《月帝》と《星劉》の対立②
「え? あ……」
目の前の不良は私の髪を切ってしまった感触から少し冷静さを取り戻したのか、戸惑いの表情を浮かべる。
「あ、その……わりぃ……」
女の髪を切るなんて非道なマネには流石に罪悪感を覚えたのか、彼は謝ってくれる。
でも私はショックですぐには返事が出来なかった。
すると――。
「テメェら! 何やってやがる⁉」
「北校舎には行くなって言われてんだろ⁉」
聞き慣れた声が、聞いたこともないような怒声を室内に響かせた。
……明人くんと勇人くん?
見ると二人は丁度人だかりをかき分けてきたところだった。
「ん? 美来?」
「おい、どうしたんだ⁉」
二人が現れた時点で殴り合いのケンカは止まっていたため、すぐに私のところに来てくれる。
「あ、ううん。ちょっと髪切られちゃっただけだから」
ケガはしてないよ、と微笑んだけれど二人は顔色を変えた。
「だけ、じゃねぇだろ? 美来の綺麗な髪切るとか、ありえねぇんだけど」
「だな。切ったのは……テメェか」
「ひっ」
まだハサミを持っていたせいですぐに特定されてしまった不良。
でも一応謝ってくれたし、そこまで怒るようなことじゃない。
「大丈夫だよ。その人一応謝ってくれたし、それに切られたのだって少しだし」
「美来は優しいな」
勇人くんは優しい目で私を見る。
でも、視線を不良の方へ戻した時には怒りを宿らせていた。
「美来はそういうけど、こっちはそうもいかねぇんだよ」
「だな、元々はこいつらが如月さんの命令聞かねぇで北校舎で問題起こしたのが悪ぃんだし」
「……」
まあ、それもそうだ。
と思ったので、それ以上は黙ることにした。
髪を切られたのは謝って貰ったから良しと出来ても、アーチを壊したりこんなところでケンカをしたことはどう考えても簡単に許せることじゃないから。
「テメェら、覚悟しとけよ? 如月さんは容赦ねぇからな」
「【月帝】の奴らには悪ぃけど、こいつらは俺達が引き取るからな」
良いよな? と聞く明人くんに【月帝】の不良達は苦々しい顔をしながらも「さっさと連れてけ」と吐き捨てていた。
そしてアーチの状態を確認したりここで作業していた生徒達に謝ったりしている。
こういう光景は今までもチラホラ見た。
北校舎は【月帝】が、西校舎では【星劉】が見回りみたいな事をしていたんだ。
一応ナワバリというものがあるみたいで、そこではそれぞれ問題が起きない様に管理しているみたい。
初めて学校内に二つの暴走族が存在するって聞いた時はなんて学校だと思ったけど、こういう役割もあるみたいで共存しているらしい。
まあ、だからこそ今回【星劉】の不良が【月帝】のナワバリである北校舎に来たのはルール違反みたいなものなんだろう。
【月帝】の不良達が苦々しく思うのも分かる気がする。
「美来は大丈夫か? ついててやりてぇけど、こいつら連れて行かなきゃならねぇし……」
「大丈夫だって。それよりその人達早く連れてった方が良いでしょ?」
心配そうに聞いて来る勇人くんに笑顔で返していると、なっちゃんが「美来様」と近付いてきた。
「ごめんなさい、美来様なら何とか出来るんじゃないかと思って……。なのに髪を切られちゃうなんて」
泣きそうな顔で言うから慌てて「大丈夫だって」と返す。
すると今度はすぐ近くからも泣きそうな声が聞こえた。
「あ、わたしをかばったから……。ごめんなさい」
一年生かな?
震えてしまって……色々と怖かっただろうに。
私は肩を掴んだままだった一年の女子に出来る限り優しく微笑んだ。
「気にしないで、あなたにケガが無くて良かったよ」
「っ!」
すると彼女は私を涙の溜まった目で見つめる。
「……美来さま……」
「……」
ん?
あれ?
何だか、心なしか頬が赤くなってるような……。
「はぁ……美来、お前こんな時まで信者増やすなよ」
一部始終を見ていた勇人くんが呆れを含んだ声で呟いた。
信者って何⁉
私はいつどこぞの教祖になったの⁉
内心突っ込みながらも、どうしてこうなったのかよく分からなくて言葉に出せない。
「美来⁉ 何があったの⁉」
そのとき、今度は奏と一緒にしのぶが来てくれた。
ああ、そういえばしのぶと奏もこっちの大型装飾系の担当だったね。
そんなことを思いつつ、心配を掛けない様に笑顔を見せた。
「大丈夫。ちょっと髪切られちゃったけどケガとかはないから」
「髪切られた⁉」
心配させない様にと思ったけれど、髪を切られたと言った時点でしのぶは心配してしまったらしい。
言わなきゃ良かったかな?
でも見れば分かっちゃうしなぁ……。
「ああ、かなちゃんと……えーっと、美来の友達の」
次々と現れる人達に戸惑いつつ、勇人くんが声を掛ける。
「しのぶだよ。美来はもらってくね」
有無を言わせずにしのぶはそう言って私の手を引く。
「あ、ああ。頼んだ」
勇人くんは元々ついていられないと言っていたから、そう言って労わるような目で私を見送る。
私達の後について来たのは奏だけだった。
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