銀の総長②

 私を探す人たちの声もどんどん離れていき、少しホッとする。

 そうして連れて行かれた先にあったのはアパレルショップだった。

 ちょっと派手目な若者が好きそうな店で、私の好みじゃなかったけれど。


「ここ、知り合いの店だから。適当なの選べよ」


 でも一応親切で連れてきてくれたんだろう。

 それに好みじゃなくても丁度良さそうなものもあるかもしれない。


「あの、ありがとうございます」


 だからお礼を言ったけれど、彼は意味深な笑みを浮かべるだけだった。

 何を考えているのか分からないけれど、とりあえず服を選ぶ。

 八神さん達とは少し離れられたみたいだけど、簡単に諦めてくれるようには見えなかった。

 ここは服も変えて私だってバレない様にするのが先決だよね。

 レディースものの辺りに行って品定めする。


「うーん……露出多いなぁ……」

「えー? そうかな? ここら辺は少ない方だと思うよー?」

「へ?」


 独り言に返事をされて驚いた。

 見ると、明るい茶髪をてっぺんでお団子にして、派手な化粧をしている女の子がいた。

 首からネックストラップを下げて名札を付けているからここの店員らしい。


「ほら、この辺りなんて似合うんじゃない? あなたカワイイから何でも似合いそうだけど」


 そう言って勝手に私の服を見繕い始める。


「え? あの、自分で選びますから」

「良いから良いから、銀星ぎんせいが連れてきた子を一人で放っておくわけにはいかないからさ」

「銀星……さん?」

「そう。って、名前も知らないのに一緒に来たの? あの銀髪の男の名前だよ」


 と、ここに連れてきてくれた銀髪美人――もとい、美男子さんを指差した。


 銀星さんって言うんだ。

 名前に銀があるから銀髪にしてるのかな?


 なんて感想を抱いた。


「いや、ちょっと色々あって……私が服着替えたいって言ったらここに連れてきてくれただけなんです」

「色々って……服が汚れたとかってわけじゃなさそうだけど?」

「え? えっと……ちょっと変装する必要があって……」


 ぐいぐい聞いて来る彼女に、言うつもりのないことまで口に出してしまう。

 でもアパレルショップ店員のスキルなのか、ぐいぐい来るわりに押しが強いって感じはしない。

 だからついうっかり言ってしまったんだけれど。


「えー変装? 何それ面白そう!」


 何故か自分のことのようにワクワクし始めた店員さんに、「化粧とかしなくていいの? 髪型は?」なんて聞かれて「いえ、今の状態が変装なので……」と素直に話してしまう。


「今の状態が変装って、普段はどんな格好してるのよ?」

「……それはノーコメントで」


 そう言って目をそらす。


「なんかあなた面白いね、カワイイし好きだなー。ね? 名前なんていうの? 私は沢井さわい遥華はるか。遥華って呼んでね?」


 遥華さんはそう言って自分の名札を見せてくれる。

 タイプとしては奈々に似てるけど、もっと強くてグイグイきてサバサバしてる感じ。

 まあ、嫌いじゃないなって思った。


 だからかな。

 今初めて会ったばかりなのに警戒心がまるで湧いてこない。


「私は星宮美来。美来って呼んでください」

「美来ね。名前までカワイイ」

「それを言ったら遥華さんだって」


「んー敬語もナシにしない? 年あんま変わんないでしょ? 私高2、美来は?」

「あ、私も高2」

「同級じゃん! ほら、敬語はナシね」


 何だか遥華のペースに呑まれてる。

 でも、それを嫌だと感じさせない遥華は凄いな。


「分かった。……遥華のクラスってどこ? 学校でも会えるよね?」

「ん? 多分会えないよ? 私南校だし」

「へ?」


 普通に同じ学校だと思ってクラスを聞くと、まず学校が違うと言われた。


 そ、そっか。

 そういうこともあるんだ。


 私達の学校の方が生徒数多いからあまり考えてなかったけれど、この地域にはもう一つ南校っていう高校があったんだっけ。

 南校は本物の“暴走族”がいるってだけのイメージだったから、他に普通の生徒がいるってことを失念してた。


「そうなんだ。……あれ? でも何で遥華は学校が違うって分かったの?」


 見ただけで分かるような特徴でもあるんだろうか?


 不思議で聞くと、「そりゃあ分かるよ」と笑われる。


「南校って不良校って言われるくらいの学校だよ? 美来みたいな子がいたらすぐに有名になるし食われちゃうよ」

「……そうなんだ」


 いや、暴走族がいるとは聞いてたけど……まさか不良校とまで言われてるなんて。

 あんまり近づきたくないなぁ。

 とは言え、遥華のことは好きなので個別に会う分には良いよね。


「っと、早く決めないと。銀星イライラし始めてる」

「え?」


 言われて銀星さんの方を見てみると、確かに眉間にしわが寄っている様に見えた。

 一応待たせてる状態なので、確かに急いだほうがいいかもしれない。


 八神さん達もいつ追いつくか分からないしね。


 そうして遥華と二人で選んだ服は肩だしトップスとダメージ加工のされたジーンズだった。


 急ごうということで遥華にピックアップしてもらったものの中では肩だしタイプが一番無難だったんだ。

 他は胸元がかなり開いてたり、へそ出しだったり。

 そして今はいてるボトムスだと合わないということで急遽このジーンズもということになった。


「うぅ……余計な出費が……」

「え? お金はいらないよ?」


 着替えて財布を取り出そうとしていると、遥華が不思議そうに言った。


「え? 何で?」


 こっちが不思議がるところだよ。


「銀星が連れてきた子の服は銀星のツケになるから」

「ええ⁉」

「あいつもそのつもりだったからこの店に連れてきたんでしょ? ありがたく貰っときなって」

「そういうわけにいかないよ⁉」

「まあ、その辺の交渉は本人にして頂戴。待たせすぎてマジでイライラしてきてるから早く行った方がいいよ」

「ええ⁉」


 戸惑いの声を上げたけれど、確かに本人に言うしかないだろう。

 もしかしたら私の服を支払ってくれるつもりはなかったのかもしれないし。

 そうしたら戻って支払えばいいだけだ。

 そう思いなおして、私は銀星さんのところへと戻った。


「すみません、お待たせしました」


 小走りで近寄ると、彼は組んだ腕を人差し指でトントン叩いていた。

 表情もムスッとしていて、あからさまに態度が悪い。


「おせぇんだけど……。しかもなんだよそれ、露出少なくね?」

「へ?」

「お前胸結構あるみたいだしさぁ、谷間出すようなの選べばよかったのに」

「……」


 えっと……まず言わせてほしい。

 ドン引きである、と。


 さっき会ったばかりの相手に何を言ってるんだろうこの人は。

 やっぱり誰かさんを彷彿ほうふつとさせる人だ。


「えーと……この服の支払い、あなたのツケだって言われて払わせてもらえなかったんですけど、そんなわけないですよね?」


 とりあえず変態発言は聞かなかったことにして、今一番大事なことを聞くことにした。

 違うと言ってもらえればすぐに払いに戻るつもりで。

 でも、銀星さんは「俺のツケに決まってんだろ」と普通のことのように言う。


「俺が連れてきた女の服ぐらい払うっての。逆に自分で払おうとすんな、俺がカッコ悪ぃだろうが」


 と返されてしまった。

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