プロジェクト《かぐや姫》始動④

 抗争という名のケンカは文化祭前日の夜に校庭で行う予定らしい。


 毎年校庭は食品系の屋台を出してにぎわうらしいけれど、今年は特設ステージを設置してライブやちょっとした劇、後はコンテストなどを行うだけにしているのだとか。


 坂本先輩が言うには、初めからそこで抗争を起こさせるつもりだったから壊されそうな屋台は出さないことにしたんだとのこと。

 生徒会の仕事の手伝いの過程でどうして校庭で屋台をしないのかと不満が上がっていたのを聞いたけれど、元々抗争を起こさせるつもりだったのなら納得だ。


 何かと準備も必要だろうということで、その日から放課後の生徒会の手伝いは免除された。

 ただ、「文化祭当日は手伝ってね」と言うあたり坂本先輩は抜かりないと思う。


 ということで、私は事情を知るしのぶも巻き込んであと数日となった文化祭前夜に向けての準備を進めることとなった。


「放課後しか時間がないからちょっと大変だねぇ」


 何やら張り切っているしのぶは私の衣装を作るんだとか意気込んでいる。

 でも待って。

 衣装とかいるの?


「制服じゃダメなの?」


 そう聞いた私にしのぶはキョトンとした表情で返す。


「え? 美来は【かぐや姫】ってこと隠してるんだよね? 制服着てたら一発でバレちゃうでしょ?」


 今の髪型だと特に、と言われてしまった。

 いや、でもそれならそれで私服で良くない?

 そうは思うんだけれど、張り切ってウキウキしているしのぶを見るとそれ以上何も言えなかった。


「まあ、無理だけはしないでね」


 とだけ伝えておく。


 で、その衣装を作るための材料などの調達をするため今は街に買い物に来ているところだ。

 だから私は丁度いいと思ってとある場所に寄ってもらうことにする。


「ええと……あ、いた」


 目当ての人物を探し当てて近づいて行く。


「遥華」

「はい? えっと……どなたですか?」


 バイト中の遥華は私を見て戸惑いを見せた。

 その様子を見て私は慌てて眼鏡を取る。


「私私! 美来だよ」

「え⁉ なにそれ、もしかしていつもはそんな格好してるの⁉」


 遥華は驚き、そしておかしそうに笑いながら近付いて来る。


「ホント面白いね、美来って。で、今日はどうしたの?」

「うん、今日はちょっと街に用事があって……せっかくだから遥華に会えればと思って」


 シフトが入ってなかったらどうしようと思ったけれど、いてくれて良かった。


「それと、その……この間の服の代金やっぱり支払っておこうと思って……」


 今更な感じがして気まずかったけれど、遥華は「ああ……」と困り笑顔を浮かべて何やら納得してくれた。


「聞いたよ。銀星にキスされて泣いちゃったんだって?」

「ぅえ⁉」


 誰から聞いたの⁉

 ってやっぱり銀星さん本人?

 なんか知り合いみたいだったし……。


 と思ったけれど、ちょっと違ったらしい。


「この店出た後のことなられんから大体聞いてるよ」

「連?」


 って、誰だっけ?


「西木戸連。【crime】の副総長で、前髪の一部赤くしてるやつ。……会ったんだよね?」

「ああ!」


 そこまで聞いて思い出す。

 あの日、なんだかんだで二回会ったしチャラい感じが印象的だったし、忘れてはいない。

 でも確か苗字しか聞いてなかったから、名前だけだと分からなかったんだ。


「連さんっていうのね、あの人」

「そ。……銀星が服を買ってあげるのって抱く気満々の相手なんだよね。てっきり美来も同意済みなのかと思ってたんだけど……ごめんね、あのときそこも教えておけば良かった」

「そんな! 仕方ないよ、急いでたんだし」


 申し訳なさそうに言われて気にしないでと話す。


 でも良かった。

 遥華のタイプなら『キスくらいで泣いちゃうの?』とか言うかもって身構えてたから。

 思っていた以上に遥華が良い子で安心した。

 同時に疑ったことをちょっと恥じる。


「ありがと。……で、だからお金払いに来たってところかな? 銀星、諦めてはいないみたいだったし」

「……うん、そーゆーこと」


 理解が早くて助かった。

 詳しく聞かれても困るからね。

 そのままレジに行って遥華にこの間の服代を支払うと、彼女は「あ、そうだ」とスマホを取り出した。


「連絡先交換してもいい? 今度一緒に遊ぼうよ」


 その気軽さに「いいよ」と私も気軽に返す。

 私も遥華と遊んでみたかったし。


 そうして連絡先を交換すると、丁度遥華が他の店員さんに呼ばれた。

 私もそんなに長居は出来ないし、とそのまま別れる。


「じゃあね、後で連絡するから」

「うん、またね」


 そうして服の代金も支払いスッキリした私は、心置きなく次の用事へと向かうのだった。

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