二年前の記憶③

「もう! さっきから三人ともなんで私から目をそらすの⁉」


 不満に声を荒げるけど、ふとその理由に思い当たった。


「あっ……もしかして怒ってる?」


『は?』


 三人の声が揃って聞き返してくる。

 怒ってる様には見えなかったからすぐには思い当たらなかったけど……。

 今まで私は地味子の姿して【かぐや姫】だってこと隠してたって状況だ。

 騙してたって思われてるのかも知れない。


「ごめん。騙すつもりじゃ無かったんだよ? ちょっと事情があって地味な格好してただけで、転校してくるまで自分が【かぐや姫】って呼ばれてる事すら知らなかったから……」


「あ、いや。何か事情があったんだろうなってのは察してっから」

 勇人くんが視線を戻してそう言ってくれる。


「そうだよ。別に騙された何て思ってねぇから」

 明人くんも顔の向きを少し戻してちゃんと私を見てくれた。


「怒ってなんかいねぇから、気にすんな」

 久保くんもそっけない感じはあったけど、チラッと私を見ながら言う。


 ちょっとぎこちないけど私を見てくれた事で、その言葉が嘘じゃないって分かる。

 事情があったんだろうって察してくれるとか、気遣ってくれて嬉しく思う。

 だからホッとして笑顔を見せた。


「そっか、良かった。ありがとね」

『っっっ!!!』


 すると何故か三人は、揃って胸を押さえてうずくまってしまった。


「え? 何? どうしたの突然⁉」


 苦しそうな三人に慌てる。


「ぅぐっ、今の、不意打ち……」

 苦し気ながらも勇人くんが何か呟いてる。


「ヤバイ、心臓破けそう」

 心配しかない言葉を吐き出す明人くん。


「破壊力ハンパねぇ……」

 久保くんは何から攻撃を受けたんだろう?


「ちょっと、本当にどうしたの? 大丈夫?」


 なにが起こったのか分からない私は、そう声を掛けるしかなくて……。

 でもそんな私達に冷静な声が掛けられた。


「……余裕だな、お前ら」

「え? あ……」


 見ると、ヒンヤリとした冷たさを眼鏡の奥から漂わせ、呆れ交じりの口調をした奏がいた。


「遅いから少し来てみれば……お前らに頼んで本当に大丈夫なのか心配になってきたぞ?」


 その言葉はうずくまっている三人に向けられていた。


「……悪かったな、でも仕方ねぇだろ」


 そう言って何とか立ち上がったのは久保くんだ。


「え? かなちゃん?」

「マジでそんなキャラだったのかよお前」


 猫を被っていない奏を初めて見たのか、明人くんと勇人くんは驚きながら立ち上がる。

 奏はそんな三人を無視して、私に向き直った。


「とにかくさっさと行くぞ。今の姿の美来見られたら本気で面倒なことになりそうだからな」


 冷たい眼差しの中に心配そうな色を見て取って、私は「そうだね」と返事をした。

 そうして今度は四人に囲まれる形で第二学生寮に帰ってくる。

 少し狭くなるけれど、奏の部屋にみんなで入った。


「何も出さないわけにもいかないからな」


 と、奏はみんなに烏龍茶を出した。

 人数分のコップなんて置いてないから、湯呑みやマグカップだったりとまちまちだったけれど。


「それで? まずは美来、カラオケ出てから何があったんだ?」


 聞きたいことは沢山あるだろうけど、まずは現状把握をしたいらしい。

 さっきあったことを聞かれた。


 私は三人に補足してもらいながら簡単に説明する。

 八神さん達と会ったこと。

 何故か追いかけられて逃げ回ったら南校の“暴走族”の総長たちに会ったこと。

 そしてまた八神さん達に追われて、久保くんに助けられ、双子にバレた所までを話した。


「で? 何で服が変わってるんだ?」


 主に銀星さんの事についてはぼかしたせいか、そこを突っ込まれてしまう。

 でも気付かれてしまったからには話さないわけにはいかない。


「あー……えっとね」


 仕方なく、嫌々ながら話し出した。

 本当は思い出したくもないんだけど。


 銀星さんに会って、服を着替えるやり取りがあって。

 そして服の代金の代わりにラブホ連れ込まれそうになったから逃げようとしてたら、みんなに会ったんだと話す。


「美来……お前。だからいつも言ってるだろ? 人を簡単に信用するなって。特に男は!」

「うっ……別に信用してたわけじゃ無いし……」

「ホイホイついて行ってる時点で変わらないだろ」


 呆れのため息を盛大に吐き出す奏に、明人くんが「そうだよ!」と不機嫌をあらわに同意する。


「その結果キスまでされて泣かされたんだぞ? マジでついて行く人間は選べよな⁉」

「は?」

「あ、そ、それは言わなくても……」


 明人くんの言葉を慌てて止めようとしたけれど、もうその言葉は彼の口から出てしまった後だ。


「美来、お前泣かされたの?」


 感情のこもっていなさそうな、淡々とした声。


「う、うん……」


 嘘をつくとバレたときが怖いので、そこは正直に答えた。


「そうか……」


 と呟いて、一度目を閉じる奏。

 その目が開けられると同時に頬や口元がニッコリとした笑顔を作った。


「その高峰銀星とかいうクソ野郎のこと詳しく聞かせてもらおうかな?」


 ビュオオォォォ……と、ブリザードが吹いた気がした。

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