文化祭二日目とデートのお誘い①
翌朝、私と奏は早朝に寮を出た。
昨日は大丈夫だったけれど、今日は流石に騒がしくなるだろうから。
私が【かぐや姫】だと【月帝】と【星劉】のみんなに知れ渡ってしまった。
八神さんや如月さんはもちろん、二年前から私を探していたという三年生。
そして一昨日の夜初めて【かぐや姫】を目の当たりにした二年と一年。
みんなが私の元に殺到するだろうって昨晩久保くんにも言われた。
どうして一年生と二年生まで? と不思議に思っていたら呆れられたっけ。
「それだけ抗争を止めた美来が凄かったってことだよ」
と言われたけれど、私は必死に歌っていただけだからやっぱりピンとこなかった。
なんにせよ、バレたからには特に総長の二人には詰め寄られそうだとは思う。
それを回避するためにも、みんなが登校する前に生徒会室に避難しておかなくちゃならない。
「よし、何とか誰にも会わずに来れたな」
本当は私につき合わなくてもいいのに、私一人だと不安だと言ってついて来てくれた奏が安心したように言う。
ちょっと過保護すぎるんじゃないかなぁと思ったけれど、生徒会室のドアを開けた途端その過保護に感謝した。
「あ、おはよう。……なんだ、奏くんも来たのか」
早朝だというのに、そこにはすでに生徒会長である坂本先輩がいたから。
「やっぱり一緒に来て正解だったな……」
ため息交じりに言う奏に、坂本先輩は「残念」と苦笑する。
「せっかく美来さんと二人きりになれるチャンスだと思ったのに」
「っ!? な、何する気だったんですか!?」
思わず聞くと、一見優しそうに見える笑顔を向けられる。
でも、その目にはちょっと妖しさが見え隠れしていた。
「そんなに警戒しなくても、泣かせるようなことはしないよ? 前も言った通り、口説こうと思ってただけだから」
「く、口説かれるつもりもありませんので!」
丁重に拒否しておいた。
泣かせるようなことはしないって言うくらいだから無理やりキスしてくることはないだろうけれど、この間のように逃げ出したくなるようなことはされる気がする。
本当に奏がついて来てくれて良かった!
ありがとう奏!
心の中で奏に盛大に感謝する。
そうして次に早かった高志くんが生徒会室に入って来るまで、私たちは三人で無難に今日のことを話して過ごした。
***
【月帝】と【星劉】にバレてしまった以上校内に私が【かぐや姫】だと知れ渡るのは時間の問題だろうと坂本先輩は言う。
昨日は言いふらすであろう【月帝】と【星劉】の人達が学校に来ていないから騒ぎになっていなかったけれど、今日来てみんなが私を探し回ったりすれば他の生徒にも周知されてしまうって。
それはもう仕方のないことだから良いけれど、校外の人も来る文化祭中に盛大な追いかけっこをするわけにもいかない。
だから今日は初めから生徒会室にこもる予定だ。
でもその辺りの説明を他の生徒会メンバーに説明しないわけにもいかないということで、朝のうちに生徒会のみんなにも私が【かぐや姫】だと知ってもらうことになった。
「――そういうわけで、【かぐや姫】は美来さんだったんだ。だから今日は避難するという意味でも生徒会室から出ないようにしてもらうつもりだ。みんな承知して欲しい」
簡単に経緯を説明した坂本先輩に促されるように私は立ち上がる。
言葉だけじゃ信じてもらえないだろうから、おさげを解いて眼鏡も取った。
「その……そういうことなので今日はあまりお役に立てないかもしれません……すみません!」
ペコリと頭を下げて、どんな反応が来るのか恐る恐る顔を上げる。
そうして目に入ってきた表情は揃ってポカンと口を開けたもの。
生徒会室にこもるならお手伝いの意味ないだろ、って声が上がるかなと思っていただけに戸惑う。
これは……驚かれてる?
「えっと……」
続けて何を言えばいいのか分からなくてそのまま突っ立っていると、すみれ先輩が突然ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
怖いくらい真剣な表情で近付いてきたすみれ先輩は、私の目の前に来た途端その表情をこれでもかというほど緩める。
「きゅわわわーん!」
そしていつも以上に勢いよくハグされた。
「ぅぐっ……す、すみれ先輩?」
「ウソでしょう⁉ 信じられない! 今までも可愛かったのに素顔はもっと可愛いとか! どうしましょう、もうこのまま離したくないわ!」
なにやら大興奮されてしまった。
でもずっと抱きつかれているのは動けないし困るから離して欲しいです。
すみれ先輩の様子にみんな呆気に取られていたけれど、ハッとした人たちが徐々に話し始める。
「そ、そうだったんだ……」
「まあ、そういうことなら仕方ないよな」
と、私が今日生徒会室にこもるのを許してくれるみたい。
良かった。
「すみません……ありがとうございます」
もう一度謝罪をして、お礼の言葉を笑顔で告げる。
『っ!』
すると、男女問わず軽く驚いたように息を呑まれた。
「や、ヤバい。ドキッとした」
「え? あれ? 同性なのに、何だか凄くドキドキする」
「素敵……」
何だか色々言われたけれど、私は「きゅわわん……」と呟きながらさらにきつく抱き締めてきたすみれ先輩から逃れようと必死で聞こえていなかった。
やっとのことで離れてもらってから、坂本先輩が複雑な笑みを浮かべて言う。
「……美来さんって本当に、無差別に人をたらし込むよね……」
「……」
無差別、なのかな?
自分じゃ分からないから、何も言えなかった。
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