プロジェクト《かぐや姫》始動②
「ああ、ちょっとあの生徒会長に色々聞きたいことがあってな」
「色々?」
「そ。まあ美来も聞いておいた方がいいだろうし、あとでな」
「ふーん……」
でも、話をする時間ってとれるのかな?
坂本先輩、かなり忙しいみたいだけれど。
相槌を打ちながらもムリじゃないかなぁと考える。
でも、生徒会室に行って坂本先輩に奏が話があると言うと、案外あっさりOKしてくれた。
「この書類を書き終えたら行くから、隣の会議室で待っていてくれないかな?」
やっぱり忙しそうなのに、いつもの王子様スマイルで言う。
「美来さんも。今は持って行ってもらう資料とかもないし、隣でお兄さんと待っていてくれないかな?」
「え? いいんですか? 書類整理とか出来ますよ?」
「いいから」
坂本先輩の笑顔に圧を感じ、私も会議室に行くことになった。
他にも忙しそうにしている生徒会メンバーに申し訳なく思いながら、私は奏と一緒に隣の会議室へと向かう。
ここの会議室では一応飲食も出来る状態になっていて、生徒会の人たちが差し入れなどをもらったときにここで食べるようになっている。
そのため小さいけれど冷蔵庫も置いてあって、飲み物が常備されている。
2リットル入りのウーロン茶は誰でも飲んでいいことになっているので、私はグラスを三つ用意して先に二つ入れそのうちの一つを奏に渡した。
「お、ありがとな」
そう言ってさっそくウーロン茶に口をつける奏。
私も自分のグラスに口をつけていると、案外早く坂本先輩が来た。
「待たせてごめんね」
そう言って座る彼に私はもう一つのグラスに入れたウーロン茶を差し出した。
「いえ、ほとんど待っていませんし」
「ああ、ありがとう」
お礼を言った坂本先輩は一口飲んで口を潤すと、私をジッと見る。
「……ごめんね。髪を切られてしまうなんて……そういうことには巻き込みたくなかったんだけれど……」
「え? いいえ、別に坂本先輩のせいじゃないですし」
むしろ謝られるとは思わなかった。
あの場に居合わせたのはたまたまだったし、髪を切られてしまったのも偶然に近い。
明人くんと勇人くんがもう少し早く来られれば私が入る必要は無かったかも知れないけど、そんな事言ったって仕方ない事だ。
「だとしても、君に手伝いを頼まなければ起こらなかった事だ。……だからごめんね」
手伝いじゃなくてもあの場に居合わせていたら同じ事をしたと思うから、やっぱり坂本先輩の謝罪は必要無いと思う。
でも、謝罪を受け入れるまで謝られそうな気配を感じて「……はい」と返事をした。
「じゃあ、早速本題に入っても良いですか?」
一通りのやり取りを見ていた奏が、半分ほど飲んだウーロン茶のグラスをテーブルに置いて口を開いた。
「ああ、僕も忙しいからね。そうしてくれると助かるよ」
坂本先輩も頷いて聞く姿勢になる。
「美来からある程度は話を聞いてます。そこで聞きたいんですけど、今の【月帝】と【星劉】のいさかいはどう収集つけるつもりなんですか?」
「え……?」
奏の言葉に驚いたのは私だ。
確かにその二つの勢力のいさかいは何とかしなきゃならないことだろう。
でもどう収集つけるのかをどうして生徒会長である坂本先輩に聞くのか……。
普通聞くなら八神さんや如月さんなんじゃないの?
でもそんな私の疑問は坂本先輩には当てはまらなかったらしい。
「そうだね」
と神妙な表情になった坂本先輩は少し迷うように視線を下げ、その後で真っ直ぐ奏を見た。
「文化祭本番の前に、二つの勢力でくすぶっているものを発散してもらうつもりだよ」
慎重に言葉を紡ぐ坂本先輩に、私はどうやって? と内心疑問を浮かべる。
でもその答えは続く言葉ですぐさま理解することになる。
「……そう、二年前のように抗争を起こさせてね」
「っ⁉」
息をのみ、目を見開いて驚く。
二年前と言ったら、もしかしなくても私が遭遇してしまったあの抗争のことだろうか?
まさかとも思うけど、それ以外に考えられない。
でも……。
「起こさせてって……」
どういうこと?
その言い方はまるで抗争を意図的に起こさせたというように聞こえる。
理解出来ないでいる私と違って、奏は「やっぱりな」と納得の声を上げた。
え? 何?
何で私より奏の方が理解してるの⁉
私から話を聞いただけのはずなのに!
驚く私を放って、二人の会話は進んで行く。
「美来から二年前の話を聞いた時もおかしいと思ったんだ。どうして関係なさそうなあんたが抗争の場所にいたのか」
「……」
奏の言葉を坂本先輩は黙って聞いている。
表情こそ王子様スマイルだったけれど、目は笑っていなかった。
なんて言うか、探るような……人を見定めているような目……。
「あなたも一枚かんでたんでしょう? その抗争を起こすために。……今回も?」
奏の質問に、坂本先輩は一度目を閉じ改めて奏を見る。
その目は、面白いものを見るような目になっていた。
「ちなみにそれを知ってどうするつもりなのかな?」
坂本先輩は明言を避けるように胡散臭い笑顔を浮かべながら質問を返していた。
「……二年前も失敗しかけたっぽいのに、今回は本当に大丈夫なのかなっていう確認ですよ」
対する奏も負けてない。
皮肉をたっぷり込めた目で笑っている。
……やだなー。
なんかここだけ空気が悪い。
お互いが黒い腹の探り合いをしているみたい。
「はは、言うねぇ。……でも、そうだな。確かに不安はあるよ。二年前だってしっかり準備をしていたはずなのに、まさか刃物を持ち出していたなんて……」
そこで一度言葉を止めた坂本先輩は、何故か私に視線を向ける。
「……彼女、美来さんがいなかったらどうなっていたか分からない」
「え?」
私を見るその目は真剣で、わずかな憧れのようなものも見える気がした。
どうしてそんな目で見てくるのか……。
「えっと……ちょっとよくわからないので、ちゃんと説明してもらえますか?」
自分に関係ないと思っていたからただ二人の話を聞いていたけれど、私にも関係のある話ならちゃんと分かるように説明してほしい。
「ああ、君は分かってなかったんだね。お兄さんが理解してるみたいだから分かっているのかと……」
そうして視線を奏に向ける。
私もならって奏を見ると……。
スッと視線をそらされた。
「……」
これは説明が面倒だったとか言うやつだね。
もう、ちゃんと教えてよ!
じとーっと見つめても奏は顔を私に向けない。
仕方ないので坂本先輩に視線を戻した。
彼は仕方なさそうに笑ってから、二年前のことを簡単に説明してくれる。
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