二人の総長①
そんなこんなで始まった文化祭準備。
私に与えられた仕事は主に連絡係だった。
仕事で散らばっている役員との連絡伝達や、各教室や先生に必要な書類を持って行ったりするらしい。
それ以外は生徒会室で書類整理などの手伝いと言われて、早速坂本先輩と二人きり⁉ とあせったけれど、基本的に他にも誰かしらいるらしいので大丈夫そうだ。
というわけで、文化祭まで二週間を切った今、私はこの広い校舎内を走り回っていた。
「先生! これ、ハンコかサインお願いします!」
「ん? ああ、生徒会の手伝いか。でも廊下は走ったらダメだぞ?」
「すみません、ありがとうございます!」
軽くサインを済ませた書類を受け取り返事をすると、私はまたすぐに走り出す。
走るなと注意されたばかりだけど、この広い校舎内は走らないと目的の人物にたどり着けないどころかすれ違いで会えなくなってしまう。
とにかく素早さが肝心だった。
本当に、こんな状態でよく去年まで手伝いも入れずに生徒会役員だけでやっていけたよね。
すみれ先輩の話では、記憶に残らないほど多忙で文化祭が無事に終わるとみんなで燃え尽きていたんだとか。
打ち上げ? ナニソレ?
って、乾杯する余裕すらないくらいだったとか……。
「正直な話、美来さんが手伝いに来てくれて本当に助かるわ」
そう言ったすみれ先輩は優しく微笑みつつも、その目には必死さが表れていた。
本当に去年までは悲惨だったんだろうな。
手伝うことで私にもメリットは一応あるし、すみれ先輩達の力になれているなら頑張ろうと思った。
***
「え? これを北校舎の第二音楽室に?」
渡された書類をどこに持っていくのか聞かされて、思わず聞き返した。
だって、北校舎の第二音楽室と言えば【月帝】のたまり場になっている場所だ。
聞き間違い? って思うのが普通だと思う。
「ああ。それと、こっちを理科準備室にお願いするよ」
「……」
しかも確か聞いたところによると、理科準備室は【星劉】のたまり場だったはず。
「えっと……間違ってはいないですよね?」
言い間違えるなんてことはないと思うけれど、どうしても信じられなくて書類を渡してきた坂本先輩に質問していた。
「ああ、間違ってはいないよ。本当は君にはあの二人とあまり会わせたくないんだけれど……人手が足りない上に結構急ぎなんだよね、その書類」
「そ、そうですか……」
私も《あの二人》とやらには出来る限り会いたくないんですけどね!
と思うけど、急ぎだというのなら仕方ない。
サッと行ってサッと置いて来るしかないか。
幸い、サインが必要な書類とかではなくて読んでもらうだけのものみたいだし。
ということで、今日も今日とて廊下を走る私。
途中で先生に見つかってすれ違いざまに叱られたけれど、ごめんなさい止まれません。
だって、急ぎとか関係なく第二音楽室と理科準備室ってほぼ真逆の位置にあるんだもの。
移動だけでどれくらい時間がかかることやら。
そんなわけで、第二音楽室についた私はドアの前で息を整えていた。
流石に一気にここまで走ってくるのは疲れる。
そうしていると、中の方が少し騒がしいことに気づいた。
遮音性に優れた音楽室だからかちゃんとは聞こえない。
でも、明らかにケンカをしているような声だった。
殴り合いとかはしていないようだけど……。
中に入りづらいこともあって、聞き耳を立ててしまう。
少しすると何かの言い合いがピタリと止み、シンとなる。
そしてドアの前に気配を感じたので、サッと慌ててよけた。
バンッ
勢いよく開けられたドアを見て避難しておいて良かったと思う。
出てきたのはいかつい不良達数名。
明らかにイラ立っていた。
彼らはすぐ私に気付いたけれど、ギロッと睨むだけでスルーしてくれる。
良かった、絡まれなくて。
胸をなでおろしていると、開け放たれたドアの向こう。
部屋の真ん中辺りで一人立つ八神さんの姿が見えた。
自然と閉まりそうになるドアを止め、様子を伺う。
「はぁ……面倒くせぇ」
大きなため息と共に吐き出された言葉には疲労がこもっていた。
なんとなく声を掛けづらかったけど、なかなか閉まらないドアを不審に思ったのかこっちを見る八神さん。
「あ……」
目が合って、どう話しかければいいのか迷う。
さっさと書類を渡していなくなるつもりだったけど、聞き耳を立てていたので何だか気まずい。
内容はよく聞こえなかったけれど、こっそり聞いていたのは事実だから。
そうしていると八神さんの方から話しかけてきた。
「……お前、何してんだ? とりあえずそんなとこ突っ立ってないで入って来いよ」
「え? あ、はい」
うながされてしまって、入るしかなくなる。
今書類渡してすぐいなくなれば良かったんじゃない?
返事をしてしまった後でそう思った。
でも中に入ってしまったからには仕方ないので、八神さんの近くに行くとすぐに用件を口にする。
「あの、この書類を持って行って欲しいと頼まれて……」
「ん? ああ、これか」
差し出した書類を見せるとすぐに受け取ってくれる。
「じゃあ、失礼しました」
だからすぐにそう言って去ろうとしたんだけど……。
「まあ待てよ」
と手首を掴まれて引き留められてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます