文化祭二日目とデートのお誘い②

「じゃあ私たちは見回りに行ってくるわね。あなたたち美来さん襲っちゃダメよ?」


 何人か連れ立って、すみれ先輩が冗談混じりにそんなことを言いながら生徒会室を出て行く。


「襲いませんよ!」


 それに対して高志くんがあからさまに反応して立ち上がるけれど、すみれ先輩はもう出て行った後だ。


「高志、有栖川はからかってるだけだよ。落ち着いて」


 小さく苦笑しながら坂本先輩がそう言って座れと促す。

 そして一呼吸おいてから私を見た。


「ところで美来さん。生徒会の手伝いをしてどうだったかな?」

「え? そうですね……忙しいけどやりがいはありますね」


 少し考えて答える。

 色々あったしお手伝いだけでもとても忙しかったけれど、生徒たちも基本的に生徒会を頼りにしてくれているから、役に立ててるんだって実感出来てやりがいはあった。


「それじゃあ、ちゃんと生徒会役員として入会してくれるかな?」

「……そうですね。よろしくお願いします」


 坂本先輩の近くにいるのは少し不安だったけれど、二人きりにさえならなければ普通に過ごせるし。

 それに、私に対して不満を覚えている人達も私が生徒会に入れば少しはその不満も消してくれるかもしれない。


 他にも、私が【かぐや姫】だとバレてしまったから八神さんと如月さんに強引に迫られそうだし、生徒会に入れば少しは回避できるかも。

 なんて思惑もあって、私は生徒会に入ることを了承した。


「じゃあ、僕か有栖川の補佐についてもらおうかな? 出来れば僕の――」

「すみれ先輩でお願いします!」

 

 坂本先輩と二人きりになってまた迫られたら困る!

 そんな思いでとっさに叫んだけれど、気分を害してしまったかも知れないと少し不安になる。

 でも、坂本先輩は怒ることはせず少しだけ悲しそうに微笑んだ。

 

「そっか……残念」

「あ……」


 そうなると思い切り拒否したことに罪悪感が湧いて来てしまって……。


「でも、忙しいときは手伝ってくれると助かるな」

「あ、はい。そういうときなら……」


 代わりに、続けて申し訳なさそうにされたお願いは了承してしまう。

 すると彼は、高志くんには見えないように妖しさを含んだ笑みを浮かべた。


「それは良かった」

「っ⁉」


 あれ?

 これ、もしかして騙された?


 了承するように誘導されてしまったことに今更ながら気付いて口をはくはくさせる。


「ん? 星宮さん、どうしたんだ?」


 そんな私を見て不思議そうな顔をする高志くん。

 私の視線を追って彼が坂本先輩の方を見たときには、いつもの王子様スマイルになっていた。


「千隼様、どうかしたんですか?」

「さあ? どうしたんだろうね?」


 とぼける坂本先輩に、私は叫びたいのをこらえるので精一杯だった。


 この、腹黒会長めーーー!


***


 その後、気を取り直した私は大人しく書類整理などの仕事を始めた。

 しばらくはノートパソコンを操作する音と書類などの紙がこすれる音だけが室内に響いていたけれど、ひと段落したところで私は軽く腕を伸ばした。


「んーっ……ふぅ、ちょっと休憩してきますね」

「ああ、僕たちもこれが終わったら一度休憩するよ」


 断りを入れて隣の休憩室に向かおうとした私は、その前にトイレに行っておこうと近くのトイレに向かう。

 用を済ませてトイレから出ると、丁度声を掛けられた。


「あ、美来! 良かった、やっぱりこっちの方にいたんだな」

「丁度良かったぜ。流石に生徒会室までは入る訳にいかないからな」


 見ると、丁度こっちの方に歩いて来ている赤と青の可愛い双子がいた。


「勇人くん、明人くん!」


 私は会えるとは思っていなかった二人に笑顔で近づく。

 久保くんは北校舎の第二音楽室からほとんど出ないだろうって言っていたから、【星劉】の幹部である二人も西校舎の理科準備室にこもっているのかと思ってた。


「二人とも、一昨日は大丈夫だった? ケガしてない?」


 パッと見は大丈夫そうだけれど制服で隠れているところにケガをしているかも知れないからと思って真っ先に聞く。

 流血していたのを見た久保くんを一番に心配していたけれど、二人のことも当然心配していた。


 久保くんみたいに刺されていないかとか、流血はしていなくても殴られたりしてないかとか。


 昨日一応久保くんにも聞いてみたけれど、違うチームだからか見ていないって言われちゃったし。

 坂本先輩は八神さんと如月さんのことしか話してくれなかったし。


 でも二人は笑いながら『大丈夫』と同じ声をそろえた。


「俺は顔に一発食らっちゃったけど、口端ちょっと切っただけだし」

 と勇人くんが自分の頬に拳を当てるしぐさをする。


「俺は腕とか足ちょっとすりむいた程度だよ」

 明人くんは平気そうに両手を振った。


「そっか、良かった……」


 ホッとすると、明人くんが片手を伸ばして私の頭にポンッと置く。

 そしてそのまま撫でられた。


「心配してくれたんだな。ありがとう、美来」

「……そりゃあ心配するよ」


 当然でしょう? と思いながら勇人くんの方も見ると、彼は何かをためらうようにそこに止まっていた。

 明人くんと一緒になってじゃれついて来るかと思ったのに……どうしたんだろうとちょっと不思議に思った。

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