休日の失敗③

「ほら美来、あーん」

「え? これもくれるの? ありがとう!」


 香が差し出してくれたマロンケーキを一口いただく。


「んー!」


 瞬時に感じるマロンクリームのなめらかさと香り。

 砂糖の甘さより素材の甘さが際立つ舌触りにとろけてしまいそうになる。


「美来、こっちもあげるよ? はいあーん」


 マロンケーキを食べ終えたころを見計らって、今度は奈々がチョコレートケーキを差し出す。


「ホントに? ありがとう!」


 そしてチョコレートケーキもパクリ。


「んー! うん!」


 甘すぎないビターなチョコソース。スポンジはフワフワ。

 そしてそれらをまとめて包み込んでくれるチョコホイップクリーム。


「ひあわせ(幸せ)……」


 おすすめだと連れて来られたカフェ。

 種類は少ないけれどパスタも美味しかったし、デザートのケーキは迷ってしまうくらい。

 と言うか、実際に迷ってしまい香と奈々が分け合おうと言ってくれたので今に至る。


 なんだか“あーん”してもらう度に奏が微妙な顔をしてるけど、別に相手は女の子なんだから問題ないよね?

 確か前にそう言ってたよね?

 異性はダメだって。

 だから女の子なら今まで通り大丈夫ってことでしょ?


「美来……マジ可愛い」

「ねー。私達もファンクラブ入っちゃおうか……」


 二人が私を挟んでそんなことを言っている。

 今の地味な格好でもそんな風に言われると思っていなかったから何だか不思議な気分だ。

 すみれ先輩はちょっと特殊なだけかと思ってたから、それなりの人数が集まるくらいのファンクラブが出来てると聞いたときは本気でビックリしたもの。


 でもとりあえず今は。


「二人には入ってほしくないなぁ……」


「え? ダメなの?」

「ファンになられるの、嫌?」


 ちょっとショックを受ける二人に「うん」と答える。

 でもさらにショックを受ける前に続けて言った。


「だって、香と奈々は友達でしょ? ファンってなんだか友達より遠くなっちゃう感じがするから……」


 と言い終わる頃にはそれぞれ肩をガシッと掴まれる。


「分かった、ならない」

「美来は友達だもんね。友達!」


「そう? 良かった」


 二人の意志を変えてもらうことになるから、少しは不満に思われるかもと思ったのに全くそんな様子はない。

 そのことに安堵して心からの笑顔でそう言った。


「え? 何? ホント可愛い。おさげがうさ耳に見えてきた」

「分かる分かる! あれでしょ? 耳の垂れたロップイヤーって種類の!」


 何やら私を飛び越えて盛り上がっているけれど、友達として仲良くしてくれるなら問題ないよね。

 良かった良かったと思いながら私は自分のレアチーズケーキを口に運んだ。


「うん、思ったよりサッパリしてておいしー!」


 スフレチーズケーキとは違って重めなタイプのケーキだけれど、フランボワーズソースの酸味が効いてるのか想像してたよりサッパリしている。

 後味もフランボワーズの香りが残る感じで、一緒に頼んだ紅茶にこれまた合う。


 おすすめしてもらって良かった。

 また来よう。


 そう決めながらケーキを口に運んでいると、目の前に座る奏としのぶの姿が見える。


「ああ、私の美来が……友達出来て良かったね」


 目を潤ませてしのぶが言うと。


「俺達の美来も成長したってことだよ」


 と奏が合わせる。


 ……何この小芝居。


 よく分からないけど、二人が楽しいなら良いや。

 そんな感じで昼食とデザートを堪能たんのうした私達はカラオケへと流れていった。

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