文化祭準備
秘密の共有
……どうしよう、この状況についていけない。
昼休み、いつも通り美味しい食堂のご飯に
そうしたら、明人くんと勇人くんに「用事があるからちょっとついて来てくれるか?」と言われて人気のない空き教室に連れて来られたんだ。
人気のないってところがあまりいい感じはしなかったけど、二人が変なことをするとは思えないし、何の用事なんだろうと不思議に思いながらついて来た。
すると部屋の中には先に奏がいて、用事というのをなんとなく察する。
【かぐや姫】のことを話すのかな?
明人くんと勇人くんはバラさないでくれるって約束はしてくれたし、ある程度の説明は一昨日した。
でもまだまだ疑問はあるだろうし、私達に聞きたいことでもあって呼び出したのかな?って。
でも、キッチリドアを閉めても何かを話す様子がない。
「ちょっと待ってくれよ? まだ久保も来るから」
どうしたのかと思う私に、勇人くんが教えてくれる。
やっぱり。
久保くんも来るっていうならみんなで聞きたいことがあるんだろうな。
そう思いつつ、じゃあ何で食堂から一緒に来なかったのかな? と疑問が残った。
でもその答えはすぐに知ることとなる。
少しして空き教室に入ってきた久保くんは一人じゃなかった。
何故か拘束された高志くんを連れてきていたんだ。
そして冒頭に戻る。
状況についていけない。
何で高志くんも連れてきたの?
何で高志くん腕縛られてるの?
何でこの状況で他の皆は普通の顔してるの?
疑問符が頭の上にいくつも浮かび上がる。
でもそれは高志くんの方が多かったみたい。
教室の中にいるメンバーを見渡して、訳が分からないといった表情をする。
久保くんが教室のドアをキッチリ閉めて「もう喋ってもいいぜ」と言うと、高志くんは主に久保くんを睨みつけて口を開いた。
「じゃあ腕の拘束も解け。話をするだけなら必要ないだろう?」
「いや、もうちょっとそのまんまでいてくれねぇ?」
「そうそう、話聞いておかしなことでもされたら困るからな」
睨みつつも冷静な様子の高志くんの願いに、明人くんと勇人くんがダメだと断る。
高志くんは久保くんからこっちの方に顔を向けて睨みつけてきた。
「じゃあさっさと話せ。何なんだ、星宮兄妹まで一緒になって」
と、今度は奏に視線を向け続けて私も睨まれる。
「え? いや、私も何が何だか……」
私が戸惑いを見せると、高志くんは「そうなのか?」と言って私を睨むのを止めてくれた。
そのことにホッとしていると、高志くんをそっちのけで勇人くんが私に説明してくれる。
「昨日あの後みんなで相談してさ、高志にも美来のこと知っておいてもらった方が良いんじゃねぇかってことになったんだよ」
「え⁉」
それって、わざわざこっちから高志くんにバラすって事⁉
驚いていると、反対側に立つ明人くんが追加の説明をした。
「美来、今日の放課後から生徒会の手伝い始まるんだろ? あの生徒会長の近くで仕事するんだろ? 事情を知る奴が近くにいた方が良いんじゃねぇかってことになってよ」
「あ……」
言われて、確かにと思う。
転校してきてから再会した坂本さんは一見優しい王子様という感じだ。
時折バレてるんじゃないの⁉って思うような視線を投げ掛けてくるけれど、基本は優しい生徒会長……のはず。
だから忘れていた。
彼の本性がどんなものか。
昨日説明するために彼のことも詳しく思い出した。
坂本さんは、妖しく艶めいた雰囲気を持つ人だったんだ。
そんな人とこれから一緒に仕事をしなきゃならない……。
万が一にでもバレたら二年前の二の舞になる気しかしない。
だから、そのための味方づくり。
「何なんだ? どういうことだ?」
納得する私と違って、意味が分からないという高志くん。
みんなはそんな高志くんを放っておいて私を見た。
代表するように、奏が口を開く。
「美来、とりあえず髪解いて眼鏡取れ。見せた方が早いからな」
「え?……まあ、奏が良いって言うなら良いんだけど」
私に地味な格好をしろと言った張本人が良いって言うんだ。
問題はないんだよね。
それに、確かに見せた方が早いと私も思ったから。
だから、私は両方のおさげを解き眼鏡を取る。
軽く頭を振ると、きつい三つ編みだった髪がサラリとストレートになった。
目を見開いて私を凝視する高志くん。
そのまま固まってる彼に、私は控えめに微笑んだ。
うっすら開いた唇が「【かぐや姫】?」と動くのを見た。
「えっと……うん、何かそう呼ばれてるみたいだね」
高志くんの驚きの表情がカァッと赤くなっていく。
あれ? もしかして怒っちゃった?
