双子とデート①

「美来……お前馬鹿?」

「はぁ⁉」


 後夜祭も無事に終え、色々と走り回ったりトラブルの収集に奔走した生徒会メンバーを労わってから寮に帰ってきた私。

 文化祭の屋台などで食べる生徒もいるからと今日は第一学生寮では夕食は出ない。

 だから先に帰って来ていた奏が今日は夕飯を用意してくれた。


 その夕食の席でのこと。

 私が明日勇人くんと明人くんと出かけてくると話したら、呆れを通り越して冷めた目を向けられた。


「馬鹿って何? 私二人と遊びに行ってくるって言っただけだよね?」


 それだけで馬鹿呼ばわりは流石にないんじゃない⁉

 怒り交じりに不満を訴えたけれど、奏はジトッとした目で見てくる。


「だって、それってデートなんじゃないのか?」

「え……? まあ、明人くんはデートとかって言ってたけど、デートって二人で行くものでしょ? 三人で遊ぼうって言われたし……」

「お前さ、あの二人が仲の良い双子ってちゃんと分かってる? お前を共有しようとか考えててもおかしくないんだぞ?」

「え……」


 いや、あの二人が仲が良いことは分かってるけど……。


「でも、友達だし……」

「向こうはそう思ってないかもしれないだろ?」

「ぅぐっ……」


 経験上、そのパターンは確かにあった。

 そして一緒に遊びに行ったがために悪い結果になってしまったことも。


 押し黙った私を見て、奏は「はぁ……」とため息をついてスマホを操作し始める。

 そのまま視線をスマホ画面から外さずに口を開いた。


「まあ、デートだったとしてもお前が危惧きぐするようなことにはならないだろうけど……」


 と一度言葉を切り、視線だけを私に向ける。


「それにあの二人がお前の嫌がることをするとは思えないし……でもまあ、一応俺も行くよ」

「え? でも奏は誘われてないよね?」


 かなちゃんはいいから、と言われた手前連れて行くのも気が引ける。

 でも奏は何でもないことのようにスマホに視線を戻し続けた。


「別に、一緒に行くわけじゃない。しのぶとどこか行こうかって話はしてたから、こっちはこっちで同じとこに行くってだけだよ」

「……」


 いつの間にそんな約束を取り付けていたのか……。


 でもしのぶはそれでいいのかな?

 そっちはそっちでデートするって言うけれど、奏は多少なりとも私達の方気にしながらになるだろうし……。

 そんなデートでしのぶ怒らないかな?


 心配しながら奏をジッと見る。


 ……怒らないんだろうな。


 今までも奏と付き合った子はそこそこいる。

 そういう彼女がいても、奏の私への過保護は変わらない。

 何かあるたびに私を気にする奏に、その子たちが嫉妬とか不満を覚えてもいいものだけど……。

 何故かその彼女たちは不満も覚えず、逆に奏と一緒になって私を気にかけるんだ。


 しのぶはどうなのかは分からないけれど、彼女が怒ったりする姿は思い浮かばない。

 むしろ嬉々として奏と一緒に私達を尾行する姿が思い浮かぶ。


 たまにしのぶ、私のことを友達っていうより大事な妹みたいに扱ってる気がするし……。


 なんなのあれ。

 もう奏と付き合う通り越して結婚してるんじゃないの?


 なんて本気で思ってしまう。


「で? 遊園地だっけ? 待ち合わせはどこに何時?」


 待ち合わせの場所と時間まで聞いてくるってことははじめからずっとくっついてくるつもりなんだろうか?

 でもそれは無理だ。


「待ち合わせは九時にここ。第二学生寮の前だよ。なんか、二人の家の運転手さんに頼んで車出してもらうからって」

「は? なんでそんなことになったんだ?」


 少し驚いた奏に説明する。


 誘いを受けたものの、今の私は金欠だった。

 遊園地でのフリーパスだけならギリギリ何とかなりそうだけど、行くまでの電車代や昼食代は無理そうだ。

 一度誘いを受けておいて悪いけれど、これじゃあ遊びには行けそうにない。


 それを説明して「ごめんね」と謝ると、運転手に頼むからという話をされた。

 しかも昼食は頑張った私へのねぎらいってことでおごってくれるんだとか。


 流石に悪いからやっぱり今回はお断りするって言ったんだけれど……。


『今回を逃したら次いつ一緒に遊べるか分からねぇだろ?』

『それに一度は行こうって言ってくれたじゃんか』


 唇を尖らせて不満そうに見上げてくる明人くんと、眉尻を下げて悲しそうな顔を作る勇人くん。

 可愛い顔でそんな表情をされて、心が揺れた。


 でも分かる。

 二人ともその表情わざとでしょう⁉


 自分たちの顔が可愛いってことを最大限利用している表情だ。


 でも、そのあざとさを分かってはいても……。


「美来、俺達とは遊びに行きたくねぇの?」


 悲しそうな目で見上げてくる勇人くんに、屈服してしまった。

 そういうわけで、何だかんだ言ってもお坊ちゃんな二人の家の運転手さんに送り迎えをしてもらうことになったんだ。


「マジか……。じゃあ、流石に行き帰りは別になるな。そっちが車なら、俺達は早めに出た方がいいか……」


 軽く驚きつつも、すぐに計画を修正しだす奏。

 まあ、流石に車に一緒に乗るのは無理だろうからね。


 しのぶもOKだったらしく、明日は別行動とはいえ奏としのぶも同じところに遊びに行くことになった。


 夕食の後片付けも終わり、私は自分の部屋に戻る。


 ドアを開けようとノブに手をかけて、ふと二つ隣のドアを見た。


 久保くん、今日は会えなかったけれど……疲れてないかな?

 腕のケガも大丈夫かな?

 また包帯を巻くのに苦労してるんじゃないかな?


 そんな心配が次々と湧いてくる。


 久保くんの部屋のドアに近付こうとして、自分が必要以上に心配していることに気付いた。

 ただの友達なのに、連日お邪魔しても迷惑だよね。


 休み明けには学校で会えるんだし、同じ寮に住んでいるんだからその前にまた顔を合わせることもあるかもしれない。

 そのときにまた様子を聞けばいい。


 そう思うのに、やっぱり心配する気持ちはどうしてもあって……。

 どうしてこんなにも心配なのかと自分で自分に首を傾げた。


 うーん……久保くんのケガが気になるから、気にしちゃうのかな?


 最終的にはそんな考えに落ち着いて、私は自分の部屋に戻る。

 やっぱり疲れてるだろうし、迷惑になっちゃうから今日の訪問は止めることにした。

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