双子とデート③
車の中でも私は二人に挟まれるような状態だった。
助手席は空いていたから、私がそっちに座るよって言ったら『絶対ダメ!』と即答されてしまったし……。
かといって二人のうちどっちかが助手席に行ってくれるわけでもなく。
でもまあそれでも良かったのかも知れない。
なんだかんだ三人並んでいた方が会話も弾んだし、つくまでの間も楽しめたから。
そうしてそろそろ到着だという頃、一応話しておいた方がいいかと思って奏のことを伝えた。
「は? かなちゃん来んの?」
お菓子を食べる手を止めてすぐに反応したのは明人くんだ。
「うん。まあ、基本はしのぶとデートらしいけど……」
私はついて来るわけじゃないという意味でそう付け加える。
でも、ペットボトルのお茶を飲みこんだ勇人くんが据わった目で口を開いた。
「……基本はってことは、俺達について来ることもあるってことだよな?」
「それは……」
否定出来ないから言葉が濁る。
答えられずにいると、明人くんが「ま、気にしなきゃいいだろ」と軽く私の肩を叩いた。
「かなちゃんは美来が気がかりなんだろ? かなちゃんが何を心配してるか知らねぇけど、別に遊ぶだけなんだから気にする必要もねぇって」
「そうだよね?」
明人くんの言葉や態度にホッとする。
奏のこともだけど、やっぱりデートっていうのは言葉の綾で、遊びに行くだけだよね?
異性とのデートというものにいい思い出がない私は、友達と思っている二人とそういうことはしたくないと思ってしまっているから……。
そのまま明人くんに肩をポンポンと叩かれていてふと気づく。
こういうとき、すかさず勇人くんも反対側の肩を叩いたりして私に話しかけてくれるのに……。
今日はどうしたんだろう? と小さな違和感を覚えて勇人くんを見る。
勇人くんは、少しだけ悲しそうに眉を寄せて明人くんを見ていた。
いつもと違う勇人くんの様子に、昨日も感じた違和感を覚える。
でも、やっぱりその違和感はほんのちょっとのことで……。
「……まあ、それもそうだな!」
すぐにいつもの様に笑うから、また気のせいかな?って思った。
***
「……遅い」
園内に入って数分も歩かないうちにそんな声が掛けられる。
見ると、秋の花に彩られた花時計の方から奏が近づいて来ているところだった。
「うわっ本当にいた」
「かなちゃん……過保護すぎねぇ?」
明人くんと勇人くんが驚きと呆れの声を上げる。
奏はそれを無視して私に近づいてきた。
「美来、おはよう。遊園地日和で良かったね」
一緒に近づいてきたしのぶが笑顔で挨拶してくれる。
ああ……癒される。
文化祭中は忙しかったから、しのぶとまともに会えていなかった。
一日目の見回りのときも、チラッと様子を見て手を振り合ったくらい。
こうして会って話せたのは、あの抗争の夜以来だった。
腹黒い生徒会長とか、可愛がってくれて有難いんだけれど色々と濃いすみれ先輩ばかりを見ていたから、普通に可愛いしのぶにホッとした。
「おはようしのぶ。でも本当に良いの? 無理に奏に付き合うことないんだよ?」
「もう、それは昨日も電話で言ったでしょう?」
「まあ、しのぶが良いなら良いんだけど……」
まったく嫌そうなそぶりも見せないしのぶに、私はそれ以上何も言えなくなった。
「とりあえず俺達はお前らの後ろついていくから」
私としのぶの会話がひと段落するのを待って、奏が告げる。
「うわっ本当についてくんのかよ⁉」
「かなちゃん……たまには俺らだけにしてくんねぇ?」
当然のように言う奏の言葉に、明人くんと勇人くんが声を上げた。
まあ、いくらなんでも過保護過ぎるよね……。
いや、今までの私を知っているからこその行動で、私のためなのは分かってるから有難いんだけど。
どっちの味方をするべきかと迷っていると、明人くんが後ろから私を軽く羽交締めする様に抱き寄せた。
「っえ? 明人くん⁉」
「かなちゃん、俺ら美来と遊びに来たの。かなちゃんはその子とデートなんだろ? それぞれで遊ぶのが一番じゃね?」
「……」
少し不機嫌そうな明人くんに、目の前の奏は眼鏡の奥の目をスッと細めた。
そのまま少し様子をうかがうように黙り、「はぁ……」と小さく息を吐く。
「……お前らがいつも通りならもう少し気が楽だったんだけどな」
「ん? なんのことだよ?」
明人くんは訳が分からないって感じだったけれど……やっぱり奏も気づいたんだ?
二人が――というか、主に勇人くんがいつもと少し違う。
今だって、いつもなら明人くんのすぐ後に私の近くに来て奏に何かを言うはずだ。
でも、何をしているのかは分からないけれどいまだに近くに来る気配もない。
「かなちゃんが何のこと言ってんのか分かんねぇけどさ」
案の定離れたところから勇人くんの声がする。
「とにかく俺らは美来と遊びてぇの。別行動にしようぜ?」
明人くんとは違って落ち着いた声で提案という形をとる勇人くん。
自分がいつもと違うってことは勇人くん自身が分かっているはずなのに、誤魔化そうとしているみたいだった。
そんな彼にまたため息を吐いた奏だったけれど、「分かった」と了承する。
「……じゃあ奏、いったん三人と別れようか?」
話しの流れを見てしのぶが奏の腕を引いた。
しのぶなりにいつもと違う雰囲気を感じ取って気を使ってくれたのかもしれない。
「そうだな。まずは何に乗る?」
奏も諦めて、しのぶと一緒に離れて行こうとする。
でも――。
「そりゃあやっぱり最初はジェットコースターでしょう!」
喜々として言ったしのぶに、奏の表情がピキリと固まる。
……あー……まあ、そうなるよね。
奏はその固まった表情をこちらに向けて、気まずそうに双子に頼みごとをした。
「……悪いけど、一緒にしのぶと乗ってくれないか? ほら、ジェットコースターって大体偶数の座席だろ?」
回りくどい言い方をしているけれど、つまるところ奏はジェットコースターに乗りたくないってことだ。
「かなちゃん……」
「あー……うん、いいぜ?」
なんとも言えない明人くんの声が聞こえて、勇人くんの仕方なさそうなが了解の言葉を口にした。
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