二人の総長②
「えっと……私他にも用事があるので急いでるんですけど……」
言いながら見た八神さんの顔には疲れが見えた。
なんて言うか、私をどうこうしたくて引き留めたって感じはしない。
二年前に比べると少し丸くなったように見える八神さんだけれど、基本的には強気な人だ。
それがこんなに疲れた表情をしてるなんて……。
何があったのかな?
さっき言い合いしてたのと関係あるの?
そんな疑問を抱いてしまったからか、疲れの見える彼を
手首を掴む腕を無理に振り払おうとはしなかった。
「そんなに時間取らせねぇから、ちょっとグチくらい聞いていけ」
「はぁ……」
グチって……。
なんでまた私に?
首を傾げているうちに、手首を離した八神さんは椅子を用意して缶コーヒーまで持ってきてくれた。
ここまでされたら何も聞かずに出ていくのも失礼な気がする。
「じゃあ、少しだけなら……」
そう言って椅子に座った。
渡された缶コーヒーはミルクと砂糖入りのもの。
八神さんはブラックコーヒーだった。
うん、イメージピッタリすぎる。
足を組んでブラック缶コーヒーを飲み、気だるげにため息をつく。
見た目は良いから本当に様になっていた。
それこそモデルとかが缶コーヒーのCMにでも出てるみたいなワンシーンに、私は少し見惚れてしまう。
「……飲まねぇの?」
「え? あ、飲みます」
聞かれて慌てて缶のタブを開けた。
口の中に広がる甘さにホッとする。
私、自分が思っていたよりも疲れていたのかも知れない。
まさか八神さんはそれに気付いて私を引き留めたとか?
「……」
いや、それはないか。
でも本能的に察知したとかならありそう。
八神さんってなんて言うか……野獣って感じがするし。
「……最近な、【月帝】の奴ら荒れてんだよ」
黙って缶コーヒーを飲んでいたら、ポツリと呟くようにグチがはじまった。
「そう、みたいですね」
私はさっき出て行った人たちの表情を思い出しながら返事をする。
絡まれはしなかったけど、親の仇でも見るような目で見られた。
「この間お前を襲った下っ端が退学になっただろ? そのせいで【星劉】の連中が勢いづいて【月帝】の奴らを下に見てんだよ」
「へぇー……え?」
私を襲った奴らって……あのリンチのとき、派手女子に連れて来られた奴らのことだよね?
ってことは何?
私が原因だったりする?
少し強張る表情を見て八神さんは少し慌てて弁明した。
「ああ、お前が原因じゃないから気にするなよ? 元々仲が良いわけじゃねぇし、最近は特に張り詰めてたからな。……一つのきっかけになっただけだ」
「……」
そうは言うけど、やっぱりきっかけにはなったってことだよね?
責任を感じるって程じゃないけど、ちょと気になってしまう。
「まあ、でもそういうわけだから【月帝】の連中は今お前に良い感情を持ってねぇ。俺や幹人とか幹部の奴らは大丈夫だが、下に行くほどガラも悪いし手も出やすい。……気をつけろよ」
「八神さん……」
もしかして、私を引き留めたのはこれを言いたかったから?
……多分、そうなんだと思う。
そこまで話した八神さんは、話は終わったとばかりに缶コーヒーをグッと飲み干したから。
缶コーヒーを飲み干した八神さんは立ち上がると私の頭にポンと手を置く。
「まあ、話はそれだけだ。それ飲み終わったら行っていいからな」
「……はい」
やっぱり八神さん、優しくなった?
二年前の印象と違い過ぎて戸惑ってしまうけど、これが今の八神さんなんだって受け止めないとね。
人は成長するし、過去は過去なんだし。
それに、八神さんは二年前のこと謝ってくれたし……。
それでも一番大事なファーストキスを奪われたから、まだ恨めしい気持ちはあるけれど。
そんなことを考えながら缶コーヒーを飲んでいると、八神さんがふと思い出したように「そう言えば」と話し出した。
「この間街でな、【かぐや姫】に会ったんだ」
「ぐふっ!」
突然の話題にむせかける。
なんでそれを私に話すの⁉
まさかバレて……?
いくら優しくなった八神さんとはいえ、私が【かぐや姫】だとバレたらどうなるか分からない。
だましてたのか?って思われるかもしれないし、今度こそ俺のものにするとか言われたらたまったものじゃない。
私は平穏な学生生活を送りたいのに、少なくとも八神さんが卒業するまで彼から逃げ続ける学生生活になってしまう。
やっぱりバレるのだけはダメだ!
そう決意して、感情が出やすいって言われる顔をあまり見せない様に下を見る。
「二年間、ずっと探してた。あんなところで再会できるとは思ってなかったけどな」
「……そうですか」
「会って、やっぱり俺は彼女が好きなんだって思ったよ」
「っ⁉」
スルリと出てきた言葉に思わず肩がビクリと震える。
え?
す、好き?
【かぐや姫】をって……つまり私を⁉
突然前触れもなく聞かされた言葉に動揺が隠せない。
「え? 八神さんって、【かぐや姫】のこと好きだったんですか?」
聞き間違いかもと思いながら確認してみる。
「あん? 当たり前だろ? じゃなきゃ二年間も探し続けてねぇよ」
少し不機嫌な声が下を向いたままの私に降りかかってくる。
「そ、そうなんですか……」
動揺が隠し切れるか分からない。
声にも現れてしまっている気がする。
そうか、八神さんって私のこと好きだったんだ……。
いや、俺の女になれとは言われたけどさ……。
でも二年前はちょっと会話しただけだったし、私の外見がそれなりに良いからアクセサリー感覚で言ってるものだと……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます