双子とデート②

 翌朝、奏は朝食を終えてすぐに出て行った。


 車で行く私達に合わせて電車で行こうとすると、やっぱり早めの時間じゃないと同じ頃に着かないらしい。

 そこまでしなくても、とは思うけれど、一緒に行くしのぶも「何だか隠れた護衛って感じでワクワクするね!」とか言っていたから良いのかな?


 ……何から守ってくれるつもりなのかは分からないけれど。


 奏が出て行ってしばらくすると勇人くんから連絡が来た。


【そろそろ着くから準備しといて】


 車の絵文字付きメッセージに私は“了解”のスタンプを返して、バッグを持って外に出た。


「あ……」

「お? はよ……出かけるのか?」


 すると、丁度同じく部屋から出てきた久保くんと鉢合わせする。


「おはよう。……うん、久保くんも?」


 昨日様子を見られなかったから会えてよかったと思いながら、私は笑顔で聞く。


「ああ、今日は病院行かなきゃならなくてな」


 と、包帯を巻いているであろう左腕を軽く上げて見せる。


「傷の様子診るんだと」

「そっか、それは大事だね」


 化膿してないかとか診てもらうんだろう。

 それはちゃんと診てもらわないと。


「そういうお前は? おしゃれしてるみてぇだけど……」


 今日の私は白地のワンピースにデニムジャケットというシンプルだけど可愛いコーディネートだ。


「うん、どうかな?」


 ワンピースのスカート部分を少しつまみ上げて意見を聞いてみる。

 すると久保くんは「そりゃ、可愛いに決まってる……」と視線をそらしつつも答えてくれた。


「へへ……ありがとう」


 やっぱり久保くんに可愛いって言われると一番嬉しい気がするな。

 言われ慣れているはずなのに、どうしてだろう?


「そ、それはそうと。お前【かぐや姫】だってバレたのにまだそんな恰好するのか?」

「あ、これ?」


 言われて三つ編みの一つを手に取る。

 久保くんの言う通り、バレたにも関わらず私はいまだに三つ編み眼鏡の状態だった。


「私としては眼鏡はともかく三つ編みは止めたかったんだけどね。奏が念のためこの格好続けろって言うから……」


 三つ編みはケンカのとき掴まれたりするから本当に困ってる。

 でもこの格好を続けておけば、見た目だけで寄ってくる奴は確実に減らせるからって言われて……。


 八神さんや如月さん、【月帝】と【星劉】の人達。

 彼らだけでも結構な数で、追われたり迫られたりするのかと想像するだけでもちょっと恐怖だ。

 そんな状態でさらに追いかけてくる人が増えるのは遠慮したい。


 というわけで、一応このままの格好でいるんだ。


「あ、でもカラコンは止めたんだよ?」


 ほら、と眼鏡を取ってよく見えるように久保くんを見上げる。


「っ!」


 すると彼は握った拳を口元に当て、サッと目をそらした。

 別に見たくなんかないってことかな?

 ちょっとショックを受けたけれど、耳を赤くした久保くんは嫌がっている様には見えない。


「ちょっ、待て。今の俺にお前の素顔はほとんど凶器なんだよ」

「……なにそれ?」


 でも口にされた言葉はやっぱり嫌がっているとしか思えないもので不満に思う。


 凶器って何?

 久保くんから見たらそんなにひどい顔してるってこと?


 ……さっきは可愛いって言ってくれたのに……。


 落ち込むと、少しは見慣れてきたのか私に視線を戻した久保くんは軽く深呼吸してちゃんと話してくれる。


「お前さ、素顔がめちゃくちゃ可愛いって自覚本当にあんのか?」

「……一応、あるけど」


 可愛いと言ってもらえたことでひどい顔だとは思っていないのかな? と少し気分が上昇する。


「じゃあ、その顔でジッと見られたり笑顔を向けられたら周りがどうなるのかって自覚は?」

「え? 何? どうにかなっちゃうの?」


 言いたいことの意味が分からないのでそのまま聞いた。

 すると、大きなため息を吐かれる。


「そこが分かってねぇのかよ……」


 呟きに首を傾げると、久保くんは「うっ」と小さく呻き今度は自分の胸の辺りをガシッと掴んだ。


「だから、そういうことされると動悸が激しくなりすぎて辛いんだよ」

「ええぇ?」


 やっぱり意味が分からなくて困惑する。

 でも、それを追求するための質問をする前に寮の前に一台の乗用車が停まった。


「あ、もう来ちゃった」

「ん? なんだ? 迎えが来るところだったのか?」


 慌てて階段を下りる私について来るように、久保くんも下りてくる。

 下りきる頃には、車から双子が出てきたところだった。


「おはよう。勇人くん、明人くん。今日はよろしくね」


「美来、おはよう。こっちこそよろしく」

「おはよう。……ってかなんで久保と一緒なわけ?」


 勇人くんは笑顔で挨拶を返してくれて、明人くんは挨拶を返した後で久保くんを見て眉間にしわを寄せた。


「あ、久保くんは今部屋を出たときに丁度バッタリね。これから病院に行くんだって」

「ふーん……」


 一緒に行くわけじゃないことを伝えたのに、それでも不満そうな明人くん。

 そしてそんな目で見られている久保くんは、何やら焦ったように戸惑いを見せた。


「は? 美来? 出かけるのって、もしかしてそいつらとか?」

「うん、そうだよ? 休み明けたら私が大変になるだろうからって、遊びに誘ってくれたの」

「なっ⁉」


 何故か大げさに驚く久保くんに、どうしたのかと聞こうとした。

 でも、いつの間にか近くに来ていた双子が私の両隣に立ち、それぞれ手を取る。


「ほら、早く行こうぜ? 遊ぶ時間が少なくなっちまう」

 と、右手を引く勇人くん。


「そうそう。美来とのデート、楽しみにしてたんだぜ?」

 と、左手に軽く唇をつけてくる明人くん。


「なっ⁉ ちょっと明人くん⁉」


 流石に唇をつけるのはやりすぎじゃない?

 そんな非難を込めて声を上げる。


 それに、遊びに行くだけじゃないの?

 やっぱり奏が言った通り、二人はデートだと思ってたってことなの?


 そうは思うけれど、約束してしまったことだから今更断れない。

 それに、奏は私が心配するようなことにはならないって言っていたから……大丈夫なのかな?


 なんにせよそのまま手を引かれて車に誘導された私は、何かを言いたそうにしながら突っ立っている久保くんをもう一度見た。


「じゃあ、病院気をつけて行ってきてね!」

「お、おう……」


 戸惑い気味だけれど返事をしてくれたことにホッとして、私は車に乗り込んで遊園地へと出発した。

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