文化祭二日目とデートのお誘い③

 でも、続けられた明人くんの言葉に意識が引っ張られる。


「俺達より美来だろ? あんな風に歌ったりして……結局如月さんたちどころかみんなに知られちまったじゃんか」

「うっ……その、ごめんね?」


 黙っててとお願いした手前気まずい。


「俺らは別にいいよ。でも美来が大変になるだろ?」


 なぁ? と軽く振り返って同意を求める明人くんに、勇人くんは「そうだよ」と近づいて来る。


「如月さんなんか美来を探しに行きたいのに、今日は理科準備室から離れられなくてイライラしてるし」

「そうそう、だから俺らが美来に会えたって聞いたら鬼の形相になるかもな」

「ホントホント、絶対バレたくねぇよ」


 そう言って二人で笑う様子はいつも通りで、さっきのちょっとした違和感は気のせいだったのかな? と思う。


「離れられない代わりに、【星劉】総出で校内を見回りつつお前を探させてる状態」

「多分【月帝】の方も同じ感じなんじゃねえの?」


 明人くんの言葉に勇人くんが付け加える。


「そんな事になってるんだ……」


 これは本当に生徒会室にこもってて良かったかも。


「チームの連中もさ、幹部から下っ端まで今までとは比にならないほどマジで美来のこと探してるんだぜ?」

「え⁉ どうして⁉」


 ちょっとからかい混じりの明人くんの言葉に驚くと、勇人くんが説明してくれた。


「どうしてって、一昨日の夜の美来を見たら誰だってそうなるって」

「なんで? 私ただ歌っただけだよ? 坂本先輩に二年前と同じようにすれば抗争も止まるだろうからって言われて……半信半疑で」


 理由を聞いても納得できない。

 本当に、坂本先輩の言う通り抗争が止まってくれればいいなと思って歌っただけだ。

 勇人くんは私の言葉に「やっぱり生徒会長が絡んでたのか」と納得の声を口にして追加の説明をしてくれた。


「まず、二年前の美来を見た三年生以外はみんな【かぐや姫】を探すことに多少なりとも不満に思ってたんだ」

「当然だよな? 三年生だけが躍起やっきになって、二年探しても見つからない女を未だに探し求めてる。一、二年生からしたら見つかるわけないって思うし、【かぐや姫】にそこまでの魅力が本当にあるのか?って疑問にも思う」


 明人くんも加わった説明に、「まあそうだよね」と私も納得の声を上げる。



「でも、一昨日の夜二年前を再現したかのように【かぐや姫】である美来が現れて歌った」

「みんな聞き惚れてたぜ? だから抗争も止まったんだし」


 またナイフまで持ち込まれた抗争が止まってくれたのは本当に良かったと思う。

 でもそれでどうして一、二年生まで以前よりも本気になって私を探すことになるんだろう?


 やっぱり分からないって思う私に、二人はそのそっくりの顔を同じように呆れたものに変えた。


「美来……まだ分かんねぇの?」

「俺今みんなが聞き惚れてたって言ったよな?」


 明人くんの確認に「うん」と答えると彼は更に呆れた顔になってため息をついた。


「はぁ……抗争を止めるほど聞き惚れる歌。そんなすげぇ歌を歌ったあの女が総長達が探し求めていた【かぐや姫】か、ってみんな納得したってことだよ」

「そうだよ、実感して納得した。だから、二年間ずっと探し求めていた三年生と同じような状態になったってわけ」

「同じようなって……」


 勇人くんの言葉を繰り返しながら頬が引きつる。


 二年もの間ずっと探し続けるほどの熱量。

 それが三年生だけじゃなくなった。


 二人の総長はキスしてくるくらいだから、一方的で強引とはいえそういう好意があるんだろう。

 でも、中にはもう一度会いたいだけって人もいると聞いた気がする。


 どうしてそこまで私を探そうとするのか分からないけれど、それほどの熱量を持つ大勢の人達が増えた。

 その上そんな人達に私が【かぐや姫】だとバレてしまったってことか……。


「……うわっ」


 理解して、思わず声が出る。

 生徒会室にこもっている今日は大丈夫だろうけれど、振替休日が終わった後が怖い。

 一体どうなっちゃうんだろうって不安になった私の頭をまた明人くんが撫でた。


「まあ、心配すんなって。追いかけまわされたりはしないように俺らも美来のこと守るからさ」


 よしよしと撫でられ、ふにゃっと顔がほころぶ。


「ありがとう、明人くん。持つべきものは友達だね」

「……」


 しみじみと友達のありがたさを実感していると、頭を撫でていた手がピタリと止まった。

 どうしたのかと彼の顔を見る前に、勇人くんが「それでさ」と話題を変える。

 その顔が少し苦笑いだったのはなんでだろう?


「明日か明後日、特に予定が入ってないんだったらちょっと遠くまで遊びに行かねぇ? 遊園地とか、水族館とか」

「え? いいけど……奏にも予定聞いてみなきゃ」

「かなちゃんはいいから」

「へ?」


 てっきり奏も誘われているものだと思っていたんだけど……。


「俺達と美来。三人で行きたいんだ」

「え?」

「三人で。……デートしようぜ、美来」


 勇人くんの言葉に思わず聞き返すと、頭から手を離した明人くんが私の顔を覗き込むように言った。


「デート……?」


 繰り返しながら、目の前でニコニコしている同じ二つの顔を見る。


 デートって、基本男女が二人だけで出かけることだよね?

 三人でもデートって言えるのかな?


 そんな疑問を浮かべていると、勇人くんが付け加える。


「休み開けたら美来大変になりそうだし、今のうちにパァッと遊んでおこうぜ?」

「……そうだね」


 勇人くんの言い方から考えると、デートと言いつつ結局のところは三人で遊ぼうってことだろう。

 そういうことなら、お誘いを受けても大丈夫だよね。


「うん、じゃあ三人で遊びに行こうか」


 だから私は笑顔でそのお誘いを受けた。

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