら、明人くんは心底不思議そうな顔で言った。

 明人くんは気づいてないのかな? いつも一緒にいる双子なのに。


「……まあ、明人くんはいつも通りかな? でも勇人くんがその……なんて言うか、遠慮しているみたいな態度っていうか……」


 聞こうか一瞬迷ったけれど、せっかく遊びに来てるのにこの何とも表現し難いモヤモヤをずっと抱えているのもなぁと思って聞いてみた。


 明人くんは「ああー……それかぁ……」と眉をハの字にする。


 気付いてないように見えたけれど、思い当たることはあったみたい。


「俺としてはいつも通りにして欲しいと思ってるんだけどな……。でも、勇人がああいう態度を取るなら尚更俺は自分を突き通すつもりだから」


「う、うん……ん?」


 どうして勇人くんがあんな態度なのかを知りたかったんだけれど、明人くんはよく分からない宣言をする。

 その辺りをちゃんと聞こうとしたけど……。


 ガタン


 振動と共に音が鳴り、コースターカーが動き出して話すどころじゃなくなった。


 ドキドキハラハラ、そして恐怖。


 いっぱい叫んで、怖くて楽しくて、勇人くんに対するモヤモヤも一緒にスカッと消えてしまった。

 乗り終えると、みんな興奮状態で「怖かったー」「楽しかったー!」と口にするばかりだから尚更違和感の話をする気にはなれなかったし。


 奏と合流すると、はじめに言っていた通りそこからは別行動になった。

 昼食だけはまた一緒に合流してみんなで食べたけれど、午後もまたそれぞれで遊ぶ。


 そこそこ大きい遊園地のアトラクションを制覇する勢いで乗りまくって、クタクタになるほど遊んだ。

 そうして日も傾いてきて、次が最後になるかな? と話し合っていると。


「最後なら、やっぱりあれだろ?」


 明人くんがしたのは観覧車。


 私は好んでは乗らないけど、今は疲れているから景色を見るだけの観覧車でも良いかも知れないと思い頷いた。


***


 観覧車の所に向かう前に奏にメッセージを送る。


《私たち最後に観覧車乗って帰るから》


 すると一分もしないうちに返事が来た。


《俺達も観覧車乗るよ》


 どうやら最後も奏たちと一緒になるみたい。


 そこまで混んでいない列に並び始めると丁度奏たちも来る。


「あ、奏、しのぶ! 二人ともちゃんと楽しめた?……って、大丈夫そうだね」


 別行動をしたことで奏の過保護が暴走していないかと思ったけれど……そうだよね、奏がこんなチャンス逃すわけなかったよね。

 並んで歩いて来る二人はしっかり恋人繋ぎで手を繋いでいたから。


 うん、そうだったよ。

 奏は私に対して過保護ではあるけれど、あくまでも冷静だ。


 私に確実な危険がない限りは、しっかりと自分の望みも叶えるやつだった。


 なーんだ。

 私が心配するまでもなくちゃんとデートしてるんじゃない。


「楽しんだに決まってるだろ? 最初のジェットコースター一緒に乗れなかったからな。しっかりエスコートさせてもらった」

「ふふっ……奏優しいし、とっても楽しかったよ。ありがとう」


 そう言って無邪気に笑うしのぶを見て、奏が優しいのは好きな子にだけだよって言おうかちょっと迷った。

 私にも過保護で優しいところはあるにはあるけれど、兄妹ゆえの遠慮のなさからかなりズバッと言われることもあるし。


 他の子に優しくすることもあるけれど、そういうのは大体好きな子の前だから紳士的に振る舞ってるってだけだ。


 奏は結構……かなり打算的な性格してるからなぁ……。


「そっちも楽しんだか?……そっちの二人は相変わらずみたいだけど」


 若干呆れたような奏に私はアハハ、と乾いた笑いを返す。


 そうなんだ。

 楽しんだには楽しんだし、二人だって別にケンカとかしているわけじゃないみたいだったから普通に仲は良い。


 ただ、主に私に対しての距離感がいつもと違うというか……。


 注意してみないと分からない程度だけど、今も明人くんはすぐ近くにいて勇人くんは一歩引いている感じ。

 二人の間に何かがあったのは確実だけど、タイミングとかも合わなくて何があったのかをまだ聞き出せていない。


 そんな私たちの会話をしっかり聞いていた明人くんが、はぁ……とため息を吐く。

 そして勇人くんを見て言った。


「勇人、お前の態度美来とかなちゃんにバレバレだぜ?」

「あー……そうみたいだな」


 明人くんの言葉に、気まずげに視線をそらす勇人くん。

 そんな彼の態度に、明人くんは不機嫌そうに眉を寄せる。


「……態度、改める気はねぇの?」

「え……そ、れは……」


 歯切れが悪く答えられない勇人くんに、明人くんは怒りをあらわにした。


「いいよ、お前がそういう態度なら俺は俺の気持ちを優先するから」


 そう言い終わらないうちに、明人くんは私の手を取って丁度順番が回ってきたゴンドラに乗る。


「え? 明人くん⁉」


 私は驚きの声を上げてから勇人くんの方を見た。

 追って来るわけでもなく、やっぱり何かに遠慮している様な彼は結局一緒に乗ることはなかった。


 そして、明人くんと二人だけのゴンドラが動き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る