プロジェクト《かぐや姫》始動①

 その日は朝から騒がしかった。

 ……主に周りが。


 香と奈々には昨日の夕食時に第一寮の食堂で会って話もしたんだけれど、今朝も朝一番に慰めるようにギュッと抱き着かれた。


「美来は大丈夫って言うけど、やっぱり髪切られるなんて嫌に決まってるよね?」

「だよね。でもその髪型も似合ってるよ、可愛い」

「ありがとう、二人とも」


 そうしてしのぶに見守られながらほのぼのとしていたら、いつぞやのようにすみれ先輩がかけつけてきた。


「美来さん⁉ 昨日ケンカに巻き込まれたって聞いたけど――⁉」


 叫びながら教室に入ってきたすみれ先輩は、私の姿を見た途端息をのむ。

 そしてそのまま突撃するように抱き着てきた。


「美来さん! 髪を切られるなんて……でも可愛い……きゅわわん……」


 心配してくれたみたいだけれど、後半はどちらかと言うとでられた。


 今日の髪型はいつものおさげだけれど、切って整えた両側こめかみのところだけは結ったりピンで留めたりせずにそのままだ。

 すみれ先輩いわく、その結っていない部分がサラサラ揺れて可愛さ倍増なんだとか。


 ……あとは、教室の出入り口から覗き込むようにしている見覚えのある女子達。


 宮根先輩は何故か目をキラキラさせているし、首振り人形の子(いまだに名前を知らない)はやっぱりコクコク頷いているし。

 なっちゃんは少し心配そうな目で見ているけど、そのすぐ近くには昨日助けた一年がうっとりした表情で私を見ていた。


「美来様……おかわいそうに」

「でも麗しさは倍増した気がするわ」

『それね!』


 なんて会話が聞こえてくるんだけど……。

 とりあえず、邪魔になるからいっそ教室に入ってきてくれればいいのにと思った。


 すると、今度はそんな彼女達の横から可愛い顔を心配そうなものに変えた状態の双子が教室に入って来る。


「美来、昨日は大丈夫だったか?」

「かなちゃんは大丈夫そうだって言ってたけど……」


「あ、二人ともおはよう」


 二人に向かって笑顔を向ける。


「大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」


 心配をかけないための無理やり作った笑顔じゃない。

 久保くんのおかげでスッキリした私は、ちゃんと心からの笑顔を浮かべることが出来ていた。


 ただ、その笑顔を見た双子はそろって同じように止まってしまう。


「……大丈夫そうで良かった……でもその……」

 と勇人くんが私を凝視するように見つつ戸惑いの言葉を口にする。


「美来、何か……すげぇ可愛い」

 そう言った明人くんは片手で口元を覆って視線を私からそらした。


「そう? ありがとう」


 二人の反応に首を傾げながら、答える。

 みんなには今の髪型を褒められるし、可愛いと言ってもらえている。


 でも、昨日久保くんに言われたときのようにはならないな。


 ドキッとして、嬉しいけど恥ずかしいような気持ち。

 みんなと何が違うんだろう?


 さらに首を傾げてムムムッと考えていると、その久保くんが教室に入ってきた。

 隣の席に来た久保くんに「おはよう」と笑顔で挨拶をすると、いつものように「はよ」と短い挨拶が返ってくる。

 でも、今日は何だかそれだけだと寂しいなと思ってさらに言葉を投げかけてみた。


「ね? 今日の髪形はどうかな? 昨日はおろしてたから、印象違うでしょう?」


 いつものおさげだけだと地味にしか見えないけれど、今の状態だとみんなにも可愛いと言ってもらえてる。

 だから、髪を下した状態を知っている久保くんはどう思うのかな?って疑問もあった。


「っぅえ⁉ そ、そりゃあ……可愛いに、決まってる……」


 私に質問されると思っていなかったのか、思った以上に驚く久保くん。

 しかも最後の方は声が小さくなって聞き取りづらい。


 でも、ちゃんと聞こえた。

 可愛いって言ってくれた。

 それだけでポッと心が温かくなる。


 やっぱりみんなに言われるのと違うなぁと思いながらも、「そっか、良かった」とだけ言って笑顔を返した。

 そして視線を自分の机の方に戻し前を見ると、少し驚いた表情のしのぶと目が合う。


「ん? どうしたの?」

「え? いや……美来の方から見た目の意見とか聞くのって珍しいなって思って」

「……そうかな?」


 聞き返しながら、自分でもそうかもと思った。

 可愛いと言われるのが普通だったから、あえて自分から聞こうとも思わなくなっていたし……。


 でも久保くんの意見は聞きたいと思ったんだよね。

 何でかな?

 また首を傾げるけれど、理由なんて全く分からなかった。


 そんな朝の騒がしい時間を過ごし、放課後にはまた忙しい生徒会の仕事だ。

 昨日の今日だけれど、あと少しで文化祭本番。

 サボってばかりはいられない。


 それに、昨日のアーチがどうなったのか心配でもあるしね。


 というわけで、今日も生徒会室に向かっているんだけれど……。


「何で奏も一緒に行くの?」


 そう、なぜか手伝いを頼まれているわけでもない奏が一緒についてきていた。

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