「あ、怒った? その、だますつもりじゃなかったんだよ? ごめんね?」
一応それだけは伝えておく。
でも、高志くんは赤い顔のまま首を横に振り「違う」とくぐもるような声で言った。
「怒ってはいないから、気にするな。これはその……ビックリしただけだ、多分」
そう言ってくれたあとも「何でこんなに熱いんだ?」とかぶつぶつ呟いていたけれど、とりあえず結果的にだましてしまっていたことを怒ってはいない様で安心した。
「見て分かったみたいだな。そう、美来が【かぐや姫】と呼ばれているらしい」
カラコンを入れているから目の色は違うけれど、【かぐや姫】としての素顔は一昨日見られているはず。
その姿を見せたことで私が【かぐや姫】だと理解した高志くんに、奏は淡々と話しかけた。
「高志、お前には美来が生徒会の手伝いをしている間、坂本生徒会長と二人きりにならない様にしてくれ」
「は……? え? 奏くん、話したことはなかったけれど……そんなキャラだったのか?」
話したことは無くても見たことは当然あったんだろう。
その見た目との違いに戸惑っているみたいだった。
でも奏はそんな高志くんにイラ立ったのか、チッと舌打ちをして眼鏡を取る。
「っ⁉」
前髪もかき上げ、私と同じ顔を見せた奏は不機嫌を隠しもせず高志くんを睨んだ。
「俺のこととかどうだっていい。人手が足りないから仕方なくお前に頼んでるんだ。早く答えろ、答えはハイかYESだ」
「……」
奏、それ選択肢になってない。
わざと言っているんだろうから言わないけど、了承の返事以外認めないなら頼んでるとは言わないんじゃないかな?
「え? えっと……ハイ」
でも戸惑っている高志くんはよく考えることが出来なかったのか疑問も感じてなさそうな様子で答えた。
なんか詐欺っぽいよ、奏。
「かなちゃん、それ詐欺じゃね?」
私と同じことを思ったのか、明人くんが少し呆れながら言う。
「少し前までの大人しくて可愛いかなちゃんはどこいっちゃったのかなぁ?」
なんて、勇人くんはわざとらしく泣きまねをする。
「ああ?」
そんな二人を睨みつける奏は本性を隠す必要がなくなったからか、かなりガラが悪くなっていた。
でも。
「奏、流石に今のは不良っぽい」
「あ、マジで? 悪い、気を付けないとな」
私が突っ込むと、基本不良嫌いな奏は少し落ち着いてくれた。
「は? 詐欺って……あ!」
言われるまで気付かなかったのか、高志くんは呟き驚愕の表情になる。
「でも言質は取ったからな。手伝ってもらうぞ?」
騙されたことに驚く高志くんに、奏はふふん、と鼻で笑い告げる。
そんなんだから詐欺って思われるんだよ……。
呆れるけれど、それが私のためだってことも分かっているから何も言えない。
せめて高志くんにあまり不利益にならない様にしようと思った。
でも、高志くんは怒るでも落ち込むでもなく「まあ、構わないけどな」と答える。
「元々千隼様と星宮さんをあまり二人きりにさせるつもりはなかったし」
「え? そうなの? どうして?」
「え……?」
私が疑問に思って聞いたはずなんだけど、高志くんはその私の質問に対して何故か戸惑いの表情を見せる。
「あれ? えっと……どうして、だろうな?」
「いや、私に聞き返されても……」
少し考えた高志くんは、改めて私を見て口を開いた。
「正直良く分からないが、とにかく君と千隼様を二人きりにしたくないんだ。……今の君を見たら尚更そう思った」
「はぁ……」
返答に困る。
「コラ高志。見つめ合ってんじゃねぇよ」
突然、久保くんが高志くんの首根っこを引っ張った。
「久保! 危ないだろうが⁉ それに見つめ合ってなんて……なんて……」
そう言う高志くんは顔をどんどん赤くしていく。
なんで? あ、もしかして首絞まっちゃってるのかな?
久保くん引っ張る力強すぎなんじゃない?
止めるために口を開こうとしたけれど、奏がこの場をまとめる様に言葉を放った。
「とにかくこれでコマ――味方が増えたな。これからよろしく頼むよ」
「……」
今コマって言ったよね?
久々に見る腹黒さ全開の奏に少し呆れのため息が出る。
とりあえず、高志くんの拘束そろそろ外してあげようよ。
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